「ミュージシャンから、編集者になっ
たふたり」FINDERS 米田智彦 × ミー
ティア 石野亜童 編集長対談【前編】
カルチャー好きの青年は、それぞれどう
やって「編集者」になったのだろう?
そこで今回、「クリエイティブ×ビジネス」を掲げるウェブメディア・FINDERS編集長の米田智彦と、ミーティア編集長の石野亜童による全2回のスペシャル対談を(思いつきで)敢行。互いに元ミュージシャンという異色の経歴を持ち、紆余曲折を経てメディアの長となった2人。「まずは自己紹介をば」と語り始めたら、お互いのエピソードが特濃すぎたため、対談前編では、2人がそもそもどのようにして編集者の道を歩んできたのかというお話をお届けします。ミーティアとFINDERS、2つのメディアをまたいだ合同企画になります。
Photography_Shinji Serizawa
Text_Sotaro Yamada
Edit_Kenta Baba
FINDERS編集長 米田智彦の編集者遍歴
米田:どもども。
石野:この時間からゴールデン街にいるの、はじめてかもしれないですね。
米田:いやーレアですよね。あ、えっと、ブラッディマリーください。
米田:僕の自己紹介、経歴グチャグチャなので異常に長いですよ。それだけで3万字くらいになっちゃう。
石野:そうですよね。ハイライト的に、ギュギュッとお願いします。
実力はあるものの「ルックスに華がない
」
石野:それはいつ頃の話?
米田:1997〜2000年くらいですね。大卒後、4年間フリーターやって、報道機関にいたので、その時に原稿の書き方の基本を覚えましたね。それが後に編集者になった時に生きてくるわけですが。音楽に関しては、実はメジャーレーベルでデビュー寸前まで行った話がいくつかあったんです。だけどディレクターに「君は天才だ!でもルックスに華がない」と真顔で言われたりして。
石野:ルックスに華がない(笑)。
石野:それでどうしたんですか?
米田:断りましたね。……そんな自信ありません、って。だって売るためにどうせタイアップとかドラマの主題歌とか、書きたくない曲を書かされることが目に見えていたから。それで徐々に人のライブにも行かなくなって、CDも聞かなくなって、楽器も売ってしまって、しばらくは音楽をなるべく遠ざけてきましたね(苦笑)。
ライターとしての初仕事は「ムエタイ選
手のコメントを想像で書く」こと
米田:そう。音楽の次に、書くことや雑誌や本が好きだったから、なんとか編集者になれないかなと。でも全くの未経験だったこともあって、片っ端から出版社受けたけど落ちまくったんです。
石野:その頃ってたしかに編集者やライターになりたい人って多かったですもんね。フリーランスは出版社にとって買い手市場だったような気がします。
米田:90年代は「これからはITかバイオが来る!」と言われていて、僕はウェブデザインはできたんですが、プログラミングがさっぱりわからなかった。そんな時に、バイオの研究所が東京にできる、という記事を見つけて。一旦別の道に行ってみようとおもって、2000年当時、あたらしくできた「独立行政法人産業技術総合研究所」のバイオの研究所の広報を1年間くらいやっていました。応募したら受かって、視察にやってくる国土交通省や経産省の人にプレゼンしたり館内案内したりして。プロモーションビデオもつくって、2000万円くらい予算使いましたね。
石野:規模がすごい(笑)。
米田:だけど、本当はカルチャー誌や音楽誌をやりたかったこともあって、フラストレーションがたまっていたんです。だから、土日は後楽園ホールに小さい頃から大好きだったプロレスと格闘技の試合を見に行っていてばかりいて。当時は『BOUT REVIEW』という格闘技サイトが立ち上がったばっかりで、ボランティアで記者を募集していて。それに応募して、誰も見てない第1試合のムエタイ選手のコメントをとってました。タイ人の選手とタイ人のトレーナーと、専門誌の記者と、あとは自分しかいなくて、誰も英語を喋れないという(笑)。
石野:それ、どうやってコメントとるんですか?
