稲垣吾郎「前回より進化した作品を、
多くの方に届けたい」~『サンソン—
ルイ16世の首を刎ねた男—』インタビ
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主演・稲垣吾郎✕演出・白井晃✕脚本・中島かずき✕音楽・三宅純のタッグで上演された『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』(​2021年)。18世紀のフランス・パリで死刑執行人として生きたシャルル=アンリ・サンソンを主人公に、フランス革命に関わった多くの人々を描いた物語だ。初演時は多くの公演が中止となったこともあり、「再始動」という言葉で表現されている今回の公演。主演を務める稲垣吾郎に改めて本作の魅力や意気込みを語ってもらった。
■この作品から今を生きるヒントを得られたら
―ー再始動についての想いを教えてください。
2月下旬からお稽古が始まり、再びサンソンを演じることができるんだなと嬉しく思っています。新型コロナウイルスの影響で初演は15公演しかできずに中止になってしまいました。白井さんが今回を「再始動」と言うように、僕の中でも完全に電源オフにはしていなかったんです。改めてそのスイッチをオンにして、前に進みたいと思っています。
そして、前回から一緒に頑張ってくれる人も多いですが、新しいキャストの方も加わり、また新しいものになります。作品としては再始動ですが、初演のような気持ちもありますね。
新しいキャストの方との共演は、稽古をしていて楽しいです。同じセリフでも捉え方が違ったり、今回は若くてフレッシュな方が増えていたり。崎山つばささんをはじめ、みなさん本当に真面目で、エネルギーの塊です。稽古をしていても影響を受けますし刺激になりますね。
ーーシャルルにとって大きな存在であるルイ16世のキャストが変わります。
大鶴佐助さんはおっとりした雰囲気で、声がすごくいいです。若い時のルイ16世、たとえば戴冠式の時の心が揺れている感じなどが、声だけでも表現されているんですよね。10代でまだ子供な感じがあって、「無理だよ!」という感じがすごくする。「この国を、臣民を愛する!」って言っていても、本心ではなく、言葉が先にあるような。あれは佐助さんの俳優としての技量、役に対する捉え方ですよね。ルイ16世とシャルルの2人のシーンの稽古がいよいよ始まるので、それを通して本格的に惚れていくんだろうなと。気分はオスカルです(笑)。
稲垣吾郎
ーー以前、坂本眞一さんの『イノサン』を読んでシャルルを演じてみたいと感じたとおっしゃっていました。前回公演と今回の稽古を通して、シャルルという人物の印象や捉え方に変化はありましたか?
きっかけは確かに『イノサン』ですが、その後に原作となった安達正勝さんの『死刑執行人サンソン』を読み、漫画とは違う史実を知りました。漫画は絵の美しさに見惚れた部分も大きいですが、安達先生の原作、中島さんの脚本にもそれぞれの捉え方があり、作品によってどの部分を物語にしていくかということが大切だと思っています。
初演はゼロから物語を作っていく必要があり、僕自身もまずシャルルを理解しようという気持ちが大きかった。今回は、この作品に対する捉え方や考え方も変化している部分があると思います。特に、ここ2年ほどで世の中や価値観がまた変わったり、いろんなことがあったりしましたよね。そんな中でこそやる意義のようなものもあるのかなと。史実でしか知らないですが、フランス革命時代の人々の心の移ろいの速さや変化と今の時代がなんとなく被る部分があると感じています。この時代を演じることで、私たちの未来に対するヒントのようなものを得られたらいいなとみんなで話しながら稽古しているところです。
ーーシャルルは死刑執行人でありながら信仰に篤い人物で、若い頃は洒落ていて、さまざまな表情があります。作中で20代から老年期まで描かれているので、彼自身の変化も大きいですよね。
そうですね。変化というものは見せていきたいです。これだけ長い時間を演じられるのは舞台ならではだと思います。この作品は1700年代、シャルルがまだ20代後半の時代からスタートし、フランス革命の時は60歳くらい。ラストは70代や80代になっているのかな。その時代の流れや世の中の変化が中島さんの脚本の力で表現されています。
今回はさらにブラッシュアップされて、追加されたシーンもあるので、演じていても時間の流れがより意識できると感じますね。今回は大きな時代の流れとサンソンという人物の人生をじっくりお見せできればと思っています。あとは、今言われた通りキャラクターも年齢によってだいぶ変わっていくんです。その変化が伝わるような演じ分けが必要になります。『No.9 -不滅の旋律-』などもそうでしたが、20代から演じなくてはいけないですから。それを2時間、3時間というひとつの作品の中で俳優として表現していくのは、やっていてもすごく楽しいです。
■シャルルは時代に翻弄されながらも自分の使命を全うした人物
ーーこの2年で世の中の価値観が変化し、その中でやる意義がある作品だとおっしゃっていました。もう少し具体的に教えていただけますか。
この2年に限りませんが、今の常識が数年後には非常識になることも多いですよね。いろいろセンシティブになっていますし。
