【追悼 ジェフ・ベック】
ロック史上最高のギタリストとして
世界を魅了し続けた人生

ジョージ・マーティンに制作を委ねた
ギターインストの傑作

では、アルバム2枚を聴いてみよう。2枚は対のようなアルバムなので、どちらから聴いてもいいだろう。『ブロウ・バイ・ブロウ』はリリース時、邦題に“ギター殺人者の凱旋”とむちゃくちゃなものがつけられていたことでも知られる。まったく、どのような発想からこんなタイトルを決めたのか、当時の担当者の翻意を確かめてみたくなるというもの。このアルバムでのリズム隊はリチャード・ベイリー(Drums)に中華系英国人フィル・チェン(Bass)、そこにマックス・ミドルトン(Keyboards)と、編成は実にコンパクトだ。ビートルズの「She’s a Woman」、真似のできない脅威的なギターワークを見せつける「scatterbrain」、そしてスティーヴィ・ワンダーが書いた名曲中の名曲「Cause We’ve Ended as Lovers(邦題:哀しみの恋人たち)」など、後々までコンサートのセットリストに入るヒット曲が生まれた。サウンドはファンキー、フュージョンとR&Bの狭間に位置するといえばいいか。そうそう、スティーヴィ・ワンダーと言えばもう1曲、彼がセロニアス・モンクについて書いた曲「Thelonius」があるが、ここでクラビネットを弾いているのはてっきりミドルトンだと思っていたが、実はスティーヴィ本人が非公式で参加しているのだそうだ。

このファンキー+フュージョン路線は本作から遡ること4年前の第二期ジェフ・ベック・グループで試みていたサウンドだった。『ラフ・アンド・レディ(原題:Rough And Ready)』『ジェフ・ベック・グループ(原題:Jeff Beck Group)』の2枚のアルバムをその時期には残しているがクライヴ・チャーマン(Bass)、ボブ・テンチ(Vocal)というふたりの黒人アーティストを加え、ここからの付き合いとなるマックス・ミドルトンのクラビネットやハモンドを加えたサウンドはジャズとモータウン、ダニー・ハザウェイなどのニューソウルへの接近が感じ取れるのだ。2作目の『ジェフ・ベック・グループ』はプロデュースをブッカー・T&ザ・MG’sのギタリストであるスティーヴ・クロッパーに委ねるなど、いっそうジェフの狙いは明らかだった。

ことのついでにジェフの歩みとして書いておくと、第二期ジェフ・ベック・グループを続けるつもりだったジェフにレコード会社から横槍が入ったとも真相は分からないのだが、いったん第二期ジェフ・ベック・グループを解体し、元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガード、カーマイン・アピスとパワートリオを組んでしまう。このトリオは第一期ジェフ・ベック・グループが解散した時に1度は組もうと試みられたメンツだったがジェフの交通事故で流れたプランだった。バンドは最初ロッド・スチュワートをヴォーカルに、あるいは第二期ジェフ・ベック・グループのボブ・テンチを加えて、ジェフとしてはR&B路線を続けたかったようだが、計画は頓挫し、結果はハードロック路線という、過去に戻る形になってしまった。残されたスタジオ作『ベック・ボガート & アピス(原題:Beck, Bogert & Appice)』はそれほど悪くない。だが、日本でのみ発売された大阪厚生年金会館 での実況録音盤『ベック・ボガート & アピス・ライヴ・イン・ジャパン(原題:Live in Japan)』を聴くとジェフがこのトリオに嫌気がさしていることが手に取るように分かる。メリハリのない、お決まりのスタイルで、手数が多いわりに凡庸に叩きまくるカーマイン・アピスのドラム、自己主張が強く、弾きすぎるベースにほとほとうんざりし、ベックも投げやりに弾いているように聴こえる。実際にコンサートに行った方、ライヴ盤を絶賛されていた方々には申し訳ないが、個人的にはこのトリオの活動は完全に失敗、時間の無駄だったと思う。

そして、目が覚めたかのようにベックは軸足を戻し、自分のギターサウンドだけでなく、アルバム全体を俯瞰して意見を出してくれるプロデューサーに制作を依頼するのだ。それがジョージ・マーティンが手がけた『ブロウ・バイ・ブロウ』 と『ワイアード』 の2作ということになる。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着