全シンガー・ソングライターの鏡、
キャロル・キングの傑作ライヴ盤
『リヴィング・ルーム・ツアー』

キャリアに裏打ちされた存在感と
シンガーとしてのナチュラルな佇まい

 このライヴアルバムのもととなるコンサートツアー『Living Room Tour』は2004年7月にスタートしている。キャロルは62歳だった。その2年前には初めて自身のレーベル、“ロッキングゲール(Rockinggale)”を立ち上げている。「いろんな音楽を作ってきたけれど、このぐらいの歳になってそろそろ会社の言いなりではなく、自分のやりたいものを自由に作りたくなった」という談話を、その発足時に彼女は残している。未だに作曲能力は枯れることなく、その気になればいい曲ぐらいいくらでも書くことはできるはずだが、一方で自分の半生を振り返るというか、いい意味で集大成的なものを作りたくなったのかもしれない。
 そこで、自身の自信作をたっぷり披露するライヴを計画するのだが、実に彼女らしい演出がなされている。現在ではこのコンサートの模様は“Welcome to My Living Room”のタイトルでDVDでも発売されているので視聴することができる(これも必見)が、ステージは実にシンプル。キャロルの家のリビングルームに見立てて作られたセットにはソファとコーヒーテーブルが置かれ、スタンドに柔らかな明かりが灯されているくらいで派手な照明はなし。傍らにはピアノが。そこに、サポートのギターやコーラス隊が加わる程度で、極めてシンプル。まさにタイトル通り、ゲストも、そしてオーディエンスもリビングルームに招かれ、リラックスしたムードの中で音楽、会話を楽しむという趣向である。このあたりの洗練されたセンスは、さすがニューヨーカー(今はどこに住んでいるのか知らないが)だなあと思わせられる。ちなみに、このコンサートは2008年の11月に日本でも実現しており、足を運ばれた方もいるかもしれない。
 そう、出身はニューヨーク、ブルックリンと100パーセント完璧なニューヨーカーである。そういう都会の女性が持つ屹然とした空気感というのが、若い時から現在に至るまで、キャロル・キングには備わっているような気がするのだが、どうだろう。そういうのが、DVDを観るとそこかしこに表れている。62歳なのだから、それなりに老けている。相応に肉も付いている。でも、美しい老け方というか、品位があるというか、愛らしい。チャーミングと言うべきなのだろうか。このライヴを観る限り、すっかり経験と実績を積み、上がり症なんてとっくに克服したに違いない。ステージではピアノを、またある時はサポートのギタリストたちと一緒にギターも弾き、舞台上を踊ったりもする。喋りもユーモアとウィットに富み、実に洒落ている。それでもピアノに向かっている時のキリッとした佇まいなどは、若い時と変わらないように思えてくる。歳を重ねていながらもキャロル・キングという人の本質は変わらないなあという印象を与える。何がそうさせるのか。
 シンガーとして、ソングライターとしての風情のようなものが崩れない。誇張がないというか、嘘がないというか。同世代の女性シンガーと比べても、彼女にはまるで俗っぽい雰囲気がないのだ。思うに、きっと彼女は“最新”であるとか“進化”といったこととは無縁なところで、作りたいもの、歌いたいものを送り出してきたのだ。だから、80年代のほとんどの時期、メインストリームの音楽シーンの要求とは全くソリが合わなかった。それでも、パーソナルな感情が歌われる彼女の音楽を求める空気は、一定周期で巡ってくる。そのたび、どこからともなくキャロル・キングの音楽が聞こえてくるのだ。そういう意味でいつも時代を超えてきたと言える。

OKMusic編集部

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