『モラトリアム』(生産限定盤)(DVD付) [Single, CD+DVD, Limited Edition, Maxi](徳間ジャパンコミュニケーションズ)/ひめキュンフルーツ缶

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《後編》ひめキュンの映画『あすなろ
参上!』が面白い!

現実の世界と映画の世界がシンクロ

 それからこの作品で特徴的なのは、ここを歩いてったら、ここに来るとか作品内における場所がそれぞれほぼ実際の場所と対応していること。分かりづらい書き方ですね……。例えばある建物に入っていくシーンがあったとして、入ったら、本当のその建物の内部とは別の場所がセットになってたりして、実際の世界と、作品内における世界の場所の位置関係は全然別物なのが当たり前です。すみません、まだ何を書いてるか分からないですよね。例えば、神奈川県でのシーンがあって、作品内でその5分後に歩いて辿り着いた場所が千葉県だったり、みたいなことって、映画やドラマなら往々にしてあって、むしろそれが当たり前だったりします。ロケ地に相応しい場所を繋ぎ合わせて架空の世界・作品を構成するわけですから。
 しかし、『あすなろ参上!』の場合、ほぼ現実の世界と作品内の世界が同一のように思えます。物語の中で松山市駅からちょっと走れば実際同様サロンキティがあるし、伊予鉄に乗れば十数分で実際同様道後温泉に到着します。岡本真依さんがプロデューサーと喧嘩して、飛び出して一人歩く場所は、実際にサロンキティ近くの川沿いだし、この作品内の世界の地図を描いたとしたら、本来虚構であるはずなのに、まんま現実の地図になると思うんです。ひめキュンに感情移入するように、このアスナロAというアイドルグループにすんなり感情移入してしまうのは、その作品内の世界の描き方があまりに現実と同一だから、というのもあるかもしれません。
 そのように、全く現実世界と同一の舞台縛りで、うまく作品を構成できたのには、松山という場所の特性もあるのでしょう。松山って、色んなものが割と固まってるんですよね。繁華街からそう遠くない場所にロープウェイがあって、登ると松山城があります。松山城の近くには、坂の上の雲ミュージアムがあって、前述しましたが、道後温泉も市内線で十数分。その間にはひめキュンがライブをするのを目標としているひめぎんホールもあります。電車にちょっと乗れば海まで行けますし、様々な場所がコンパクトに固まってるんです。様相が異なる様々な場所が密接にあるからこそ、作品の世界が現実と寸分違わぬ世界であっても、物語を、飽きることないビジュアルで、うまく成り立たせてしまえるんだと思います。

自己紹介ソングは「あすなろ参上!」

 ちなみに、これは、松山という場所を観光する上で、大きなメリットなんだろうな、と。例えば、仙台とかだと、半日空いた時、何をしていいか分からないんですよね(今度また行くんですけどね。ひめキュンを観に)。大都市だし、もちろん牛タン大好きなんですが、仙台でどこかに行こうと思っても、近場で行って帰ってこられる場所というのがなかなかないんです。その点、松山は半日もあれば、坊っちゃん列車に乗って、道後温泉に入って、松山城に行って、坂の上の雲ミュージアムを観て、銀天街や大街道で買い物をして……と色んなことができてしまう街なんです。
 話が逸れましたが、ラストはひめキュンの自己紹介ソングである「ひめキュン参上!」をベースにした、というかほぼ丸々同じ曲「あすなろ参上!」を歌うライブシーン。彼女たちが愛媛県松山市から全国区のアーティスト目指して頑張ることを歌ったこのシーンのエモさは、映画に感動しているのか、アスナロAというグループに感動しているのか、演じているひめキュンと同一視して感動しているのか、もう頭の中がグチャグチャでよく分かりませんでしたが、とにかく涙、涙。
 前述した、現実の世界と作品内の世界が合致しているであろうことも、このフィクションとノンフィクションの境目のグチャグチャ感に拍車をかけているのかもしれません。そして思いがけなく、映画のラストでは「ひめキュン」という言葉も登場して、さらに、アスナロAが現実のひめキュンと地続きの存在に見えないこともなくなっちゃって、アスナロAに感動しているのか、現実のひめキュンへの思い入れに感動しているのか、ますますグチャグチャになってもう何が何だか分かりません。何が何だか分からないのですが、とにもかくにも映画を観ている100分間、楽しくて、切なくて、可愛くて、この5人が何よりも魅力的で、何よりも応援したい存在であることを再認識させられてしまいました。

散りばめられた「坂の上の雲」のパロデ

 舞台が松山繋がりということで、NHKで放送された『坂の上の雲』のパロディのナレーション(オリジナルは渡辺謙さん!)が各話の頭に流れるんですが、『坂の上の雲』の冒頭といえば、「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている。小さなといえば、明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう(以下、略)」というもの。
 そんな小さな国の中の古い城下町に生まれた三人の男の一人は、日露戦争で勝利は不可能に近いといわれたバルチック艦隊を撃滅する作戦を立て、実施した秋山真之。一人は騎兵を率いて史上最強の騎兵といわれたコサック師団を破った真之の兄・秋山好古。最後の一人は俳句・短歌の改革を成し遂げた俳人である正岡子規。そんな三人が、坂の上の空にある雲を見つめながら坂を登っていくように、明治という時代を生き抜く姿を描いたのが『坂の上の雲』です。
 そのパロディのナレーションが流れたら、ひめキュンの5人が坂の上を登っていく=目標とするひめぎんホールでのライブを成功させ、全国区のアーティストになるさまを思い浮かべずにはいられないですよね。
 というわけで、「ひめキュンを知らない人にも、映画の面白さを伝えたい!」と思って書き始めたのにも関わらず、結局ひめキュンに興味がない人にとって、映画の面白さを一切伝えることができない内容になってしまいましたが、それでも書きます。『あすなろ参上!』はとっても面白い映画です!! 必見です!!!

(文・ソレン)

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