【ササノマリイ】輪郭が曖昧な部分を
、今回は歌詞ではっきりと
詞的な世界観と繊細なサウンドワークが魅力のササノマリイ。最新EP『M(OTHER)』はササノがリスペクトする名作ゲーム『MOTHER』をオマージュした作品。ぼくのりりっくのぼうよみへの提供曲を再構築したナンバーも収録した話題作だ。
取材:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
新作EP『M(OTHER)』がリリースされました。これは“マザー”という読み方でいいんですよね?
任天堂の名作ゲームからという認識で間違いないですか?
はい、『MOTHER』の影響でオマージュとして作りました。もともと思い入れが強くて、大好きだったゲームなんです。自分の中では今までの作風と違う…“違う”って言うとすごく曖昧ですけど、今まで出してこなかった表現というか。前までだったらもっと輪郭が曖昧な部分を、今回は歌詞の部分ではっきり書いているので、そんなところが変わっていきました。あと、今回は音の構成をできるかぎり最小限にしてます。ひとつひとつの音に自分が感じる役割を明確に当てはめていった感じですね。
ササノマリイさんと言えば、もともと繊細でファンタジックなイメージがあったのですが、今回は結構リアリティーある言葉がそれぞれの楽曲に散りばめられていますよね。
それこそ『MOTHER』の世界観の影響ですね。『MOTHER』は3までシリーズ化されていて、自分ががっつりはまったのは1と2でした。ゲームデザイナーとして、脚本を担当した糸井重里さんの言葉の選び方にわりとブラックな部分があるんですよ。その狂気的な部分も含めて魅力的で。そんなゲームシステムと言葉の選び方とグラフィックの組み合わせが好きなんです。鈴木慶一さんも参加されたBGMも魅力的で、今回作品でオマージュさせていただきました。
『MOTHER』に受けた感動を、独自のフィルターに通した表現として伝えられるのは面白いことですよね。
今回収録した「戯言スピーカー(in synonym)」と「Re:verb」は前作タイミングで作った作品なんです。新しく作った「M(OTHER)」「COFFEE」「I MISS YOU」は、完全に『MOTHER』へのオマージュですね。クイーンマリーというキャラクターの気持ちを込めた曲もあります。
なるほど。そして、今回2曲目が「Re:verb」ということで、“ぼくりり”こと、ぼくのりりっくのぼうよみへの提供曲「CITI」がもとになっているという。
ぼくりりくんにトラックを提供した時、ぼくりりくんはヒップホップとして“CITI”というタイトルでリリックを乗せてくれたんですね。そこで、今回はセルフカバーという考えではなく、ぼくりりくんが書いたリリックに対して、それに反響として作ったのが「Re:verb」という曲なんです。
結構別ものになっていますよね。
聴いた人がそう思ってくれたら嬉しいですね。ぼくりりくんとは、彼が「戯言スピーカー」のトラックでラップしてくれたのが最初の出会いでした。あの曲はいろんなきっかけを生んでくれましたね。
「Re:verb」へのこだわりは?
もともとぼくりりくんの歌声に合わせて作った曲なんです。なので、自分の作品としてはあまりないタイプの作り方をしてます。自分で歌っても合うように、はまる言葉とメロディーを考えていきました。
3曲目「COFFEE」はものすごく肩の力が抜けているナンバーですけが、これもまた『MOTHER』の世界観にも通じる曲になるのですか?
そうなんです。ゲームにもあるコーヒーブレイクですね。実は、他の曲をレコーディングしている間の時間で生まれたんです。30分くらいでさらっとできた曲で。もともとはインタールードの立ち位置なんですよ。曲ができて聴いた時に、机にコーヒーが置いてあったんです。“あ、コーヒーブレイクだ!”と思って、せっかく『MOTHER』をテーマにしてるんだし、この曲も入れてあげたいなって。歌詞も相手となっている対象がコーヒーなんです。自分が作ってきた曲の中で、もっとも柔らかい曲かもしれません。
そして、「I MISS YOU」ですが、私的な心模様を描いた歌詞が素晴らしいです。言葉へのこだわりが素晴らしいなと。
「M(OTHER)」がものすごい『MOTHER』寄りの歌詞だとすれば、「I MISS YOU」は自分の割合が大きな歌詞ですね。サウンドは先に即興からオケを作りました。『MOTHER』のエンドロールなイメージなんです。
5曲目に「戯言スピーカー(in synonym)」。改めてこの曲と向き合ってみていかがでしたか?
この曲にはお世話になってます(笑)。最初が“ねこぼーろ”名義だとすれば、誕生は2010年なんですね。今回収録したのは前EP『Re:verb』に入っていたというのもあるんですけど、ぼくりりくんとコラボした背景もあるし選曲してみました。今回、音への遊び心があって「戯言スピーカー」のメロディーを実は過去作の「シノニムとヒポクリト」という曲のオケに乗せてるんですね。もともと対となっていた曲なんですけど、コードや構成が近かったんです。
魔法めいた音楽ならではのアイデアですよね。そう言えば、制作スタイルであったり環境に変化はありました?
あまりないですね。ずっとこたつの上で作ってますよ(笑)。
だからこそ生まれるのがササノマリイの世界観なのかもしれませんね。でも、ライヴ活動もやられてますよね?
未だにライヴで歌うのは緊張で真っ白になります(苦笑)。人前で歌うのと、録るために歌うのでは意識が変わりますね。ライヴでやる時はライヴを楽しんでもらえるようなやり方で伝えていきたいなって思っています。自分でも楽しんでいきたいなって思っているんですよ。もともと屋外フェスなんかにも行かないタイプの人間だったんですけどね。これは成長ですかね(苦笑)。
- 『M(OTHER)』
- WCCA-11
- 2016.09.07
- 1620円
ササノマリイ:エレクトロニカ、クラブミュージックに深い影響を受け、耳に残るメロディーラインと融合された深度のあるサウンドデザインが特徴的なビートメイカー/プロデューサー/シンガー。2017年には映画『3月のライオン』の主題歌になったぼくのりりっくのぼうよみの「Be Noble」のサウンドプロデュースをするなど、プロデューサーとしても多くのアーティストの作品に参加。また、過去の映像作品が動画サイトvimeoのstaff picks、『アヌシー国際アニメーション 映画祭 2016』委託作品部門(フランス)、『Anifilm』(チェコ)、『Golden Kuker-Sofia』(ブルガリア)など数々の映像、アニメーションフェスティバルにて入賞するなど、音楽のみならずアート方面での注目度も高い。 Sasanomaly オフィシャルHP