米田:想像です。「出だしのローキックは手ごたえがあったが、相手のカウンターのハイキックにやられてしまった」とか。
石野:おお、それっぽい(笑)
石野:格闘技が編集者へのとっかかりだったんですね。
米田:格闘技もプロレスも大好きでエキサイティングな日々でしたけど、本当はカルチャーがやりたいのに、毎日男の裸ばっかり見てるのも飽きるわけですよ。やっぱりカルチャーに関わる仕事ができないかなと常々思っていたところに、『ラ・プリヴェ(後に『WORLD INSITE』に変更)っていう裕福層向け会員誌の編集の仕事が転がり込んで来まして。自分1人で編集長兼編集者として入って、スイスの金融やドバイの開発、オーストラリアの観光を扱ったり、世界中の高級リゾートを取材したりして、「俺、ようやく理想の編集者になれた!」って思いましたね。2年ぐらい雑誌をつくってたんですけど、あるとき湯布院の『無量塔(ムラタ)』っていう1泊6万円〜7万円くらいする老舗高級旅館の取材が終わって会社に戻って来たら、突然、雑誌は休刊する、と言われて。しかもしばらくして会社は潰れて、社長が粉飾決済で逮捕されるという。そうしてフリーになったんです。
石野:波乱万丈すぎる(笑)。
米田:あてもなくフリーになっちゃったから、しばらくはお世話になった人たちの手伝いとか印刷所のチラシのコピーを書くとか、そうやって食いつないでましたね。
飲み屋で偶然得た「幕末」の書き仕事。
石野:あー、相手が?
米田:そう、相手が泥酔して遅刻(笑)。で、「求人内容はこちらでよろしいでしょうか?」と見せて。その求人内容は「年齢不問、髪形・ルックス問わずオールオッケー、寮完備」とかで、応募電話番号は090から始まってる(笑)。
石野:完全に個人番号だ(笑)。
石野:すごいな、泥酔ホストに営業してた翌年には、まさかの幕末ライター。
米田:それがきっかけでいろんな出版社と仕事するようになったんです。同時期に『TOKYO SOURCE』っていうWEBマガジンを有志でやっていて。「東京発、未来を面白くする100人」というコンセプトのWEBマガジンなんだけど、当時そこまで有名ではなかった気鋭の表現者たち(チームラボの猪子寿之さんとか、AR三兄弟の川田十夢さんとか)をインタビューしてたんです。その活動をまとめたのが『これからを面白くしそうな31人に会いに行った。』という本。
家賃の払い忘れから生まれた、ニュープ
ロジェクト
石野:そこからノマド・トーキョーが始まったんですね。
米田:始めてみるといろんな人が「変な人いるんだけど泊めてやってくんない?」って人間バトンみたいにつなげてくれて、家から家を泊まり歩く生活が始まった。当時はシェアハウスが一般的になりはじめたタイミングだったから、シェアハウスのオーナーから「使い勝手とか悪い所とか知りたいから、ブログに書いてくれたら無料で住んで良いよ」って言われて、巨大なシェアハウスに一人で住んでUstreamで中継したり。それに感化されたデザイナーさんがノマド・トーキョーの公式サイトを作ってくれた。GPSを使って米田mapっていうのをつくったんだけど、それを見た人が「今日うちのリビングに泊まりに来ませんか?」って面白がってくれるようになった。あとはヨガの先生がインドに修行に行くあいだ、光熱費と郵便物の受け取りをやってくれたら家賃ゼロで住んで良いと言ってくれたりして。そんな感じで、開始早々1ヶ月半で8軒くらい自由に住める家ができちゃったんです。
石野:すげえ。
米田:そのノマド・トーキョーを最初に報道してくれたのがライフハッカー[日本版]で、そのご縁もあってライフハッカー[日本版]の編集長に就任して、3年半やりましたね。そして今年の4月に自分の会社を立ち上げて、今は『FINDERS』というあたらしいWEBメディアにトライしている、という現状です。
石野:覚悟はしてたけど、めちゃくちゃ濃いですね、経歴。
米田:これでもかなり端折ってます(笑)。
石野:ありがとうございます。いまメインでやっている『FINDERS』ってどんなメディアなの?ということも教えてください。
https://finders.me
米田:『FINDERS』は「クリエイティブ×ビジネスをテーマに、イノベーションを生むメディア」と謳っています。クリエイターの人たちもビジネスマインドがないと生き残っていけないし、ビジネスパーソンもクリエイティブをわかっていないといけない。これからの時代は両方なければ生き残れないと常々考えていて、それを具現化するメディアにしたいと思った。クリエイティブ×ビジネスという両軸でいろんな人・企業・モノ・コト・プロジェクト・テクノロジー・アイディアなどを紹介していくメディアですね。
・この世で最も偉大な仕事が「詩人」である理由 編集者対談|若林恵×米田智彦【前編】
・本質的な価値を持つ「研究者」に投資し、カネでカネを生む資本主義に立ち向かう─リアルテックファンド代表・永田暁彦
・渋谷のど真ん中にクリエイティブスペース「EDGEof」を設立。世界的ゲームクリエイターの次なる野望 |水口哲也(エンハンス代表/EDGEof共同創業者)【前編】
「ミュージシャンから、編集者になったふたり」FINDERS 米田智彦 × ミーティア 石野亜童 編集長対談【前編】はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。