オルタナティヴや
ブリットポップの時代に、
アメリカ南部に答えを求めた
プライマル・スクリームの
『ギブ・アウト・バット
・ドント・ギブ・アップ』

『Give Out But Don’t Give Up』(’94)/Primal Scream

『Give Out But Don’t Give Up』(’94)/Primal Scream

アルバムをリリースするたびに新たなサウンドで勝負するプライマル・スクリーム。彼らは3rdアルバムの『スクリーマデリカ』(’91)で、ハウスとロックンロールを融合させて世界にその名が知られることになった。この作品が数々の音楽賞を獲得し大きなセールスにつながっただけに、次作もこのスタイルを踏襲するだろうと考えた人は多かったはずだ。しかし、続く4thアルバム『ギブ・アウト・バット・ドント・ギブ・アップ』はスワンプロックやサザンロックといったアメリカ南部の泥臭いロックに影響を受けたいわば先祖返りのようなルーツロック作品で、その味わい深い音作りは若手アメリカーナアーティストに大きな影響を与えた。

陽の目を見たメンフィス録音の
オリジナル・ミックス

プライマル・スクリームのギタリスト、アンドリュー・イネスは自宅の地下室を片付けていた2016年、トム・ダウドがプロデュースとミックスを手がけた本作のオリジナルテープコピーを発見し、ヴォーカリストのボビー・ギレスピーにデータを送る。ギレスピーはその素晴らしさ(20年以上の時の経過もあって)に驚き、オリジナル版のリリースを決めた。それが2018年にリリースされた『ギブ・アウト・バット・ドント・ギブ・アップ ーオリジナル・メンフィス・レコーディングー』である。

本作が録音された時、あまりにストレートな70sサウンドであったためレーベル(新興のクリエイションレコード)側はリリースに難色を示し、ブラック・クロウズやジェイホークスを手がけたジョージ・ドラクリアスとPファンクのジョージ・クリントン、ジム・ディッキンソンを呼び寄せてリミックスや再録音するなど、オルタナ的なリミックスを依頼している。しかし、トム・ダウドは、アレサ・フランクリン、デレク&ザ・ドミノス、オールマンブラザーズ・バンドなどを手がけたアメリカ最高のプロデューサーのひとりであり、彼の作るサウンドは時代に流されるようなヤワなものではない。これは、当時オリジナルミックスの良さに気づかなかったクリエイションレコードのアラン・マッギーの功罪であろう。

南部のセッションミュージシャンの
猛者たち

ギレスピーはメンバーの力量に不安があったのか本物の“南部サウンド”がほしかったのか、彼の本音は分からないが、リズムセクションの要にマッスルショールズ・サウンド・スタジオのデビッド・フッド(Ba)とロジャー・ホーキンス(Dr)を起用、ホーンセクションにはオーティス・レディングをはじめ、数多くのメンフィス・ソウルを支えたメンフィス・ホーンズ(アンドリュー・ラブとウェイン・ジャクソン)、そして、キーボードにはディキシー・フライヤーズの名手ジム・ディッキンソンのほか、トム・ペティのバックを務めていたベンモント・テンチ(最近ではワトキンス・ファミリー・アワーで活躍)、アンプ・フィドラー(ジョージ・クリントン人脈)等を参加させるなど、彼らとグループのメンバーを並列にザ・スクリーム・ギャングとライナーには表記されている。これは南部のスタジオミュージシャン軍団フェイム・ギャングを意識してのことだろう。どちらにしても、本作がプライマル・スクリームのアルバムというよりは、セッション的な意味合いを持っているということなのかもしれない。

OKMusic編集部

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