【ナノ インタビュー】
制作期間中は
毎日ワクワクしていたし、
本当に濃厚な8カ月を過ごせた
10年前の自分の問いに答えることで、
次に進んでいきたかった
中でもご自身で作曲までしている「Hourglass Story」は、アコースティック色の強いシリアスなナンバーで、これまでになくネガティブな面もさらけ出しているような気がします。
この曲、実は自分が10代の時に書いた曲が原型になっているんですよ。当時は日本に来た直後で、自分の居場所に迷ったり、人生について葛藤し始めたり、本当につらい時期だったんです。でも、そういった過去があるからこそ今の自分があるわけだし、“あの時の曲が今、このアルバムに必要だ!”って、自分の中にポーンと出てきたんですよね。なので、2021年の自分としてアレンジし直して、もともと全部日本語の歌詞だったのを、一部英語に書き換えました。本来はもっとさわやかな曲だったのに、書き換えたことでよりつらさが増したのは、やっぱりいろんな挫折や苦しみを経て変わった部分があるからなんでしょうね。
そこは未来を示した「LINE OF FIRE」とは対照的ですね。
そうですね。「LINE OF FIRE」を聴くと、自分の曲なのに言葉が出なくなっちゃうというか、すごく感情移入をしてしまうんです。こんなに感情移入の度合いが強いのは、10年前に初めて発表したオリジナル曲「magenta」以来で、あの曲も当時は自分で聴いてもつらくて。その「magenta」のアンサーソングとなっている「Remember again.」も今回のアルバムの最後に入っていて…当初はアンサーソングにするつもりはまったくなかったんです。それが、作曲のbuzzGとやり取りをする中で、自分が落としていった歌詞から「magenta」がなぜか浮かんできたんです。考えてみれば「magenta」って自分の原点であり、“これからデビューして自分の人生はどうなっていくんだろう?”っていう未来への問いかけみたいな曲だったんですよね。だったら、自分の人生にとって大きなターニングポイントになるだろう初のセルフプロデュース作で、その宙ぶらりんになっていた問いを完結させることが、次に進んでいくためには必要なんじゃないかと思ったんです。
歌詞中に“magenta”というワードも出てきますし、英詞部分には《I know a song inside my memory》というフレーズがあるので、この“song”は「magenta」のことですか?
そうです! 他にも最後の1ブロックまるまる「magenta」の歌詞だったり…そもそも「magenta」の歌い出しが“Remember again”なんですよね。だから、ファンの人が聴けば一発で分かるけど、曲調はアグレッシブな「magenta」とは全然違うという。アルバムの中では唯一の邦楽らしい雰囲気を持った曲で、すごく音も軽やかで季節や時の流れを感じるようなメロディーだったり、花びらがキラキラ舞ってるようなイメージがあるんですよね。「magenta」に“素晴らしい未来が待ってたんだよ”って答えるための、ある意味アルバムの中で一番ポジティブな曲になったんじゃないかと思います。
じゃあ、10年前の自分に声をかけるとしたら何て言います?
“次の10年間、めちゃくちゃつらいことがあるよ。だけど、絶対に後悔だけはないよ!”って言いたいですね。最終的には“生きてて良かった”って笑顔でいられるから、ひとつもネガティブなことはないので、“今のままで間違ってないよ”って伝えてあげたいです。
そんな最高のアンサーを歌えたのも全てを自分で決定し、取り仕切ることのできるセルフプロデュースならではですよね。
セルフプロデュースって、ずっと以前から憧れてたんですよ。ゼロのところから自分がかかわって、チームと話し合い、楽器のレコーディングもマスタリングもミックスも全部立ち会った分、学ぶことがいっぱいありました。デビューから8年間、ずっと同じディレクターと制作していたのが、初めてそのディレクターと離れて…しかも、以前なら彼が座っていた椅子に今回は自分が座って。指示してくれる人は誰もいない、全てを自分で判断しなければいけないということで、やっぱり不安や葛藤もあったんです。でも、一回巣立ちしちゃうと、どんな動物も戻らないですからね。そこからは自分の足で生きていかなきゃいけないですし、そこで一番大事なのが育ててもらった感謝を忘れないことじゃないかなって。もともと他人に任せられない性格なので、制作期間中は毎日ワクワクしていたし、本当に濃厚な8カ月を過ごせたけど、同時に今まで本当にしっかり支えてもらっていたんだとも実感したので、死ぬまで感謝の気持ちは忘れたくない。
自分を支えてくれた人への感謝は、ちゃんとアルバムの中にも綴られていますよね。全英詞の「All I Need」を読んでも、高みを目指しながらも回りが見えてる方なんだと感じました。
すごく嬉しいです! 今回のアルバムで、ようやく今まで足踏みしていてなかなか触れられなかったノブに手をかけて、思いっきりバーン!と開けられた気がするんですよ。なので、ここから先は未知の世界に入っていく気持ちですね。例えるなら、不思議の国に迷い込んでいくアリスの気分。この『ANTHESIS』が異世界へと落ちていく瞬間のように感じるから、きっと次はまったく景色が違って、常識も何もかもが通用しなくなると思うんです。それが怖い部分もあるし、楽しくて仕方ない部分もあるけど、そこで学ぶことっていっぱいあるだろうから、恐れずにどんどん探検していきたいです。
先行きが見えない時代だけに、その言葉は頼もしい。
そんな時こそ工夫が大事で、できることに目を向けないと自分自身がつらくなるじゃないですか。この状況は全世界共通で自分だけの問題じゃないから、なるべくポジティブにとらえていくことが大切で、こんな時期でもアルバムを出せてファンとつながれることがありがたいし、決して進化するペースを落とさなきゃいけないわけじゃない。それこそ海外なんてまったく行けてないのに、今が一番海外のファンとつながれてるんですよ。もしかしたら会えないからこそ、お互いに一生懸命向き合おうとしているのかもしれない。距離も国境も超える電波を通じて、どこにいてもつながることができるんだとわかった今、また生でライヴができるようになった時には、さらに絆が深まってるんじゃないかと思います。
その時のことを想像しただけで、もうワクワクしますよね。
ファンもそうだし、アーティスト側も鬱憤が溜まってるんで、とんでもないライヴになるんじゃないかと(笑)。『ANTHESIS』は本当に全てが進化・変化しているので、今まで応援してくれた人たちの中には“ついていけないかも”って不安がる人もいるかもしれないですけど、これをきっかけにもっと新しい世界を一緒に見つけていきたいと思ってます。みんなが不安な想いを抱えて生きている時だからこそ、この『ANTHESIS』を少しでも自分のパワーに変えたり、生きる上でのヒントにしてもらえたら嬉しいですね。まだまだ未来は無限なんだから。
取材:清水素子