これも稽古でよく話すんですが、まさか前回公演があのタイミングで中止になるとは思っていませんでした。公演を終えた達成感と共にシャワーを浴びて出てきたらプロデューサーさんが楽屋で待っていて。もちろん、みんながベストを考えて決めたことですが、やっぱりショックでした。公演中止の報告を受けてみんなで集まった時の白井さんの表情や言葉は忘れられないですね。僕も結構ポーカーフェイスで、感情を露わにするタイプではないし、してなかったと思うけど、後で橋本淳くんに「あの時の吾郎さんの顔が忘れられない」って言われました(笑)。でも、そこでまた団結した感じもあったのかなと今では思います。
そこから2年経ち、また色々変わってきましたよね。僕らがこの間「新しい地図」のファンミーティングをした時にも、初めてお客さんにスタンディングしていただくことができて。
コロナ禍と比べるのも変ですが、サンソンも自分の運命に抗えず、フランス革命や時代に翻弄されながらも自分の職務を全うした人物。人間の美しく崇高な姿や、表舞台には立っていないもののそういった人物がいたことは伝えていきたいですね。
稲垣吾郎
ーー以前、死刑執行人という偏見を持たれる家業に対するプライドを持ち続けていたサンソンの力の源を理解したいというお話をされていました。
単純に家業だからというだけではなく、フランスに生まれたというアイデンティティと愛国心が大きいと思います。この作品では彼の家族の話はあまり出てきません。「自分の子供にもこの仕事の重荷を背負わせるのか」というセリフがあるので、子供はいるんですけど。家族を支えるためというより、国やルイ16世の存在が大きいですね。あとは国民に対する思いというか、人類は平等という考え。それが結局ギロチンにまでいってしまうわけですが、そういう思いは大きいですよね。熱い人間だと思います。
ーー今は転職を繰り返す人も多くいますが、サンソンは死ぬまでこの仕事一筋です。
そこの価値観も変わってきていますよね。僕は家業じゃないけど子供の頃からこれを自分の宿命だと思ってやってきたので、分からなくはないです。若い人から相談を受けた時も「まずは続けてみるといろいろ見えてくるよ」って気安く言っちゃう。でも今はそれもダメだよね(笑)。いろんな選択肢があるし、最初に答えを求めるような風潮があるでしょう。紆余曲折にも面白さがあるし、エンターテインメントってそういうところから生まれたりもすると思うんですけど。僕はひとつのことをずっと続けてきたので、サンソンの立場とは違うけど肯定的になってしまいますね。
■演出や音楽、共演者が大きなエネルギーをくれている
ーー初演では演出や音楽も相待って心揺さぶられました。
僕も白井さんの演出や舞台装置、三宅さんの音楽にすごく助けられました。普通なら、自分のことを18世紀を生きるフランス人とも天才音楽家とも思えませんから(笑)。舞台は特に、信じ込ませてくれる力が強いですよね。芝居をしていると背景は見られませんが、歴史の重さやうねりのようなものを感じさせてくれるシーンもあり、力をもらえました。
ーー先ほど若いキャストに引っ張られるというお話がありましたが、具体的にはいかがでしょう。
白井さんをはじめ、みんなエネルギーに引っ張られてるんじゃないかな。こんなことを言うとおじいちゃんみたいだけど(笑)。
皆さん本当にお芝居が上手ですし、佐藤寛太さんなんかはちょっと危うい感じやナイーブさが伝わってきて、新しいジャンだなと思います。サン=ジュストの池岡亮介さんは白井さん演出の『マーキュリー・ファーMercury Fur』​でアンダースタディをしていて、ピンチを救った役者さん。すごいですよね。あと、前回から続投しているナポレオン役の落合モトキさん。偉そうな言い方になってしまうけど、すごく進化しています。自分も役に入りつつ、どこか客観的に見てしまうことがあるんですが、そんな時に変化を感じて嬉しくなりますね。ナポレオンの気持ち悪さみたいなものが、落合くんのエキセントリックな魅力で表現されています。
それから春海四方さん。殺陣のシーンとかやってるとすごく動けるんですよね。まだ情報解禁になっていない作品でご一緒させてもらったことがあって、今回またご一緒できるのが嬉しいです。
稲垣吾郎
ーー最後に、観にくる皆さんへのメッセージをお願いします。
前回来ることができなかった方、チケットを取ってくださっていたけど観られなかった方が本当に多いと思います。僕は再始動できることが本当に嬉しいですし、前回観られなかった方にも来ていただけたら嬉しいです。前回以上に進化した『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』を皆さんにお届けしたいと思います。
今回は大阪と松本でも公演があるので、それもすごく楽しみですね。この2年間をちゃんと有意義なものというか、マイナスだったものをプラスに変え、さらに大きなものにして皆さんに届けますので、楽しみにしていてください。

スタイリング=黒澤彰乃
ヘア&メイク=金田順子
取材・文=吉田沙奈    撮影=設楽光徳

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