【ドレスコーズ インタビュー】
すごい時代に
音楽を作っていると思うと、
ちょっと気が引き締まる
みんなが同じような状況になるのは、
あんまりあることではない
そんな中、「ぼくをすきなきみ」はこの状況の中でのファンに対する気持ちが込められている曲として受け止めました。
僕は自然とそう思いました。違いました?
いやいや。僕にはそのつもりがあったんですけど、そういうふうに伝わらないと思っていたんです。
このアルバムは同じ時代を生きているファンにとっても、いろんなことを考えたり、想像したりできる作品だと思います。あと、アルバムが成長して音が重なっていくことによって、突然ロックンロールとして響きわたるようになっていたのも新鮮でした。「ちがいをみとめる」や「ローレライ」を『バイエル(I.)』で聴いていた時、ロックンロールとしては感じていなかったですから。
なるほど。今回は“バイエル”っていうくらいですからシンプルですし、もともとロックンロールもそういうところがありますからね。誰でも簡単に演奏できるようなところがあるので。
サウンド面に関しては、全体的に大聖堂で鳴っているかのような清らかな響きがありますよね。
そうですね。自分がどれだけ汚れているかについて自覚的で、一日に何度も手を洗って消毒してっていう世の中ですから、逆に言うと、人間がこんなに清潔で清らかになった時代っていうのもないんです。今の一番のトレンドって“消毒”じゃないですか。
そうだと思います(笑)。
こんなに汚れていることに自覚的な時代であるというのは、原罪じゃないですけど、すごく宗教的にも思うというか…僕には特定の信仰とかはないんですけど、そんなことを思ったんですよね。
「しずかなせんそう」は部屋で録ったんですか? なんとなく、すごく日常の空気みたいなものを音から感じたんですけど。
スタジオなんですけど、今回はiPhoneを使って録ったものが多いんですよ。
先ほどスケッチという言葉が出ましたけど、そういう音質によっても日常のスケッチ感が出ているアルバムになっていると思います。
そうですね。“僕らは外に出ないで過ごした”っていう事実のスケッチになるといいなと思って。
コロナ禍は自分自身をじっくり見つめ直す機会になりました?
はい。僕、世の中の役に全然立っていないし、立たなくていいし(笑)。勝手にやっているんです。高校生の頃とかも、みんなが好きな音楽と僕が好きな音楽は少し違っていたし、みんなが行っている学校に僕は行かなくなったし。でも、だから僕はバンドを始めて、アートに感動したんですよね。“他の誰かの役にも立たず、誰からも必要とされず、僕だけが今すぐにこれを必要としていて、でも他の誰にも分かってもらえない”っていうのを僕はやりたいんですよ。
「不良になる」と「よいこになる」にも、そういう姿が表れていますね。この2曲は対になっているように感じました。“他の誰でもない自分になりなさい”っていう想いが伝わってきます。この2曲、タイトルは対照的ですけど、言っていることの根本は同じですよね。
今回のアルバム、そういうハッとさせられる視点が本当にたくさんありました。
僕らはそれがお仕事ですからね。何かがあるたびに腕組みをして、“う〜ん”って考えるお仕事。今はいろんな人のお仕事が休みになったり、お仕事自体がなくなってしまったり、強制的にみなさんがいろいろ考えざるを得ない時ですから、生半可なものを作ったって誰も興味を持たないですよね。
いろんなことについて考えることができると同時に、全体的に温かい想いに満ちあふれているのもこのアルバムの魅力です。例えば「相互扶助」とか、実にやさしいトーンを感じますから。
“こうあるべき”っていうか、“こういうふうになれたらいいいな”っていう曲ではありますね。
このアルバムはピアノインストの「スコラ」によって一旦締め括り、アニメーション映画『音楽』の主題歌「ピーター・アイヴァース(バイエル版)」がカーテンコールみたいになっている印象も受けました。
そうですね。「スコラ」に関しては歌わないでピアノ曲として残すほうがいいと思ったんです。「ピーター・アイヴァース(バイエル版)」はクラウドファンディングみたいなのでビデオを作ることになり、自分で監督をしました。
あと、ドレスコーズはメンバーが毎回変わるバンドですけど、ツアーのメンバーはプロアマ問わず募集していましたね。
はい。“どんな楽器でもいいですよ”って言って募集したら、たくさんの応募がありましたね。で、その中の何人かと一緒にスタジオに入ってみて、“メンバーとしてお迎えします”とお伝えした人とまさに今リハーサル中です。ツアーはアルバムの録音したものとはまた別のアレンジ、変奏ですね。面白い編成で『バイエル』の曲をやってみたいと思っています。
あと、初回盤のDisc3が“こどものバイエル”というタイトルなのが気になったんですけど、これは?
“バイエル” は練習曲だから、僕が歌うためだけに作ったものではないので。これは児童合唱団が歌っていて、ピアノも合唱団の先生が弾いています。自分が歌わないバージョンのひとつですね。
『バイエル』は“今作るべきもの、表現するべきことを形にできた作品である”という感じですね。
このアルバム、僕自身も今聴きたい音楽がかたちになっている作品だと感じていますし、何年後かに聴いた時にいろいろ思い出すことになりそうです。
みんなが同じような状況になるっていうのは、あんまりあることではないですからね。“昨年、何してた?”って訊いたら、ほとんどの人は“家でYouTubeを観てた” って答えるでしょうから(笑)。2020年、2021年のことをみんなが思い出す時、みんなの記憶はだいたい一緒なんですよ。そんなことはなかなかあることではないと思うので、そういう期間にアルバムを作れたのは良かったなぁって思っています。すごい時代に音楽を作っていると思うと、ちょっと気が引き締まるというか。そういう時に歴史的な名作っていっぱい出ていますから、僕らアーティストはこういう時こそ働き時なんです。
取材:田中 大
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アルバム『バイエル』2021年6月16日発売
EVIL LINE RECORDS
- 【初回盤“全訳バイエル”】(3CD+Blu-ray)
- KICS-93984~6
- ¥7,000(税込)
- 【通常盤“バイエル”】(CD+Blu-ray)
- KIZC-624~5
- ¥3,850(税込)
- 【LP】
- NAS-2082
- ¥3,500(税込)
- ※KING e-SHOP限定商品
『《バイエル(変奏)》』
6/08(火) 福岡・BEAT STATION
6/10(木) 大阪・BIG CAT
6/12(土) 名古屋・CLUB QUATTRO
6/25(金) 札幌・PENNY LANE24
6/27(日) 仙台・Rensa
6/29(火) 神奈川・CLUB CITTA’
2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライヴやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。8thアルバム『戀愛大全』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』(2023年)が発売中。9thアルバムが2023年9月13日に発売予定。秋にはアルバムをひっさげたツアーも開催予定。近年は菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)などに参加。俳優として映画『溺れるナイフ』Netflixドラマ『今際の国のアリスSeason2』などに出演。映画『零落』(2023年 浅野いにお原作・竹中直人監督)では初のサウンドトラックを担当。現在は東京新聞にてコラムも連載中。ドレスコーズ オフィシャルHP
「はなれている」MV
「ピーター・アイヴァース」MV