Ryohu 音楽家としての挑戦と、生活
者としてのリアルなメッセージ

ラッパー・Ryohuの2ndアルバム『Circus』がいい。2年前の1st『DEBUT』は客演なしなしで、自らが歩んできた人生、自分史を音楽で表現したアルバムだったが、今回は多彩なゲストを招き入れてバラエティ度がぐっと増した。YONCE(Suchmos)、佐藤千亜紀、IOKANDYTOWN)、オカモトショウ(OKAMOTO'S)、AAAMYYYTENDRE、Jeterという顔ぶれを見ただけで、とんでもないものになりそうだと思ったが、結果は期待のさらに上を行く。前作に続き、プロデューサーの冨田ラボらが素晴らしいトラックを提供している。音楽家としての挑戦と、生活者としてのリアルなメッセージがある。ラップもポップもバンドも越えて、多くの人の耳に届いてほしい生命力溢れる作品だ。
――前作とは打って変わって、客演を多く入れた華やかなアルバムになりましたね。
自分が(客演に)行くことは多かったんですけど、作品にここまでたくさんの人を迎え入れるのは初めてのことでした。今までのRyohuの感じとか、自分自身が思ってることを、相手にうまく共有できてないといけないなと思ったので、はじめましての人とは逐一話をして、テーマを伝えたりとか。友達とは、その人とやる意味だったり、今だからできることがあるので、過去があった上で今一緒にやる音楽は何だろう?って考えたりしました。最初からゴールが見えてたわけじゃなくて、なんとなく雰囲気を考えながら、そこは好みというか感覚で進めていったので、1stの『DEBUT』とは違って、“Ryohuです、どうも”という感じではなかったと思います。
――1stは客演なし、まさに“Ryohuです、どうも”というアルバムでしたけど、今回はかなりテイストが違う。
楽しかったですよ、作るのは。
――誰をどの曲に呼ぶのかは、どんなふうに決めていったんですか。
1stアルバムの1曲目「The Moment」という曲は、冨田さんの曲で、それまでメロディを作ってもらってそれを歌うということがなかったんで、なんとなく恥ずかしくて。誰か入れようかと思った時に、“YONCEが合うな”と思いました。でも作ってるうちに自分の半生を語る曲になっていって、結果的には自分で歌うことにして。そういうことがあったので、今回はYONCEとやりたいと思い、アルバムの最初の曲として作り始めたのが「One Way feat.YONCE」ですね。
――ああ、そういう伏線があった。曲も同じ冨田さんだし。
冨田さんには“今回はフィーチャリングを入れたい”と事前に伝えていました。その時はまだYONCEは確定してなかったんですけど、僕から直接連絡をして、快くOKしてもらいました。(人選は)そういう繰り返しですね。それぞれありますけど、佐藤千亜妃さんははじめましてで。
――「Cry Now feat.佐藤千亜妃」は、意外に思った人もいたかもしれないですね。組み合わせとして。
まず女性ボーカルをフィーチャリングに迎えたいなと思ったんですよ。その時に、たまたまきのこ帝国の曲が家で流れていて、声がすごくいいなと思いました。その後すぐに連絡を取らせていただいて。Jeterも同じ感覚でした。佐藤さんは女性ボーカルとして、Jeterは次世代の若いアーティストとして、という思いで。僕らの時代とは違う感じで表現してる人がいいと思って、僕からインスタグラムでDMしました。そんな感じで、パッと思い浮かぶ人と、常に近くにいた人と、あらためて一緒にやる意味がある人と、いろいろあって、スケジュール的にNGだった人もいるんですけど、ちゃんと今やるべき人とやったという感じかもしれないです。そういう、今までと違ったことも、こういうアルバムのコンセプトだったらできるのかな?っていうのはありました。
――千亜紀さんやJeterさんが一番新しい知り合いだとすると、一番古い付き合いはオカモトショウさんになりますか。
IOとショウが一番古いですね。
――二人だけで作った「Hanabi feat.オカモトショウ」は、どんな感じでした?
