【ASIAN KUNG-FU GENERATION】今こそ
必要な“個の爆発”としてのロック
『マジックディスク』から約2年3カ月振り、9月12日リリースの新作アルバム『ランドマーク』がついに完成。常に時代と向き合いながらロックを発信してきたアジカンが、震災以降の混沌とした今こそ撃ち放つ、“言葉の肉体性”に満ちたロックンロールーーその核心を、後藤正文(Vo&Gu)に直撃!
取材:高橋智樹
ロックミュージシャンはもっと好きに書
いて好きに歌えばいい
前作『マジックディスク』も“2010年代の始まり”と向き合う作品でしたし、今回の『ランドマーク』も震災以降の2012年の“今”を…同時代の人に向けて発信するのと同時に、“2012年の僕らはこういうことを考えていて、こういうことを感じてるんだよ”ということを100年後、1000年後の人にも伝わるように刻み付けていこうとする作品だと感じたのですが。
そうですね。同時代性っていうのは『ファンクラブ』以降は結構意識していることなので。『サーフ ブンガク カマクラ』は関係ないですけど(笑)。そういう意識は年々高まってきたもので。震災を機に“何歩か進んだ歌詞を書かなきゃな”と思って、一気に…気合いを入れたのはいいんですけど、やっぱり難しいなって。直接的な表現はそこまで好きじゃなくて。やっぱり比喩にしたいし、シュールレアリスムに近づけたいんですよね。何言ってるか分からないけど、よくよく読み取ろうと思って踏み込んでいくと“あ、結構辛辣なことを歌ってるな”みたいな歌詞のほうが好きで。それでも“やっぱりちょっと書かなきゃな”っていう気持ちもあって。そのバランスをすごく気にしましたね、今回は。
今の時代ならではのメッセージは込められてはいると思うんだけど、単純に“メッセージアルバム”って呼ぶのは相応しくないなと思って。世の中を変えてかなきゃいけない、先に進まなきゃいけないっていう想いはアルバムから伝わってくるんだけど、それを“困難な時代だけど立ち上がれ”といった直接的な歌詞として盛り込んでる作品ではないですからね。
そうですね。どっちかっていうと“立ち上がれ”とは歌ってないですからね。ほとんど皮肉を言ってるみたいなもので(笑)。ただ、それは例えば『THE FUTURE TIMES』(後藤正文が自ら編集長として発行する新聞)とかが別にあるから、自分の中のロックンロール的な物言いをここではグイッとやってもいいのかなっていうのはありましたけどね。『THE FUTURE TIMES』では使えない言葉をいっぱい書いてるというか。あの新聞はもう少し、今の状況に寄り添うものでありたいっていう想いで作ったんですけど…ロックバンドの作る音源はそうじゃなくていいなと思ったんですよね。もう少し乱暴でいいっていうか。
逆に言えば、『THE FUTURE TIMES』がなかったら、『ランドマーク』の歌詞はもっと違ったものになっていたかもしれないし。『THE FUTURE TIMES』は“ミュージシャン:ゴッチ”にとっても重要だったんでしょうね。
うん、そうですね。曲の中で“まともなこと”を言わなくていいっていう(笑)。ほんとそう思う。『THE FUTURE TIMES』では平熱の体温で言葉を綴って、みんなとちゃんとディスカッションしてる場所がある一方で、こっちの俺はロックミュージシャンだし、辛辣な言葉も書くし、“クソみたいな皮肉のひとつも言えなくてどうするよ?”って思うし。たぶん、メジャーのフィールドでは、ここまでの言葉は誰も取り扱ってなかったので、そこに関してはロックミュージシャンとして勝負できたかなっていう自負はありますね。ただ、これがエンターテインメントか、大衆音楽かっていうのは、俺はよく分からんっていう(笑)。とはいえ、延々とみんなで内面をこねたりとか、似たような歌詞を歌ったりしてる場合じゃないだろ!っていう気持ちもあって。要約していった結果が“頑張ろう!”とか(笑)、みんな同じ言葉じゃないほうが面白いかなって。そういう意味では…変なものを作ったなあって思ってます(笑)。
そういう“個の爆発”としてのロックンロールが今は必要だっていう気分が出てますよね、『ランドマーク』には。
完全に00年代は終焉したんだと思うんですよ。内面世界みたいなものが、震災によって完全に終わったんですよ。自分の内側だけを掘って曲にしてていい幸せな季節は終わったんです。僕たちが最初に取り戻さなければいけないのは身体性、肉体性なんだって。少なくとも俺はそういうものを書きたいと思って…音楽的には00年代を過ぎて“この音だから◯年代”っていうのが細分化されていて、USインディーとかダンスミュージックとか個々のジャンルに関して“最先端はどれか”っていう観点しかないと思うんだけど、まだ言葉に関しては時代性があるんじゃないかなと思っていて。“新しい時代の新しい言葉”は常々意識していて。ロックミュージシャンは、もっと好きなこと書いて好きに歌えばいいんだよ、っていう気持ちはあるんですよね。