パンクロックの爆発的エネルギーを一
瞬にして体感できるセックス・ピスト
ルズの『勝手にしやがれ!!』

セックス・ピストルズを聴いて「バンドだ!」と楽器やマイクを手にした少年少女はたぶん、世界中に数限りなくいるだろう。気に入らないヤツを思わず、殴ってしまったり、家出してしまった人もまぁ、きっとたくさんいることだろう。鬱々とした気持ちを高速のスピードで吹き飛ばし、アクションを起こさせたバンドがピストルズである。ツンツンに立てた髪と安全ピンにビリビリに破けたTシャツ、N.Y.から飛び火したパンクロックをファッションとともに世界中に広めたバンド。爆発するエネルギーを体感できるのがセックス・ピストルズ唯一のスタジオアルバム『勝手にしやがれ!!』である。

セックス・ピストルズ

 ピストルズとの出会いは友達が持っていたこのアルバムだった。ジョニー・ロットンのように髪をツンツンに立てた彼は、このレコードをいかにも自慢げに袋にも入れず裸のまま抱えて学校に来ていた。「そのレコード、誰の?」と聞いたら、「めちゃくちゃカッコ良いんだよ」と貸してくれたのだが、それとほぼ同時期にテレビでピストルズのライヴ映像をたまたま目にして鳥肌が立った。スリーコードで駆け抜けていく痛快なサウンド、猫背気味にマイクスタンドを握りしめ、舌を出しながら目をむいて、吐き捨てるように変な英語の発音(コックニー訛りでわざと歌っているのだが、当時はそう思えた)で歌うジョニー・ロットン。テレビの前で「カッコ良い!!」と叫んだ。パンクロックはビート革命であり、新たなムーヴメントの誕生だったと思うが、個人的な当時の感想は「そうだよ。ロックってこういうものだったじゃん」ということだった。子供の頃、初めて聴いたロックは破壊的で「古いルールなんて関係ないぜ」と言わんばかりの気概に満ちあふれていたが、年月が経つにつれて、成熟していき、楽曲は高度にアレンジは複雑になり、その分、刺激は薄れているように感じていた。そんなときに出会ったのがピストルズだった。
 のちにピストルズが“パンクの女王”と呼ばれるヴィヴィアン・ウエストウッドとともにオープンしたロンドンのブティックのオーナー、マルコム・マクラーレン(ニューヨーク・ドールズのマネージャーだったこともあった)の手によって集められたメンバーであり、自然発生的に結成されたのではなく、プロデュースされたバンドであることを知るが、そんなことは正直、どうでもいいのである。楽器が下手クソだったことも、どうでもいい。ってか、上手かったから、逆にこの破天荒なエネルギーは生まれなかっただろう。彼らが作られたハリボテの人形だったら、キッズが楽器を手にするほど虜になるわけはない。メンバーはジョニー・ロットン、スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クック、グレン・マトロックで、途中で脱退したグレン・マトロックの代わりに加入し、21歳の若さでこの世を去るベーシスト、シド・ヴィシャスもあまりにも有名。のちの再結成は置いておいて、セックス・ピストルズは、さんざん音楽シーンを掻き回し、結成からわずか2年半で解散する。理由はアメリカツアーの失敗ともメンバーの不仲とも言われているが、この短期決戦の在り方もいかにもピストルズらしかった。

アルバム『勝手にしやがれ!!』

 1977年にリリースされ、全英アルバムチャート1位を獲得したアルバム。「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」、「アナーキー・イン・ザ・UK」などの物議を醸した大ヒット曲が収録されているが、ピストルズ初心者に向けては1曲目の「さらばベルリンの陽」のイントロやギターリフ、ジョニー・ロットンのヴォーカルスタイルを聴いて血が騒がなければ、他の曲を聴いてもピンとこないかもしれない。それほど、好き嫌いがハッキリするというか、全編3分前後の衝動的(メロはキャッチー)なナンバーが矢継ぎ早に飛び出してくる作品だが、バラエティーに富んでいるかといえば、まったく富んでいない。プロデュースはロキシー・ミュージックやプリテンダーズ、U2、サディスティック・ミカ・バンドなどを手がけたクリス・トーマス。ちなみに1976年にリリースされたデビューシングル「アナーキー・イン・ザ・UK」はテレビ番組に出演した際に“FUCK”という言葉を連発したため、とんでもないバンドが出てきたと大問題にーー。2ndシングル「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」は《女王陛下 万歳 女王は人間じゃねえ 未来はないぜ》という過激すぎる歌詞で放送禁止になり、ジャケットのタイトルが黒塗りにされたにもかかわらず、UKチャートの1位を獲得。エリザベス女王25周年の祝典の日にテムズ川ボートでゲリラライヴを行ない、逮捕され、ジョニー・ロットンとポール・クックはこの曲に怒り狂った人間に襲われてもいる。命を狙われる危険な事態は容易に想像できる曲なのである。後先なんて考えていない若者だからこその暴走なのか、それとも確信犯だったのか。ピュアを絵に描いたようなシド・ヴィシャス(10代だったし)の破滅的な生き方に対して当時のジョニー・ロットンは直情型というよりも、頭のどこかは醒めているシニカルなボーカリストに見えた。そこも含めてセックス・ピストルズはカッコ良いのである。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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