京都アニメーションがフィギュアに与
えてくれたもの

 7月に開催されたワンフェス会場には、その1週間ほど前に起こった京都アニメーション放火事件への追悼&応援パネルがありました。
 写真はグッドスマイルカンパニー&マックスファクトリーのWONDERFUL HOBBY LIFE for YOU!!ブースでのもの。
 文字部分をアップにしたもの。
 こちらはQuesQでのもの。
 他にもあったかもしれませんが、私が気づいたのはこの2カ所でした。この悲劇的な事件はホビー業界にとっても大変ショッキングなことだったのです。
 京アニは日本のアニメの方向性を大きく変え、その後に大きな影響を与えているというのはアニメファンなら誰もが知るところですが、フィギュアというジャンルにおいてもその影響は大きく、京アニがなければ現在のようなフィギュアの隆盛はなかったかもしれません。そんな京アニとフィギュアについてあらためてまとめてみました。
 まずなによりも、「涼宮ハルヒの憂鬱」があったからこそ、現在の主流であるPVC製塗装済完成フィギュアのファン層が大きく広がったという事実があります。
 PVC完成品フィギュアの歴史を振り返ると、2004年にマックスファクトリーから発売された「DEAD OR ALIVE」の霞の大ヒットがフィギュアジャンルの人気の拡大、一般化のきっかけとなっています。フィギュアの人気だけではなく、事前予約による受注、ウェブを中心とした広報&告知など、その後のフィギュア市場の基本となるシステム的な部分もこのフィギュアが登場した頃から形作られていっているのですが、その人気をさらに一般化して広げたのが「ハルヒ」なのです。
 ではその時何が起こっていたのか。「ハルヒ」という作品の爆発的な大ヒットにより、当然のようにファンはその関連グッズを求めることになります。そのジャンルのひとつとして注目されたのがフィギュアでした。「ハルヒ」以前にもフィギュア、立体で人気が出た作品は多数ありましたが、それはPVC製塗装済完成品フィギュア市場がしっかりと形作られる以前のこと。「ハルヒ」の登場は、クオリティの高い塗装済みフィギュアを発売できる素地ができたタイミングだったのです。
 そこで07年2月に発売されたのが、マックスファクトリーの涼宮ハルヒ。高いレベルで似ていてかわいく、まさにみんなが欲しいハルヒのフィギュアを実現したものでした。「DOA」霞の時はフィギュアの造形が人気になったという側面が強かったのですが、このハルヒの場合はその時のいちばん人気の作品のキャラのグッズとして人気になったということでもあるのです(もちろん、フィギュアとしてのクオリティの高さは大前提ですが)。原型師の個性を活かした作品としてのフィギュアではなく、キャラグッズとしてのフィギュアが中心になっていく転換点とも言えます(このあたりはアニメ本編でも同様に原画の個性ではなく、キャラ設定そのまま動かすことが重視され始めたこととも共通しているように思えます)。
 しかも当時の価格は税別3800円! 現在のフィギュアは1万円台後半になってなかなか気軽には買いにくいものになっていますが、この価格であれば誰でも買えるというもの。さらにこのマックスファクトリーのフィギュア以外にも各メーカーから多数のフィギュアが登場し、キャラグッズとしてのフィギュアの注目度は高くなり、一挙にフィギュアを買う層が広がったのです。
 さらに「ハルヒ」は、現在も人気のフィギュアシリーズ「figma」と「ねんどろいど」においても大きな役割を果たしています。
 マックスファクトリーの可動フィギュア「figma」の1作目は08年1月のゲーム「涼宮ハルヒの戸惑」の特典だった「超勇者ハルヒ」であり、08年2月に一般販売の1作目として発売されたのも「ハルヒ」の長門有希でした。「よく動く、キレイ」をキャッチフレーズに生まれた「figma」、アニメエンディングの「ハルヒダンス」がそのキーともなっているのです。
 「ねんどろいど」もシリーズ最初期は、クリーチャー系だったりマスコットだったり人間キャラ以外が中心だったのですが、そこにシリーズ8体目として「ねんどろいど ハルヒ」が07年6月に登場します。当初は「ハルヒ」公式のデフォルメイラストの再現を意識していたのですが(一部雑誌にその段階のモノが掲載されたこともあります)、最終的にはねんどろいどオリジナルのデフォルメデザインで立体化されることになりました。このデザインが現在も展開されているねんどろいどデフォルメの基礎になっているのです。
 いずれのシリーズも「ハルヒ」人気とも相まって大ヒットとなり、ファンの間に定着していくことになりました。
 「ハルヒ」のキャラデザインや作画は立体的で存在感を感じさせるもの(劇中の「GOD KNOWS」のライブシーンなどで顕著ですが)であり、フィギュアによる立体化にも適していました。そして特筆すべきはその瞳。当時のアニメとしてはあまり例がないくらいの描き込みとグラデ彩色が施されたもので、この瞳はフィギュアで再現したときにもその密度感が非常に映えるものとなったのです。
 フィギュア業界全体にブーストをかけたということでは、「けいおん!」も重要な作品です。「ハルヒ」以上にキャラが増え、制服やライブなど立体映えするシチュエーションもさまざま。一方、楽器は造形できれば映えるものの、なかなか(コスト的にも)難易度が高い(特にドラム)もので、各メーカーがさまざまなトライを行っています。人気が高いからこそチャレンジもしやすく、サブキャラのフィギュアや新入生勧誘の着ぐるみなどかなりユニークなものも出ていました。この時期が、PVC製塗装済完成品ブームのひとつの頂点をむかえた瞬間と言っていいかもしれません。
 また、「けいおん!」ではエンディングアニメ衣装のフィギュアを、京アニが自社で限定通販しています(フィギュア製作はコトブキヤ)。フィギュアメーカーではなく、アニメ会社や版権元がフィギュアを手がけることは現在ではごく普通にあちこちでやっていますが、これはまだ珍しい時期のことでした。このエンディング衣装に関しては当日版権でも許可されず、一般メーカーでの販売もなかったので、この京アニのフィギュアが唯一の立体化でした。メインスタッフがフィギュアのポーズ設定をしたり自ら監修を行ったりするなど、意欲的な取り組みも行っています。
 この他、「らき☆すた」「甘城ブリリアントパーク」「Free!」など、フィギュアでも人気のタイトルを多数発表しています。フィギュアジャンル全体にスマホゲームからの立体化が中心となっている近年は、他のアニメ作品同様にフィギュア化されることは以前より減っているものの、やはり特別な存在です。まだまだフィギュアと京アニについては語り尽くせないのですが、いったんはここまで。
 フィギュアの解像度(造形面でも塗装面でも)がさらに高精細になっている現在、京アニのような高密度の映像作品の立体化は効果的な結果を残すはずです。これから何を生み出してくるのか、映像作品にも立体作品にも注目し、楽しみにしたいと思っています。
 フィギュアジャンルにも数多くの恵みを与えてくれた京都アニメーションの復活を願い、祈りつつ。

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