70年代〜のスカ/レゲエ界に
燦然と輝く
トロンボーン奏者
リコ・ロドリゲスの大傑作
『Man From Wareika』

『Man From Wareika』(’77)/Rico

『Man From Wareika』(’77)/Rico

4月に社会人になったばかりという青年と仕事をすることになり、いろいろ話した。中学生の頃、吹奏楽部に入っていて、トロンボーンとチューバを担当していたとか。今もトロンボーンは自室にあるものの、残念ながらずっとケースにしまったままだという。やりたい気持ちはあるというので音楽活動の再開を勧めたものの、青年は何をやったらいいか分からないとのことだ。試しにトロンボーンがらみというだけで選んだ音源をプレゼントしてみた。1枚はニューオリンズを代表するブラスバンド、ダーティー・ダズン・ブラスバンド、もう1枚がリコ・ロドリゲスの『Man From Wareika』(‘76)だった。翌日、嬉しそうな顔で社交辞令たっぷりに感想を伝えてくれたのだが、ダーティ・ダズン〜はともかく、リコ・ロドリゲスのほうはすご気持ち良かったのだけど、「あの♪ンッチャ、ンッチャ〜っていうリズム、なんて言う音楽なんですか?」と一瞬愕然とする回答があった。うーむ、Z世代ではもはやスカもレゲエも知らない者がいるのか…。というわけで、気を取り直して、この名盤を取り上げてみる。

『Man From Wareika』(‘76)はジャマイカ音楽(スカ/レゲエ)界最高のトロンボーン奏者のひとりと言われるリコ・ロドリゲス(1934〜2015)が残した傑作アルバムだ。

ルードボーイ(不良)出身の少年が
音楽(スカ)に出会うまで

リコ・ロドリゲス(Rico Rodriguez)、あるいは短くリコ(Rico)はキューバのハバナで生まれ、その後移住したジャマイカのキングストンで育っている。父親がキューバ人の船乗りで母親がジャマイカ人だった。貿易の商売に手を出したものの、父親に商才がなく家計は火の車、仕方なく母方の親戚を頼ってジャマイカに移住したという感じらしい。昔も今もキングストンには不良やチンピラが溜まる危ないエリア、スラムがあったりする。そんな環境が影響したのかどうかリコも子供の頃はグレていたそうだ。母親は手を焼き、彼を感化院、今で言う児童自立支援施設のようなところに預ける。そのローマカトリック修道女によって運営されているアルファ・カトリック・ボーイズ・ホーム(Alpha Catholic Boys Home)での生活が彼の音楽人生をひらかせる。ホームでは社会に出て仕事に就けるように製本や印刷、車の整備などの職業訓練がある。その一方でシスターたちは更生の一環として、音楽教育などを取り入れていたそうだ。

その音楽というのが主に管楽器を使ったブラスバンドのようなものだった。リコは最初サックスを希望していたが、トロンボーンを任されることになる。教室にはプロの音楽家がやってきて指導に当たるという恵まれたもので、リコが師事したのが、のちにジャマイカのみならず世界的に評価されることになるスカのパイオニア、スカタライツ(Skatalites)を結成するトロンボーン奏者ドン・ドラモンド(Don Drummond)だった。リコは彼の教えもあってメキメキと上達し、ホームを出てストーニー・ヒル・インダストリアル・スクール(Stony Hill Industrial School)という工業学校に進む頃にはエリック・ディーン・オーケストラ(Eric Dean Orchestra)のメンバーになる。オーケストラと言ってもジャズのビッグバンドのような編成で、ジャマイカ流のジャズ/スカを演奏していたようだ。というわけで、バイオグラフィーの前半を紹介したところで、『Man From Wareika』(‘76)を聴いてみよう。

OKMusic編集部

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