第75回トニー賞、ミュージカル作品賞
は『ア・ストレンジ・ループ』、演劇
作品賞は『リーマン・トリロジー』 
『MJ』のマイルズ・フロストがデビュ
ー作にしてミュージカル主演男優賞を
受賞

2022年6月13日(日本時間)、アメリカ演劇界で最も権威のある祭典として知られる『第75回トニー賞授賞式』がニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催され、WOWOWでは、世界のトップスターたちの歌とダンスのパフォーマンスを含め、華やかな授賞式の模様を生中継、ライブ配信を行った。
この度、受賞結果についてWOWOWのオフィシャルレポートが届いたので紹介する。
ミュージカル作品賞は2020年のピュリッツァー賞で戯曲賞を受賞し、最多11部門ノミネートの『ア・ストレンジ・ループ』、ミュージカル・リバイバル作品賞をオリジナル作品から登場人物の性別を一部入れ替えて制作された『カンパニー』が受賞。
ミュージカル作品賞『ア・ストレンジ・ループ』 /GettyImages-1402559120
演劇作品賞はアカデミー賞監督のサム・メンデスが演出を務め、リーマン・ブラザーズの誕生からリーマン・ショックによる崩壊までを3人の俳優だけで描いた『リーマン・トリロジー』が受賞。また、演劇リバイバル作品賞は、様々な背景を抱える選手たちが集う野球チームの舞台裏を描いた『テイク・ミー・アウト』が受賞した。同作には日本人ピッチャーの役で出演していた日本人俳優ジュリアン・スィーヒも授賞式に出席しており、受賞が決まると関係者と共にステージに上がり、喜びを分かち合っていた。
『テイク・ミー・アウト』 /GettyImages-1402555200
『テイク・ミー・アウト』 (後列左から2番目)ジュリアン・スィーヒ /GettyImages-1402560277
そして授賞式終了後、ジュリアン・スィーヒからWOWOWに「トニー賞を受賞した作品に日本人役で出演できた事を光栄に思っています」と喜びのコメントが到着した。
前回(第74回)の授賞式が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2021年秋にウィンター・ガーデン劇場(ニューヨーク)での実施という変則的な開催となったが、今年は例年通りのスケジュールで、開催場所もラジオシティ・ミュージックホールに帰還。今年のアカデミー賞で助演女優賞(『ウエスト・サイド・ストーリー』)に輝き、2018年には『サマー』でトニー賞(ミュージカル助演女優賞)にノミネートされているアリアナ・デボーズが司会を務めた。
アリアナ・デボーズ /GettyImages-1402546502

日本のWOWOWのスタジオでは井上芳雄と宮澤エマがナビゲーターを務め、ゲストとして中川晃教・花村想太(Da-iCE)、亀田誠治、そしてミュージカル演出部門でトニー賞に2度ノミネートされた演出家のマイケル・アーデンが出演した。
井上芳雄・宮澤エマ「トニー賞授賞式」

司会のアリアナは、オープニングパフォーマンス「This Is Your Round Of Applause」を披露し、会場はスタートから大いに盛り上がり、いきなりスタンディングオベーション。アリアナはコロナ禍から少しずつ賑わいを取り戻しつつある演劇界について「ジェットコースターのようなシーズンであり、バラバラだった2年の時を経て、カンパニーが再会したシーズンでした」と評し、さらに今年のノミネーションについても、劇作家を目指す黒人の青年を描いた作品、登場人物の性別を一部反転させて入れ替えた作品などが注目を集めた。そして性的マイノリティであることを公表している候補者が増えている点にも触れ「インクルージョン(包括)が進んでいます」とコロナ禍という厳しい状況に見舞われつつ、演劇界が“前進”していることを強調する。
アリアナ・デボーズのオープニング・パフォーマンス /GettyImages-1402545537
その後も、ミュージカル作品賞候補となっている作品を中心に次々とパフォーマンスが披露された。
『ザ・ミュージックマン』からはミュージカル主演男優賞にもノミネートされたヒュー・ジャックマンとミュージカル主演女優賞候補のサットン・フォスターがマーチングバンドを従えて「76 Trombones」を披露し、軽快なステップで会場を沸かせた。
ヒュー・ジャックマン(『ザ・ミュージックマン』) /GettyImages-1402553363
同じくミュージカル作品賞候補で“キング・オブ・ポップ”マイケル・ジャクソンの半生を描く『MJ』のパフォーマンス紹介では、マイケルの子どもたちであるプリンス・ジャクソンとパリス・ジャクソンがプレゼンターとして登場。これがデビュー作となった主演のマイルズ・フロストがマイケルのヒットナンバー「The Way You Make Me Feel」と「Smooth Criminal」のパフォーマンスを披露し、華麗なムーンウォーク&ゼロ・グラヴィティも見せ、喝采を浴びた。
パリス・ジャクソン、プリンス・ジャクソン /GettyImages-1402549548

ミュージカル主演男優賞マイルズ・フロスト『MJ』 /GettyImages-1402551587
また『ミスター・サタデー・ナイト』からのパフォーマンスでは、主演のビリー・クリスタルが、観衆に呼び掛けてライブさながらのコール&レスポンスを行ない、ブロードウェイが日常を取り戻している様子“Return to the Normal”を強く印象付けた。

