おもしろい小説を読みたい人のための
、ブックガイドのブックガイド5冊

おもしろい小説を読みたい人のための、
ブックガイドのブックガイド5冊

おもしろい小説を読みたい。でもどれを選んでいいのか分からない。そういう人のために、ブックガイドが存在する。しかし、幸か不幸か、この世にはブックガイドが多すぎる。よいブックガイドを読みたい。でもどれを選んでいいのか分からない。そういう人のために、本記事が存在する。

もしあなたが日本文学の名作を読みたいなら、各出版社の刊行している『日本文学全集』のラインナップに目を通せばいいし、世界文学の名作を読みたいなら、『世界文学全集』のラインナップに目を通せばいい。簡単なことだ。そういう人にはブックガイドは不要である。

だから、本記事では、国やジャンルを問わずに、おもしろければ何でもいいという人のためのブックガイドをご紹介したい。しかも、著者名と書名の無味乾燥な羅列ではなく、読んで楽しいブックガイドに絞るつもりだ。


『理想の図書館』

網羅的なブックガイドである。質・量ともに、類書を凌駕している。欧米の文学なら、これ一冊でほとんど完璧と言っていいかもしれない。本書は3部構成を取っており、第1部は「世界の文学」、第2部は「小説から漫画まで」(漫画!)、第3部は「歴史と知識」と題されている。

急いで断っておかなければならないが、本書はもともとフランス語で書かれ、邦訳が出版されたのは1990年のことだ。したがって、「漫画」と言っても尾田栄一郎や岸本斉史が出てくるわけではない。手塚治虫や萩尾望都さえ出てこない。もっと言えば、本書には日本の作家への言及が少ない。だがこの点についてはすぐ後に述べよう。

第1部から第3部まで、それぞれ15個ほどのテーマが立てられている。テーマごとに、「10冊を選ぶなら…」、「25冊を選ぶなら…」、「49冊を選ぶなら…」と、順々に本が紹介されてゆく。49冊? 編者によれば、「50冊目を選ぶのはあなた」だからだ。

さて、日本の作品も少しは紹介されている。たとえば「アジアの夢」というテーマの中で、すぐ目に飛びこんでくるのは、松尾芭蕉『奥の細道』である。まさに王道の選書と言える。

一方で、日本人からするとやや意外な作品もある。川端康成『眠れる美女』がそうだ。同じ作者なら、『伊豆の踊子』か『雪国』が相場だろう。しかし、実は海外では『眠れる美女』は非常に有名である。ラテンアメリカ文学を代表するノーベル文学賞作家ガルシア・マルケスは、川端康成のこの短篇に着想を得て、中篇『わが悲しき娼婦たちの思い出』を著した。

こんなふうに、フランス人の視点から日本文学を眺められるのも、本書のおもしろい所だ。また、コラムもマニアックで非常に興味をそそるのだが、逐一書いてゆくと文字数が増えすぎるので、2冊目へ移ろう。


『幻想文学1500ブックガイド』

次に紹介するのは幻想文学のブックガイドである。本記事の最初に「ジャンルを問わず」と書いておきながら、幻想文学という偏ったジャンルを紹介するのはいかがなものか、と眉間にしわを寄せる向きもあるかもしれないが、安心してほしい、幻想文学という言葉の指す範囲は広大で、『指輪物語』から『クマのプーさん』まで入るのだから。

本書は国や地域ごとに、「怪奇」「異界」「夢」「英雄」など様々なカテゴリー別に詩や小説を分類している。本書における幻想文学の定義は懐が深い。曰く、「往古の神話伝説から二十世紀末の前衛文学に至るまで、人類が文学的想像力を駆使して営々と物語ってきた〈この世ならぬ事ども〉」である。だから『指輪物語』も『ギルガメシュ叙事詩』も『クマのプーさん』だって入るのだ。

