【nano.RIPE】変に器用になってしま
うくらいなら、いっそ音楽業界から追
放してくれ!
約半年振りのシングル「スノードロップ」が完成! タイトルから冬っぽいラブソングかと思いきや、音楽業界をサバイバルするnano.RIPEならではのソリッドなロックチューンに仕上がっている。そんな新作について、きみコ(Vo&Gu)に訊いた。
取材:榑林史章
自分を失ってまで書きたいものなんかな
い
今回はアニメ『食戟のソーマ 弐ノ皿』のエンディングテーマですが、歌詞に食べ物が出てくるわけではないという。もしかして主人公の名前が幸平創真なので、“幸”(ゆき)が“スノー”にかかってるのか?と妄想を膨らませたのですが。
Twitterでもそう言ってくれている人がいたみたいです。“ドロップ”を“舞う”と解釈して、雪がひらりと舞うみたいなことで、幸平なんじゃないかと。人の想像力って本当にすごいな~と思うばかりです(笑)。実際にタイアップのお話をいただいて、原作をある程度読んでから書いたのですが、ストーリーをそのまま書いたわけではなくて。結局いつものように自分のことを書いているのですが、創真もあたしも作るものが料理なのか音楽なのかの違いだけなので、結果的に創真の気持ちに寄り添いながらも、自分たちの想いが前面に出た曲になりました。
それを生きるか死ぬかの、激しい口調で歌っていると。
創真もぼくらも、そのくらいの覚悟で臨んでいますからね。“スノードロップ”は花の名前で、“逆境の中の希望”という前向きな花言葉もあれば、人に贈ると“あなたの死を望みます”という意味になるんです。死を象徴するような側面も持っていて、そこから“生と死の狭間にある花”という感覚で、“スノードロップ”と付けました。
サウンドの話ですが、イントロが2段階にも変わっていて、それがすごくカッコ良いですね。
レコーディングではギターを何本も重ねているのですが、ライヴではあたしとササキジュンの2本になるので、印象の違った感じになると思います。Aメロの頭でギターと歌だけになって落とすところは、抜き差しじゃないけど、曲の中で波を作って、聴かせるところは聴かせることを意識しました。
シングルの表題曲を決めるにあたっては、毎回バンド内コンペを開催していると前に話がありましたが、今回「スノードロップ」の作曲はギターのササキジュンさんということで。
つまり、あたしはコンペで負けたということですね(笑)。もともとあたしが提出していたのが2曲目の「システム」という曲なんですけど、これも『食戟のソーマ』に向けて作っていて、こちらのほうが歌詞としてはすごく分かりやすいものになっていると思います。そういう意味では、ダブルA面くらいの感覚で楽しんでほしいです!
「スノードロップ」の歌詞には、《こめかみを思い切り撃ち抜いて》とか《だれにだって創れるもんに価値はない》という、結構インパクトのあるフレーズがたくさん出てきますね。
いろいろ考えながら曲を作っている時、どんなものが世の中に求められているのかを考えて書くのは、きっと他の人がやっているし。そう考えると、あたしはあたしにしか書けないものを追求するしかないんだなって。でも、あたしにしか書けないものを意識したとして、それで結果が出なかったら、歌詞が悪いのか曲が悪いのかを考えてしまうし…いっそ売れてるバンドの真似をしてみようかな、と考えてしまうかもしれなくて。そうならないように自分に言い聞かせている歌詞です。“変に器用になってしまうくらいなら、いっそ音楽業界から追放してくれ!”と。自分を失ってまで書きたいものなんかないですから。そりゃあ売れたいけど、売れるために自分の書きたくないことを書くのは、あたしには性に合わないなと思って。
某バンドから聞いた話ですが…売れたら売れたで、周りからは売れた時のような曲を求められると。その求められるものと、その時の自分のやりたいことのギャップで新しい悩みが始まるらしいですよ。
きっとそうだと思います。そもそも自分の好きなようにやっていれば共感してくれる人は必ずいて、だから売れないわけがないと根拠のない自信でやってきたけど、そう簡単にいかないという壁にぶち当たって。だからと言って長いものに巻かれてはダメだぞって、昔の自分から今の自分に釘を刺している歌です。とはいえ、タイアップとの落としどころというか…タイアップとnano.RIPEとの間で、どこが一番nano.RIPEらしくあり、タイアップの希望にも応えられるか、そこをいかに模索することが創作の第一歩だなと改めて思いました。それは『食戟のソーマ』の原作コミックを読んで、改めて感じたんです。登場人物たちはラーメンとかひとつのテーマに対してそれぞれの持ち味を活かしながら、工夫に工夫を重ねて自分にしかできない料理を完成させていくんです。それを読んで、そうだよな〜ってすごく思ったんですよね。
創真は、すごく自信たっぷりですが。
あそこまで自信満々ではいられないですけど、模索する過程を重ねることで自信も生まれていくのかなって思います。
《ガラス越しの出来事に興味なんかない》というフレーズも出てきますが、これはテレビや携帯の中のニュースや出来事のことですか?