『ウエスト・サイド・ストーリー』、『スウィーニー・トッド』、今年の作品賞ノミネート作『カンパニー』などの名作の楽曲や歌詞を手がけ、昨年91歳で惜しまれながら他界した作詞・作曲家スティーヴン・ソンドハイムの追悼パフォーマンスでは、彼の作品に数多く出演してきたバーナデット・ピーターズが『イントゥ・ザ・ウッズ』より「Children Will Listen」を披露。日本のスタジオの井上は「染み入るようなソンドハイムの詞とバーナデットの歌声を聞いて……“いなくなっちゃったんだな”というのをしみじみと感じました」と語っていた。
今年の授賞式のパフォーマンスで一番の歓声を浴びたのが『パラダイス・スクエア』の主演女優で「Let It Burn」を披露したジョアキーナ・カラカンゴ。クライマックスでは涙を流しながら、力強い歌声を響かせる圧巻のパフォーマンスで、会場はスタンディングオベーションで彼女を讃えた。
ジョアキーナ・カラカンゴ (ミュージカル主演女優賞)  写真:ロイターアフロ
日本のスタジオでは、冒頭から井上と宮澤が、『MJ』でパフォーマンスされている、「Beat It」「I'll Be There」の2曲で構成された『MJ』オマージュメドレーを披露。さらに今年の10月、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にてWキャストでフランキー・ヴァリを演じるゲストの中川晃教と花村想太(Da-iCE)が、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』より「Can’ t Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」を明るく歌い上げた。
最多受賞は演劇作品賞、演劇演出賞(サム・メンデス)、演劇主演男優賞(サイモン・ラッセル・ビール)、演劇照明デザイン賞、演劇装置デザイン賞の5冠に輝いた『リーマン・トリロジー』。そしてミュージカル装置デザイン賞(バニー・クリスティ)、ミュージカル助演女優賞(パティ・ルポーン)、ミュージカル演出賞(マリアンヌ・エリオット)、ミュージカル助演男優賞(マッド・ドイル)、ミュージカル・リバイバル作品賞と、同じく5冠に輝いた『カンパニー』。
演劇主演男優賞は『リーマン・トリロジー』の主演3人を含む7人がノミネートされたが、『リーマン・トリロジー』からサイモン・ラッセル・ビールが受賞。ビールは共演のアダム・ゴドリー、エイドリアン・レスターの存在に触れ「みなさんを代表して、この賞を受け取ります。トロフィーは家に持って帰るけどね(笑)」とユーモアを交えつつ、感謝を口にした。
マイルズ・フロスト (ミュージカル主演男優賞)  写真:APアフロ
マイケル・ジャクソンの半生を描く『MJ』の主演マイルズ・フロストは、高校の学園祭で披露したマイケル・ジャクソンのパフォーマンスがYouTubeで人気を集め、本作への出演が決まったという異色の経歴の持ち主で、本作がプロとして初めての舞台。同じくジャクウェル・スパイヴィー(『ア・ストレンジ・ループ』)もこれがプロとして初のステージであり、共にデビュー作でいきなりトニー賞ノミネートという快挙を成し遂げた。同部門には『ザ・ミュージックマン』のヒュー・ジャックマンもノミネートされており、誰が受賞するか注目を集めたが、圧巻のパフォーマンスを見せたマイルズ・フロストが受賞。壇上でフロストは「ママ、頑張ってここまで来たよ!」と自身を育ててくれた母親への感謝を口にし、さらに黒人の子どもたちに向けて「夢はうし、僕も応援してる。みんなで支え合っていこう。マイケル・ジャクソンであれば『Heal the world with Love.(愛をもって世界を救おう)』と言ったでしょう」と呼びかけた。『MJ』は同賞に加え、ミュージカル音響デザイン賞、振付賞、ミュージカル照明デザイン賞の計4冠に輝いた。
ミュージカル主演男優賞マイルズ・フロスト『MJ』 /GettyImages-1402551911
ミュージカル主演女優賞は、授賞式でのパフォーマンスでも圧巻の歌声を響かせたジョアキーナ・カラカンゴ(『パラダイス・スクエア』)が初受賞。一方、ミュージカル助演女優賞に輝いたパティ・ルポーン(『カンパニー』)は、過去に2度、ミュージカル主演女優賞に輝いており、3度目のトニー賞受賞(※ミュージカル助演女優賞は初)となった。
日本のスタジオから授賞式を見守った井上は、コロナが明けて、少しずつ元気を取り戻し、それが表現され始めているのを感じました」と分析。特にミュージカル主演女優賞に輝いたジョアキーナ・カラカンゴの圧倒的なパフォーマンスとスピーチに触れ「彼女が言った『どんな状況でもベストパフォーマンスをする』という気持ちが伝わってきました。“ニューノーマル”に向かっているんだなと感じました」と語った。
宮澤も「レジェンドから新人まで」と受賞者の多彩な顔触れに言及。また司会に加えてパフォーマンスでも大活躍を見せたアリアナ・デボーズを称え「コロナで2年間、直接、拍手を受けることができなかった人たちが、今日、思い切りその瞬間をエンジョイされていたんだなと思います。ブロードウェイの底力を見せつけてくれました」と語った。

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