アニソン界の革命児・神前暁 休業中
の今、改めて功績を振り返る

 そんな彼らの次世代を担う存在として、注目を集めていたひとりが神前暁(こうさき・さとる)。彼はここ10年ほどのアニソン界において、ひとつの流れをつくった人物といっても過言ではないだろう。

 神前氏が注目されるきっかけになったのは、2006年に放映された『涼宮ハルヒの憂鬱』。第1話で流れた「恋のミクル伝説」は、多くのアニメファンに衝撃を与えた(いい意味で電波ソングなので耳にしたことのない人はぜひ一度聴いてみることをおすすめする)。『涼宮ハルヒの憂鬱』は、神前氏と旧友のアニメ監督・山本寛がシリーズ演出を務めた作品でもあり、以降、山本作品の多くに関わることになるが、続く『らき☆すた』ではオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」が、オリコンチャート2位を記録するなど高い評価を獲得。もともとゲーム音楽を手掛けていた神前氏は、ゲーム会社退職後、「MONACA」というクリエーター集団に所属し、ほかのクリエーターとの共作も数多く発表しているほか、中川翔子などへの楽曲提供もしている。

 ロック、歌謡曲、J-POPと幅広い音楽を取り込みながら、とにかくキャッチーで歌いたくなるような展開が彼の持ち味。特徴的なブラスの入れ方、キラキラしたアレンジなど聴き手の気分を盛り上げる小ネタをこれでもかと仕込んでくる。また、声優(キャラクター)が歌うことを前提にした曲作りも徹底されており、作品やキャラを知ることによってより楽しめるというのも神前楽曲ならではと言えよう。

 アニソンは比較的女性ボーカルを活かす傾向がある。いくつかの作品を聴いていただければ、彼がいかにそこに長けているかがわかるだろう。「女の子が歌ってかわいい」という大前提を崩さず、独自の世界を展開する。いわゆるアイドルソングにも通じる曲作りだ。加えて、アニソンは制作側(お金を出す側)の意図を踏襲した環境で作られることが多い。OP、EDであれば何秒後にサビがきて、といった「お約束」も当然ある。その制約の中で印象的な楽曲を生み出してこそ、シーンを牽引するトップクリエイターたり得る(=クライアントの信頼も厚くなる)。そして、そんな彼が示したアニソンの新潮流/トレンドがあってこそ、ヒャダインこと前山田健一、志倉千代丸supercellのryo、Tom-H@cklivetunekzら今をときめく気鋭たちが羽ばたくきっかけにもなったのではないだろうか。(影響を受けているという意味でなく)

 さて、そんな神前氏だが、今年2月に体調不良でしばらく創作活動の休業を宣言した。復帰時期は未定という。以前にも同様の休業をしているため容体が心配されるが、毎週発注される楽曲を毎週仕上げるという激務をこなしていたというから、過労にも一因があったと思われる。今のところ今期放映の『キャプテン・アース』に提供した楽曲が休業前最後の作品となっているが、次に新作が届けられるのは果たしていつになるのだろうか。また素晴らしい楽曲が聴ける日を多くのファンが心待ちにしている。(板橋不死子)

リアルサウンド

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