あれはまず、ズットズレテルズというのが大きなトピックとしてあって。10代から友達で、セッションとかしてきて、ズレテルズがあって、それぞれの活動があって、ショウはOKAMOTO’ Sをやって、自分はソロをやりながらKYANDYTOWNをやって。「NEKO」(OKAMOTO’ S)という曲に僕とMUD(KANDYTOWN)が参加したり、ショウのアコースティックライブにも参加させてもらって、5都市ぐらい回ったりとか。要所要所でショウとは、プライベートでも音楽のことでもやってることがあったから、ここでショウと一緒にやるのは面白いんじゃないかなと思って。個人的なことですけど、あらためて今、32歳とかで一回りした感じがあるんですよね。一回りしたから、今このタイミングでなんとなく思い返させるというか、だからこそこれからに繋がるんじゃないかなと思ったので。今(リモートでの取材中)、自分のスタジオにいるんですけど、レコーディングも全部ここでやりました。わりと勢いで作りましたね。
――お互いに成長したよなとか、そんな感じですかね。
10代から知ってる友達と、32歳になってまた音楽を一緒にやって、いろんな人に聴いてもらえる状況が、うれし恥ずかしというか、一周回って面白いなというか。友達っていう感覚が強いからだと思うんですけど、もちろん真剣にやってるんですけど、こっ恥ずかしさもあったりするんですよね。そもそも音楽を続けるのって大変じゃないですか。そういうことも含めて、今こうして自分たちができてることって、それぞれの努力はあると思うんですけど、あの頃から考えると“何か変な感じだよね”っていう。
■お金じゃ測れないものも大事だということをわかった上で、お金がなぜ大事なのかを考えるという、目的が明確になった。
――曲調とは別に、そのうれし恥ずかし感というか、友達の気安さというか、そういうものは曲に入ってると思います。あと、リリックで掘り下げたいところがいくつかあるんですけど、聞いていいですか。アルバムの1曲目「Money Money feat.Jeter」で、“お金と愛”というテーマについて歌ってて、《make money》というワードが出てくるじゃないですか。それって昔のヒップホップの感覚だと、もっとどぎついイメージになると思うんですけど、このリリックはそうじゃない。もっと等身大というか、堅実な感じがするんですよね。
お金って、ヒップホップではわりとわかりやすく出るテーマじゃないですか。貧困から這い上がってこんなに金を稼いだぜ、みたいな。僕もそれはかっこいいと思うんですけど、僕自身あんまりリアルじゃないというか、貧困から出てきてるわけじゃないし、だからといってお金に幸せを求めてきてるわけでもない。でも家族ができて、お金の考え方がちょっと変わってきたというか。子供のためにミルク代を稼がなきゃいけないとか、そこはすごくシンプルな理由で、それを純粋に思えただけというか。お金じゃない幸せというものを、いままでさんざん歌ってきたというか、わかってたというか、仲間とか音楽とか、お金では測れないものがすごく大事だと思ってきたけど、32になって、家族ができて、お金を稼がないとご飯を食べられないじゃないですか、というのも、すごくシンプルに思うことというか。
――そうですね。
そこは拭い去れない事実だから。お金じゃ測れないものも大事だし、音楽もそうじゃないよということをわかった上で、お金がなぜ大事なのかを考えるという、目的が明確になったというか、僕の場合。だから、その題材についてラップしてみようと思ったんですけど。そこにJeterが入ることによって、Jeter自身はお金より輝いてるものだと思っているというか、若いということは……ちょっと哲学っぽいですけど、若さって、みんなが持ってる才能なんですよ。全員が平等に。でもあるところを境に失うんです。それはお金には代えがたいし、どんなにお金を持ってる人たちも、若さは手に入れられない。それをJeterは持ってるから。対照的にというか、僕は「なんでお金が必要か」を歌って、若くて自由なJeterはお金を超えた存在価値を持っていて、そこにいるだけで素晴らしいというか。そういう比較も込めて、Jeterに入ってもらいました。

>>次のページでは、アルバムの最後を飾る楽曲「Thank You」に込めた思いと、今後の展望を訊いています。
■“ありがとう”のいい循環が起きるというか。大事なのは“許す”ということだと思うんです。
――さすがです。あと、単純に大好きな曲はラストの「Thank You」のリリックなんですね。
うれしいです。これは今僕が書くべきだと思ったので。
――“感謝”というテーマも、お金と同じように、年齢や経験で受け取り方が変わって来るじゃないですか。そのリアリティがすごくいいなあと思うので。
“ありがとう”についての僕の考え方なんですけど、すっごい簡単に言うと、循環というか。たとえば誰かが僕に対して何か良くないことを起こしてしまった時に、それを許すというか、“いいよ、平気だよ”と言うと、その人は“ありがとう”と言ってくれるじゃないですか。そこで“いや、だいたいお前はさ”とか言ってしまうと、“ありがとう”は出てこないんですよ。もしかしたら、そこは強い言葉で言ったほうがいいという考え方もあるかもしれないですけど、今は置いといて。その人は、やってしまったことを許されたことで、僕とは関係ないところでもっと頑張ったりして、今度は誰かに良くないことをされた時に、許してあげれば、相手は“ありがとう”と言う。そうやってどんどん回っていくというか、“ありがとう”のいい循環が起きるというか。大事なのは“許す”ということだと思うんですね。
――はい。なるほど。
『スラムダンク』って、読んだことありますか?
