誰もが知るおとぎ話に新解釈を~水嶋
凜・大野拓朗らが挑む17年ぶりのミュ
ージカル『シンデレラストーリー』観
劇レポート

2003年、誰もが知る『シンデレラ』の物語をベースに、子どもも大人も楽しめる作品として鴻上尚史が書き下ろしたミュージカル『シンデレラストーリー』。初演ではシンデレラを大塚千弘、王子を井上芳雄が演じ、2年後の再演では浦井健治が王子を引き継いだ。17年ぶりの上演となる今回は、シンデレラを加藤梨里香と水嶋凜のWキャスト、王子を大野拓朗が演じる。さらに、入野自由、彩吹真央、吉野圭吾、佐藤アツヒロ、ゆいP、まりゑ、川原一馬、和田泰右、Homer、夏目卓実、アン ミカと、さまざまな分野から、個性と実力を兼ね備えたキャストが集結。ウォーリー木下が演出を手掛け、夢と希望に満ちたハッピーなミュージカルを描き出す。
※ネタバレがございますので気になる方はご注意ください。

今回は、水嶋がシンデレラを演じた公演の様子をお届けしよう。
水嶋が演じるシンデレラは、初々しさがありつつどこか飄々としてのんびりした雰囲気。頼りない父親と意地悪な継母・義姉の間で苦労しながらも、意外とちゃっかりしたところのあるシンデレラのキャラクターとマッチしている。自らの境遇を理解しつつ、諦めずにチャンスを掴もうとする貪欲さもあり、“選ばれるのを待つ”だけのヒロインではないのが今風だ。19年前に書かれた作品ながら、多くの方の共感を得られるだろう。ポップな曲からロマンチックに聞かせる曲まで堂々と歌いあげ、可能性を見せてくれた。
また、大野演じるチャールズが“王子”という立場の不自由さに悩み、政略結婚ではなく真実の愛が知りたいと願う等身大の若者らしい苦悩を抱えているという裏柄が描かれるのも新鮮。大野は少年らしいピュアさや理想、苦しみを愛嬌たっぷりに表現。王子の境遇が分かることで彼がシンデレラに惹かれた気持ちも納得でき、二人を心から応援したいという気持ちになる。
笑いもふんだんに盛り込まれつつ、王子の悩みというシリアスなテーマで始まったストーリーをとびきりカラフルでポップに変えるのが、佐藤アツヒロ演じる継母・ベラドンナと、ゆいPとまりゑが演じる義姉たち。シンデレラを小間使いのように扱い、意地悪ばかりする彼女たちだが、思わず笑ってしまう言い合いや底抜けの前向きさ・勝気さで、憎み切れないキャラクターに仕上がっている。彼女たちの尻に敷かれるシンデレラの父の情けなさも相まってパワフルさが際立っており、迫力は満点。一人ひとりが強烈な個性を放っていながらも、三人揃った時のチームワークの良さ、掛け合いの楽しさも抜群。ひどいことばかりするが嫌いになり切れない、絶妙な魅力を放っている。
真面目な廷臣・ピエール(入野自由)、意外とお茶目でノリのいい王様(吉野圭吾)、ふわふわとしているようで鋭い王妃(彩吹真央)も魅力的で、『シンデレラ』の原作では見えてこない彼らの人となりや人生にもグッと心を掴まれる。王子に政略結婚をさせようと画策する彼らだが、それは国への想いや自らの経験があってのこと。ピエールは王子のお目付役兼友人のような立ち位置で彼を諭し、王様と王妃は国を率いる立場ゆえの厳しさを見せつつ親心も覗かせる。シンデレラと彼女の味方とは違う視点からも描かれることで、物語にさらなる深みが加わっていた。彼らの歌唱を堪能できるナンバーもあり、満足度も非常に高い。
シンデレラを見守り、王子との恋を応援するネズミたちの奮闘も見逃せない。シンデレラの家に住み着いているチュウ太郎(和田泰右)、チュウ1(Homer)、チュウ2(夏目卓実)は健気で可愛らしい。時には空回りしながらもシンデレラのために行動し、自分たちよりはるかに大きなものに立ち向かう彼らの姿に癒される。絵本のようにキュートなビジュアルとは対照的なダンス力を披露する場面もあり、多くのシーンで楽しませてくれる。お城に住むミスターマウチュ(川原一馬)は、同じネズミながら上品な雰囲気。衣裳はもちろん、ちょっとした台詞回しや身のこなしからも環境の違いを感じられるのが楽しい。何度か披露されるタップも見どころと言えるだろう。
アン ミカは、穏やかな話し方で神秘的な雰囲気の魔法使いを好演。時折混ざる関西弁や共にシンデレラを見守り助けるチュウ太郎やチュウ1・2とのやりとりがとっつきやすさも感じさせ、人間くささと愛嬌のあるキャラクターを生み出している。ストーリーにおける重要なシーンの楽曲も見事に歌い上げ、初舞台とは思えない貫禄で物語を盛り上げていた。魔法使いの過去も描かれたことで、シンデレラを助ける理由や12時に魔法が解けてしまう理由を「なるほど」と思わせるのが面白い。
シンデレラだけでなく王子や国王夫妻、魔法使いのエピソードも掘り下げられ、『シンデレラ』という物語を新たな視点で見たり、「自分はこう考える」と想像を膨らませたりできるようになっている。また、個性的すぎるキャラクターたちが集結することで、シンデレラと王子のピュアな恋、二人が心を通わせる過程が一層微笑ましく、キラキラと輝いて見えてくる。
リアルに考えたら避けては通れない問題に回答していくという言葉の通り、大人が改めてシンデレラを読んだ時に感じる「なぜこのキャラクターはこんな行動を?」「ここはどうなってるの?」にひとつの答えを提示してくれる本作。それでいて、子どもが観てもワクワクするだろうポイントもふんだんに盛り込まれている。リアルマジシャンRYOTA監修のマジックを使った演出は思わず「本物の魔法かも」と信じたくなるし、プロジェクションを使用したワクワクするような工夫もあり、舞台美術やセットと照明や衣裳が効果的に組み合わさった美しいビジュアルはおとぎ話の世界に迷い込んだような気分にさせてくれる。鴻上が目指した通り、“子どもから大人まで楽しめる”作品だと感じた。
また、高さと奥行きのあるセットや映像、照明がうまく使われ、実際の空間以上の広がりが感じられるウォーリーらしい演出がなされていると言えるだろう。武部聡志による王道ミュージカル曲からポップスまでさまざまな要素を盛り込んだ多彩な楽曲と斉藤由貴の詞、バンドによる生演奏も作品を彩っている。次々に曲調が変わるナンバーもあり、飽きのこない構成に惹きつけられる。メタなネタやキャストに合わせたセリフ・歌詞も多く、客席から何度も笑い声が上がっていたのも印象的だった。
本作は9月19日(月・祝)まで日本青年館ホールで上演されたあと、9月24日・25日に愛知公演、10月1日・2日に福岡公演、10月7日~10日まで大阪公演が行われる。また、東京・福岡・大阪ではアフタートークショーの開催も決定した。シンデレラと王子、彼らを取り巻く個性と魅力溢れるキャラクターたちの行く末は、ぜひその目で確かめてほしい。
取材・文=吉田沙奈

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