上記作品 ポスター

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24本目・『網走番外地大雪原の対決』
:杉作J太郎のDVDレンタル屋の棚に残
したい100本の映画…連載50

杉作J太郎の

DVDレンタル屋の棚に残したい100本の映画
23本目・『不良番長一網打尽』 見たことのある人と見たことのない人でこれほどイメージの違う映画もないだろう。
 50年以上前の映画になるからいわばクラシック。クラシックと言えばなんかマジメなイメージがある。硬質な、堅苦しい雰囲気を感じる人もいるだろう。文学、音楽、などでも。でもどーだろう、それは本当ではないのだ。昔の作品だというだけで決してマジメでも堅苦しくもない。昔でもメチャクチャな人はいたし、なんでもありのフリーダムな人はいた。
 この映画の監督、石井輝男さんがそうである。
 そして主演の高倉健さんもそうである。
 最終的に健さんはマジメで硬派なイメージがあるかもしれないがそれは晩年の話。50年前のこの頃はまだ定まっていない。硬軟両方の役柄があった頃だがその超やわらかいのが当時ドル箱映画(そーとー儲かったということ)『網走番外地』シリーズであり、その全十作ある第七弾『網走番外地大雪原の対決』あたりがたいへんにやわらかい。
 由利徹が股間に隠してあったおにぎりを健さんに食べさせてあげるのだがすごい匂いがしている。映画が匂い伝わらなくてよかった。そのぶん、健さんが演技をするのだがこれが素晴らしい。というか完璧。どうやら縮れた毛が付着していてそれを取り除きながら健さんはおにぎりを食べるのである。
 由利徹と吉野のママのバイセクシャルムード満載の対決も凄まじい。そのとき画面の中には健さんや田中邦衛もいるのだが(田中邦衛の取り合いをするのです)健さんなどはかすかにニコニコしているだけで眺めているだけ。いつまでやるんだという長い場面である。なんだったらもう最後までそれでもいいじゃない、という石井さんの声が聞こえてきそうだ。
 石井さんの映画によくあることだが、この田中邦衛も途中からまったく出てこない。このシリーズを代表する出演者のひとりで最初から最後まで出てくることもないではない。だが出ないときは突然出てこない。本作では途中以後、田中邦衛のことを見ている人全員が忘れているはずだ。
 石井さんと出会った映画『ゲンセンカン主人』下田ロケでのこと。佐野史郎、岡田奈々、きたろう、川崎麻世、そして私がアパートの一室で話し合っていた場面の撮影時。カットがわりでカメラ位置が変わる。石井さんはひとつのカメラ位置で撮れるシーンは全部撮っていく。順番もそんなに関係ない。カットが変わる時はセリフや演技を抜いて撮っていく。それが世界を代表するほど小刻みなので演じているほうはいまどこのなにを撮っているかさっぱりわからなくなる。
 で、カメラ位置変わって前のカットの抜いたところを撮る時に記録担当の人が言った。
「そこは誰某の手はそこにありました、誰某はこっち向いてました」
 絵のつながりのために大切なことである。記録の人の大きな仕事のひとつである。そして我々演者が姿勢を正そうとしたその瞬間、ソフトな声で石井さんは言ったのである。
「あー、いいのいいの。誰も覚えてないから」
 見てないから、と言ったのかもしれない。
 あー、そうか、それでか、と私は長年の謎が解けた。
 石井さんの映画でカットが変わると、さっきまで話したりして動いていた人の頭部が、たとえばその頭部を後ろから撮った絵の場合、頭がビシーッと止まっていることがある。多い。その理由はこれだったのだ。なるほど、たしかに頭が止まって見えているのは私が石井さんのファンすぎて何度も何度もビデオで見ているからだ。初めて見た時にはこっち向いてる人の顔しか見てないから頭は誰も見てない。むしろ、動かないほうがじゃまにならない。
 石井輝男さんの晩年、何年間かおつきあいさせていただいた。そんなにお役には立ててないかもしれないが精神的には師事したと言っていい。石井輝男さんのことを『トラック野郎』シリーズの監督、鈴木則文さんは東映ゲリラ部隊の先輩、上役と見られていたが鈴木さんにもいろいろ教わった。鈴木さんはからだを悪くされて晩年は脚本中心の作業となり現場を体験することはできなかったのが残念だ。
「ふたりの人間を喋らせるときは向き合うんじゃなくてどちらもカメラのほうを向かせて横向いてしゃべってもらうんだよ」
「なぜですか?」
「漫才みたいに見えて面白いだろう」
 鈴木さんの『トラック野郎』も大人気だったにも拘わらず十作で終了した。私もいろいろこれは各氏から話を聴いたが決定的な理由はぼんやりしている。先人、石井さんの網走の数を超えたくなかったのかもしれないと思ったこともあるが、ま、違うかもしれない。
 今年の冬は寒い。
 網走の丘に石井さんのお墓がある。
 お墓は雪に埋もれているかもしれない。
 そのお墓に記されている文字は健さんのものである。
『網走番外地大雪原の対決』(1966年・東映東京)
出演/高倉健、大原麗子、嵐寛寿郎、田中邦衛、由利徹、吉野寿雄(六本木、吉野のママ)、砂塚秀夫、佐山俊二、国景子、小林稔侍、三重街恒二、沢田浩二、土山登士幸、谷本小夜子、伊達弘、佐川二郎、日尾孝司、澤彰謙、若水ヤエ子、関山耕司、小松方正、上田吉二郎、内田良平、吉田輝雄
企画/植木照男
脚本/石井輝男、松田寛夫、神波史男
撮影/稲田喜一
録音/広上益弘
照明/大野忠三郎
美術/藤田博
編集/鈴木寛
助監督/野田幸男
擬斗/日尾孝司
協力/士別市
主題歌/「網走番外地」高倉健
音楽/八木正生
監督/石井輝男
<隔週金曜日掲載>
画像:上記作品 ポスター
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【杉作J太郎:プロフィール】
すぎさく・じぇいたろう
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
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