THE MAD CAPSULE MARKET'Sが
ロックの十分条件を
満たしていたことを証明する
中期の傑作『SPEAK!!!!』

『SPEAK!!!!』('92)/THE MAD CAPSULE MARKET'S

『SPEAK!!!!』('92)/THE MAD CAPSULE MARKET'S

先週7月20日、上田剛士のソロユニット、AA=がコンセプチュアル・アルバム『story of Suite #19』通常盤と、ライブ映像作品『LIVE from story of Suite#19』をリリースした。『story of Suite #19』通常盤は、2021年にスペシャルグッズが同梱されてオンラインで発売された作品のCD部分のみ。『LIVE from~』は、その『story of Suite #19』を完全再現した2022年2月のライブパフォーマンスを収録したものだ。上田剛士が現在も唯一無二の音楽性を貫き続けているアーティストであることは、今回リリースされた2作からも伺い知れることころである。今週はそんな彼の前身バンドと言えるTHE MAD CAPSULE MARKET'S中期のアルバムをご紹介。

キャッチーで堂々としたメロディー

ロックミュージックの十分条件というものがあると思う。それは人によって意見が分かれるところもあろうが、ロックであるためにこれは欠かせないというものは確実に存在している。THE MAD CAPSULE MARKET'S(以下、MAD)というバンドにはそれが確実にあったし、つまりはロックの十分条件を満たしていたバンドだったと言える。とりわけ彼らの3rdアルバム『SPEAK!!!!』はそれがよく分かる、条件を満たした作品になっているのではないかと考える。本作を1枚通して聴いたのは間違いなく今世紀になって初めてだったが、久しぶりに聴いてみたところ、折り目が正しい…というと、だいぶ語弊があるだろうが、“ちゃんとロックしているアルバムだなぁ”という印象を強く抱いた。何を指してそう感じたのかを以下に記したい。

もう20年以上前の話になるが、その時ですらすでにベテランと呼ばれるに十分なキャリアだった、とあるロッカーにインタビューした時のこと。どういった話の流れだったのかは失念したけれど、楽曲のメロディーの話になった際、その方が“ロックミュージックはメロディがキャッチーでなければならない”と仰ったことははっきりと覚えている。わりと厳ついというか、どちらかと言えば強面タイプではあったし、そのバンドも結構ハードな音を出す。そして、その方のボーカリゼーションも美声を聴かせるといった感じではなく、どちらかと言えば、シャウトで迫るタイプではあった。故に、キャッチーな歌メロを重視しているのは少し意外ではあったけれども、今思えば、そのバンドの作品は荒々しくも、歌の立っているものばかりだった。“なるほど”と感心もしたし、以後、“ロックミュージックはメロディがキャッチーでなければならない”は金言のように、筆者自身のひとつの基準としている。

で、MAD。『SPEAK!!!!』収録曲は実にキャッチーなものが多い。M1「マスメディア」から容赦なくキャッチーである。今世紀になって初めて聴いたと前述したけれど、一度通して聴いただけで、いや、正直に言うと、聴くより前に、歌詞を見ただけでそのメロディーが浮かぶほどに、歌の旋律が印象に残っていた。とにかくサビだ。サビがメロディアスであり、ポップである。♪頭の固いオッサンは取り残されて行く♪ 即、鼻歌が出る。とりわけ強烈なのはM4「権力の犬」だろう。MADは、[結成当初はザ・スターリン、BOØWYなどの影響を感じさせるパンク色が強かった]ということだが、このM4はそんな説明を待つまでもなく、BOØWYからの影響の濃さを感じるメロディラインではなかろうか([]はWikipediaからの引用)。BOØWYは聴いたことがあるがMADは聴いたことがない人に“これ、BOØWYの未発表曲のカバーなんだよね”とか言ったら信じそうではないか。ヒムロックも好みそうなメロディラインであるような気がする。♪Huu 権力の犬♪ これも即、鼻歌が出て来る。M4やM1ほどにインパクトはないけれど、M5「UNDERGROUND FACE」も見逃せない(聴き逃せない?)。パンクロックらしく、サビはリフレインなのだが、単に同じ旋律を数回繰り返すだけでなく、4回リフレインの4回目はちょっと抑揚を変えている。♪UNDERGROUND FACE♪だけでも耳に残るのだが、4回目でメロディが変化することで印象がより強くなる効果があるのだと思う。なかなか心得ている。もうひとつ注目はM12「GOVERNMENT WALL」である。これもBOØWYっぽいと言えば言えるのだが(当時の彼らがわざと似せたとかそういうことを言いたいわけではないのでその辺はご理解ください)、この楽曲はインディーズ時代のシングルの再録版だ。サビはもちろんだが、そこへ繋げるBメロがまたいい。アウトロ近くのメロディの聴こえ方も開放的ですらある。これだけのメロと構成のセンスがインディーズからあったということは、いかにMADのポテンシャルが高かったかが分かろうというものだろう。今、改めて聴いても、どれもこれも堂々としたメロディーだ。十分にロックである。

OKMusic編集部

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