アヴァンギャルドのミューズ。
アネット・ピーコックが残した
ジャズ・ロックファンをも唸らせた
傑作の『The Perfect Release』

『The Perfect Release』(’79)/Annette Peacock

『The Perfect Release』(’79)/Annette Peacock

あらかじめ断っておくと、アネット・ピーコックの主戦場というか、収まるべきジャンルとしては“ジャズ”である。が、本作がリリースされた1979年から現在におけるまで、彼女が知られ、その音楽について酒席などで語られるのは、おおむねロック方面であったりする。それほどに、ロックファンにも本作はインパクトを与えたのであり、未だに忘れられることなく、「アネット・ピーコックの『The Perfect Release』はなかなか衝撃的だったよな」と口にする人がいたりする。

今でも覚えているが、当時は何の情報もなく、音楽雑誌にも最初は紹介されなかったのではないか。輸入盤専門店でその洒落たドローイングのジャケットに惹かれてジャケットを手に取った時のこと。聞いたこともない名のその女性アーティストのバックアップ陣に、第二期ジェフ・ベック・グループを支えたキーボードのマックス・ミドルトンやこれまたジェフの傑作『BLOW BY BLOW ギター殺人者の凱旋』(1975年)でドラムを叩いていたリチャード・ベイリーの名前がクレジットされているのを認め、まぐれ当たりでもいいかと軽い気持ちで買ったものだった。ところがターンテーブルに乗せて針を下ろしてみたところ、あまりの衝撃にぶん殴られたような心持ちになったものだ。先のジェフの『BLOW BY BLOW~』や『Wired』とも共通するが、大別すれば今日で言うフュージョンの枠に入る、キレのあるファンキーなリズム隊にミドルトンのシンセ、エレピが踊る。そこにエキセントリックなアネットのヴォーカルが曲を彩っていく。多くはポエトリーリーディングのようなのだが、時々はメロディに添いつつ、一音も外すことなく不思議に調和している。素人っぽいけれど、実は上手いのかもしれないと思わせる。何よりその声の扇情的なこと。

インターネットなどない時代で、しかもショップにも雑誌にもアネット・ピーコックについて紹介する記事は一切なかった。アルバムの評判はジワジワと口伝てに広がり、前作となる『X Dreams』(’78)も輸入盤で入荷するなどし、徐々にではあるが情報が伝わってくる。といっても些末なものだった。アネットは60年代から活躍するジャズ(フリー、アバンギャルド)作曲家、編曲家、電子音楽の演奏家、他にパフォーミングアーティストというもの。それから、今でもアネットと言えば語られる夫婦スワッピング(交換)などと揶揄されるスキャンダラスな逸話である。ベーシスト、ゲイリー・ピーコック(キース・ジャレットのトリオ・スタンダーズのメンバーとしても知られる)の妻であった彼女はジャズピアニストでやはりジャズ作曲家、編曲家として知られるカーラ・ブレイの夫のポール・ブレイ(ピアノ)と恋愛関係になる。カーラもまたゲイリー・ピーコックと結ばれる、という話だ。事件扱いにするには格好のネタだろうが、別に一種の職場恋愛であり、そんなことは珍しくもないことだ。ただ、アネットは最も早くムーグシンセサイザーを操る電子音楽家として知られ、夫だったポール・ブレイも電化にシフトし、夫婦で同じステージに立つ機会があったそうなのだが、しばしばアネットは全裸パフォーマンスを披露したというのだ。今では削除されているようだが、私はアネットの、モデル並みのスレンダーな裸体画像を見たことがある。それは胸騒ぎを覚えさせるような、美しい姿だった。いずれにせよ、破天荒なところがあるのは間違いないだろう。

OKMusic編集部

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