どの作品にも短い解説が付けられており、参考になる。あなたが日常に倦み、〈この世ならぬ事ども〉を求めているのなら、本書は必携である。


『世界の奇書101冊』

2冊目と選書対象がすこし重なるが、ラインナップの趣きはかなり異なる。「神話学」「聖書学」「オカルチズム・予言学」「悪魔学」「性文学」「怪奇幻想学」というカテゴリー名を見ただけでも、両者の違いが分かってもらえるだろう。ここに『クマのプーさん』は出てこない。居場所がない。

本書で特に注目に値するのは、「性文学」のカテゴリーである。要はポルノ小説のことだが、興味を惹かれるのは、文学界の巨匠たちが手掛けたソレが紹介されている点だ。たとえばフランスの前衛詩人アポリネールの小説『一万一千本の鞭』や、百科全書派の1人ディドロの小説『不謹慎な宝石』が俎上にのせられ、妙に詳しく内容紹介されている。

かつて、アポリネールを愛する筆者は本書を読み、純粋な好奇心から、『一万一千本の鞭』のほかに、彼のもう1冊のポルノ小説『若きドン・ジュアンの冒険』を古書店で買い求めたことがある。帰宅して早速パラパラとページをめくってみたが、まもなく本を閉じた。そっと本棚の隅に差しこまれた2冊は、いまだ読者を持たない。

さて、表題に「奇書」を謳うだけあって、本書はマニアックな書物のショーウィンドウとなっている。新約外典の『ニコデモ福音書』、ベラミー『かえりみれば』、プランシー『地獄の辞典』など、いまだに聞いたことのないタイトルが並ぶ。また、巻末の「稀覯本ものがたり」では(「稀覯本(きこうぼん)」は珍しい本のこと)、類まれな書物にまつわる珍奇なエピソードが披露されている。時に雑学を仕入れられるのも、ブックガイドの利点と言えそうだ。


『星三百六十五夜(上下)』

このあたりで変わり種を混ぜておく。というのも、本書は野尻抱影のエッセイ集であって、ブックガイドではないからだ。しかし、このエッセイ集はブックガイドに見立てて使うことができる。

古来、日本の文化や芸術では、「見立て」は大きな役割を果たしてきた。日本庭園の枯山水において、白砂を水の流れに見立てていることは、多くの日本人の知るところだろう。と、もっともな理屈をつけて説明してもよいが、単にブックガイドを紹介してゆくだけではつまらないし、定義を拡張するためにも、ブックガイド以外の本を出しておきたい。

作者の野尻抱影は「星の野尻」で知られるほどの星マニアである。元日から大晦日まで、365日すべての日にまつわる星のエピソードを書き連ねた。それだけでも尋常ではないが、文学にも通暁していたため、古今東西の文学作品を数多く引用することができた。その結果、本書は星の文学ガイドと言いうるものになったのである。


『松岡正剛の千夜千冊』

最後に、ウェブ上で読めるブックガイドを紹介しよう。読書家にとっては最早あまりにも有名なサイトだが、これから本を探そうという人にとってはそうでないかもしれない。いずれにせよ、誰にでも、何にでも、初体験はある。本記事がその機会を提供できれば光栄だ。

おもしろい小説を読みたい人にとっては、『千夜千冊』の中でも特に次のページが参考になるだろう。「意表篇」の「文草界」である。

古今東西の文学作品を横断し、非常に丁寧な解説を加えている。概してブックガイドというものは、紹介する本の量が多ければ多いほど解説が短くなる傾向にある。逆に、解説が充実していれば、紹介する本の量が減る。ページ数には限りがあるため、これは仕方のないことだ。ところがウェブには文字数制限がないため、紹介する本の数がどんなに多くても、詳しい解説が物理的に可能になる。もちろん、詳しすぎる解説も困りものだが、『千夜千冊』ではおおむね適度な分量に収まっている。


本記事で紹介したおすすめブックガイド
『理想の図書館』
『幻想文学1500ブックガイド』
『世界の奇書101冊』
『星三百六十五夜』上
『星三百六十五夜』下
『松岡正剛の千夜千冊』

おもしろい小説を読みたい人のための、ブックガイドのブックガイド5冊はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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