それもそうだし、部屋にいて窓ガラス1枚を隔てた外のことですね。部屋にいると外で雨が降ってても自分には関係ない。自分は自分と言いたかったんです。つまり、Twitterでどんなことを書かれたとしても、あたしにとってはそれも全部ガラス越しの出来事だなって。
「スノードロップ」のMVは、雨の中で立っている映像がすごく印象的でした。
土砂降りの中で撮りました。もともと曲調や歌詞のイメージから、カンカン照りの中で撮るのは違うなって。雨のシーンも欲しいし、ちょっと降らせちゃう?と、話が出ていて。なので、撮影日が雨になったのは、それはそれで良かったとして、あそこまでの土砂降りは希望してなかったんですけどね(笑)。撮影は2日間で、2日とも土砂降りで。ほぼ全編傘を差しての撮影になりました。白い傘を差して白い衣装を着ているのは、自分たち自身がスノードロップの花になっているみたいなイメージです。
激しいバンドサウンドなので、MVにバンドの演奏シーンを入れたくなりがちですけど、入ってないですね。
入れた時の映像が想像付いちゃうんですよね。きっとイントロはジュンの手から抜いて、バンドインとサビ前でドラムから抜いて、あたしが入れ替わりで歌って…とか。何となくセオリーが想像できてしまうし、そういうMVは散々やってきているし。わざわざ映像で観せなくても、音を聴けばロックバンドであることは分かるわけだし。今までやっていない新しいことの一貫ですが、あえて曲の世界観だけを表現しようと。そのためにいっそ演奏シーンはなくして、リップシンクもなしの表情でやってみようって。
さっきの《だれにだって創れるもんに価値はない》ということですね。あえて無表情なのは、どういう意図?
監督からとにかく無表情でと言われて。観た人に“これは一体何のメッセージなんだ?”と思ってもらう意図があります。でも、答えは出さず、受け取り手に委ねるという。
撮ってる時は、実際はどういう気持ちでした?
撮影中に曲を流すこともなかったので、どの部分を撮ってるかも分からなくて。とにかく無表情で立っててくださいと。スーパースローカメラで撮ったので、30秒くらいのシーンでも5秒くらいで撮れちゃうんです。だから、立ってるのもほんの5秒くらいだから、わけが分からないうちにどんどん撮り進んでいった感じでした。演奏シーンがない分、カット数が必要だったので、都内のいろいろなところで撮りましたけど。例えば渋谷とか三軒茶屋とか。よく観ると、わりとみなさんが知ってるところが多いと思います。
ショートバージョンを公開してから反響もありました?
“nano.RIPEらしくない”という声と、“nano.RIPEらしい”という声の両方あって。きっと“らしくない”という意見は『花咲くいろは』や『のんのんびより』といったアニメから入った、シングル曲のイメージを持っている人。“らしい”という意見はライヴハウスでやっているnano.RIPEを好きな人なんだろうなと。