――いや、ごめんなさい、よく知らないんです。
僕もそんなに読んでないですけど、有名なセリフで、バスケのうまい不良の子がいて、いろいろ問題を起こして、泣きながら“もう一度バスケがしたいです”と言ってきた時に、そのチームの監督の“あきらめたらそこで試合終了です”という言葉が出てくるんですけど、それも“許し”だと思うので。仲間もそれを許して、迎え入れてあげる。そして活躍する。それも“ありがとう”の循環の一つだと思うし。みんなが彼を許して、その子が“ありがとう”と言って、頑張って、結果的にチームが強くなる。漫画の世界の話ですけど、一人じゃないというか。僕自身もKYANDYTOWNもありますし、今こうやって活動できてるのも、いろんな人が携わってくれているからで。深くなっちゃうんですけど、いわゆるわかりやすい“ありがとう”というよりも、憎しみを返す方向じゃなくて、許すことで“ありがとう”と言ってもらえる、そういう循環みたいなものが大事なのかなって。本当に大きな出来事だったら、許せないこともあると思うんですけど、ちょっとしたことで許せなくて、自分が嫌な気持ちになるんだったら、違うよなと思うんで。それは自分に余裕がないということだから。一周回って、人は自分を映す鏡じゃないですけど、起こってしまったことはしょうがないし、ぐらいの……まとまってなくて申し訳ないんですけど。
――いや、伝わってます。今の世の中でとても大事な思想だと思います。
でも本当にシンプルな“ありがとう”も大事ですよ。何かしてくれてありがとうということを、口に出して言う事も大事です。
――全曲解説になっちゃいそうなんで、ここらへんにしときますけど。話を聞いていると、歌詞に込めた思いの深さと、ポジティブな姿勢にあらためて感動します。そうかと思えば、「Cry Now」でしたっけ、「贈る言葉」のリリックをさらっと引用したりして、ニヤッとさせる技も見せたりして。
ああ、あれは流れで出てきたんですよ。《悲しみこらえ微笑むよりも》っていう、同じようなことを思ったことがあって、これってどこかにあったよなって調べたら、あ、「贈る言葉」だって。テーマにもハマってたし、逆に引用したほうがいいかなと思って。
――いいですよね。すごく耳を引く。
「Cry Now」は、ラップの感じとリリックの感じの塩梅がすごく気に入ってます。あれは、残された人たちに向けて書いたもので、僕自身も若い時に友達を亡くしたりとか、けっこうあったんで。死を悲しむというよりも、俯瞰するというか、悲しみは時間と共に消えて行くんですよね。5年10年経ったら、5年10年前のようには悲しめないんですよ。だからその瞬間は悲しんでいいんだよっていう、隠さなくていいんだよっていうことを伝えたくて。そういう意味ではポジティブだし、現実的にもそうだと思うんですね。人が死ぬ時の感情って、普通に暮らしてたら味わわない悲しみなんですよ。とても言葉にはできないですけど、悲しいという感情はそれぐらい大きいもので、逆にそれを味わうぐらいになれたら、それはいいことなんじゃないかなと。人が死ぬことはいいことではないですけど、その感情に嘘をつかないのはいいことだし、すごく大事なことなんじゃないかなって。人生の中で、そんな大きな悲しみってほかに感じる時がないから、ちゃんとそれを受け止めてあげるという、ただただ三日三晩泣き続けるのも良しだし、そこに嘘はついちゃいけない。強がって、大丈夫とか思う必要はない。それを感じられるか感じられないかで、人生観もたぶん違うと思うし。だから現実として言いたかったのは、悲しみが薄れていっちゃうのが一番悲しいことなんだよって。
■毎日いろんな人が曲を出してるし、その中でちゃんと残っていくためには、音楽をちゃんと作りたい。
――みなさん、こんなふうに、彼が1曲ずつに込めた思いを、想像しながら聴いてみてほしいです。きっとすごい発見があるアルバムだと思います。そして、リリースツアーが9月24日から始まります。7都市を巡って、ファイナルは12月2日の東京・恵比寿リキッドルーム。どんなツアーにしたいですか。
基本的には変わんないですけど、アルバムを踏まえて、いつも通り楽しんでやろうという気持ちと、恵比寿リキッドルームがあるんで、そこはより自分のショーというか、今やりたいことと今後やっていきたいことを、ライブだからこそ取り入れられるものは取り入れていこうかなと思います。
――今後ソロとして、やってみたいことはありますか。
今は曲を作りたいスイッチが入ってて、毎回そうなんですけど、1stアルバムができた時には、次のアルバムのコンセプトをもう決めてて。今回は初めて人と一緒にやって、なんとなくその善し悪しがわかってきたんで、次は1stアルバムのようなコンセプチュアルなものと、2ndアルバムのようなフィーチャリングアーティストやプロデューサーとか、人と一緒にやることの、いいとこ取りみたいな作品ができたらいいなと思ってます。いつになるかわかんないですけど。先のことはそれかなあと思います。
――頭にあるのは次の作品なんですね。5年後、10年後にこうなっていたいとかではなく。
まず音楽かなっていうところですね。僕自身がそういうタイプなんで。音楽をちゃんと作った上で、5年後10年後なのかはわからないですけど、それをちゃんと意味あるものにしたいというか、そうじゃないと流れちゃうじゃないですか。毎日いろんな人が曲を出してるし、その中でちゃんと残っていくためには、音楽をちゃんと作りたいなという、それに付随する動き方ができたらいいのかなって思います。

取材・文=宮本英夫

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