「sad girl autumn」を紐解くーーア
デル、テイラー、ミツキ、サマー・ウ
ォーカーが赤裸々な心情を綴ったパン
デミック明けの秋
「sad girl autumn」とは?
夏が終わり、気温も下がり、アメリカでは「パンプキンスパイスラテの季節だ」と騒がれる季節になった。パーティーやライブなどのアクティブな外出生活が復活したからこそ、コロナ禍の外出自粛中では流れるように去って行ってしまった「季節」自体を新鮮に体感できる。そんな中で「泣ける曲」に長けていることで知られる女性アーティストたちが立て続けにノスタルジーや切なさ、内省や後悔などをテーマにした楽曲をリリースしたことで、すでに多くの人が感傷的になっている状況に「sad girl autumn」という名がつけられたのだ。エモーショナルでメランコリックな曲が秋に流行することは目新しいことではないが、いわゆる「コロナパンデミック明け」初の秋において、多くの人が久々にたくさんの「感情」に触れている時期にこのような曲がリリースされることが重要な要素になっているのだ。
ミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)が2019年にリリースしたヒット曲「hot girl summer」 をもじった、「hot vax summer」というフレーズが今年の春に話題になった。「みんながワクチンを摂取し終え、コロナが落ち着いたら、思い切りパーティーしてイケてる理想の夏を満喫できる!」といった具合だ。しかし、デルタ株の蔓延により、当初誰もが楽しみにしていた「hot vax summer」は実現しなかった。クラブやライブハウスの中でもマスクは必須になっているし、何よりも1年間半外出しなかった人々たちのコミュニケーション能力は衰え、たくさんのパーティーやイベントに出かけるぞ!という気概を持っていた人たちもそれほど外出しなかった、ということはニューヨーク・タイムズ(NYT)をはじめとした大手媒体で多く取り上げられている。その失われた「hot vax summer」の空白を埋めるように、悲しげな曲を聴きながら部屋にこもってじっと感傷的になる人に、性別も年齢も関係ない。
「hot vax summer」や「Sad girl autumn」は「概念」であり、みんなのものなのだ。スカーフを首に巻き、舞い落ちる枯葉を眺め、まるでドラマチックなロマンス映画の主人公になったような気分でアデルのアルバムを聴き、過去の恋愛を懐古することに一種の「楽しみ」を見出すのも、自分の中にある複雑な感情や思い出を処理するために重要な作業だ。
テイラーは、ファンに思い出の場所への旅を呼びかけ、独特の心の痛みを再確認させてくれる。一方、アデルは、離婚や、元夫サイモン・コネッキとの間に生まれた9歳の息子アンジェロに与えた傷、そして幸せへの道を見つけることをテーマにアルバムを制作した。2021年11月19日(金)に発売される『30』はアデルが “土星帰り “と称し、向き合わなければならなかった複雑な事情を凝縮したものとなっている。
ガーディアン誌で”失恋の代弁者”と評されたアデルは、今、ファンに溜め込んだ感情を解放して、悲しみを思い切り味わってほしいと呼びかけている。つまり、ポップミュージック界の2大巨頭が、”すべてを吐き出す理由”を我々にたくさん与えてくれているのです。」
Z世代と感情的に共鳴する「sad girl autumn」
Z世代らしい価値観とサウンドで知られるビー・ミラー(Bea Miller)のヒット曲「FEEL SOMETHING」で繰り返し歌われてるように、コロナ中の退屈な生活で「何かを感じる」ためにクレイジーな行動を取ったり、突発的に辛い食べ物を食べたりなどが一時的に流行った。感情を抑圧することでしかコーピングできなかったトラウマの強い一年を経た今、アデルやテイラーなど、エモーショナルな表現が個性であるアーティストたちが続々とリリースを発表することで、ちょうど世間とのムードと一致している。
参照:https://www.buzzfeed.com/lanahuh/just-to-feel-something-tweets-uk
サマー・ウォーカーが繰り返す恋愛、『
over it』から『Still Over It』
someone said have we picked a wall to slide down yet for Summer Walker’s album
— SAMARIA J. (@samariajdavis_)
まさに“sad girl autumn”なテイラー・スウィフトの『RED』
テイラーは10年前の自分の若さを抱きしめるように、元恋人に対する憎しみや悲しさを若さとして笑い流すのではなく、真剣に受け止め、当時の自分の感情をしっかりと「大切なもの」として扱っている。20歳のテイラーと29歳のジェイクの年齢差やテイラーの若さを、なぜ当時は「大人の女性」として扱ったのだろうか、年上の男性が年下の女性を大人のように扱いつつも、その若さや純粋さに漬け込んで搾取している「ありがち」な構図に多くの人たちが共感し、SNSで議論を巻き起こした。
10年前に共感できる曲として聴いていたファンがテイラーとともに成長し、当時の自分に愛を向けたり、今の自分に至るまでのストーリーを振り返るという大きなムーブメントが起きているし、冗談まじりでありつつも、ジェイクに対する憎悪も多く向けられている。
参照:https://www.washingtonpost.com/arts-entertainment/2021/11/12/taylor-swift-all-too-well-ten-minutes/
『Red』はオリジナル版のリリース当初から、「秋」をテーマとして強く意識したアルバムだった。特にリード曲「All Too Well」ではジェイクとテイラーのデート姿を移したパパラッチ写真で一躍有名になった「スカーフ」が歌詞の中で中心的モチーフになっていたり、タイトル曲「Red」でも「秋の落ち葉」が印象的なフレーズとして用いられている。このようなことから「sad girl autumn」というトレンドフレーズはまるでテイラーのためにつくられたかのようにぴったりで、その時期を決して逃さず、ミームさえも曲のタイトルにしてしまうその度胸は圧巻だ。
同世代の人々に向けて、アデルが描く『
30』
Silk Sonic and Adele definitely made music for MY generation! The not too old and definitely not too young crowd
クィアコミュニティに響くMitskiの声
自分を客観視する「sad girl autumn」
アーティスト
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