【tonari no Hanako インタビュー】
tonari no Hanakoは
だいたいの曲で脅迫している
いかに軽やかに笑いながら表現して
それと同時に毒も出すか
最新の曲の「ぜんぶ忘れてしまうって」はドキリとさせられるものがありました。“このままだと共有していた思い出とかが全部消えていくけど、それでいいの?”と、ある意味で相手を脅していますよね?
はい。脅迫です。tonari no Hanakoはだいたいの曲で脅迫しています(笑)。「ぜんぶ忘れてしまうって」は純粋な片思いをテーマにしたんですけど、つかず離れずの男性に対しての“いいの? 最終宣告ですよ”という気持ちを曲にしました。
恋愛はポジティブなイメージを中心として語られがちですけど、実はこういう怖さも含んでいまからね。
例えば“好き”と伝えるのことって、相手にボールをぶつけて、それに対する反応を迫るような行為じゃないですか。
そうですよね。そういうのを可愛らしく歌うことで緩和しているというか、笑いながらデッドボールを投げる感じです。ドロドロにもしすぎないし、相手にすがるようなのも違うっていうのが自分の中にあって。女性の強さも含みつつ男性に判断を迫るようなことを、いかに軽やかに笑いながら表現して、それと同時に毒も出すか。そういうのをくテーマにしています。
「ぜんぶ忘れてしまうって」は共有している思い出を次々挙げていますけど、ひとつひとつは可愛らしいのに、いつの間にか脅しとしての圧を帯び始めるという。
“怖いな…”と思っていただきたくて作っています(笑)。“これらの思い出が全部もうすぐなくなりますよ。それでいいの? もたもたしている暇はありませんよ”っていう感じですね。よく“女性は上書き保存。男性は別名保存”って言うじゃないですか。私は女性側のことしか分からないですけど、上書き保存っていうのは確かにそうだなと。だからこそ女性の“忘れちゃうよ? 上書きしちゃうよ?”っていうのは、男性に再三言わないと分からないだろうなと。
周囲の男性スタッフさんとかの反応はいかがですか?
“怖い…”って言われました(笑)。そこまで怖く作っているつもりはなかったんですけど。でも、怖がらせる目的で作っているので、世の中のフワッとした恋愛をしている男性に聴いていただいて、しっかりと心を決めることをお願いしたいです(笑)。
世直しですね。
はい。女性の味方をしていく曲です(笑)。怖さを可愛さのオブラートに包んで、しっかりキャッチしていただけるように作っています。脅迫の曲ではありつつも、紐解いていくと純粋にその人のことを想っているんですよね。
キャッチーに仕上げつつも、きれいに取り繕った絵空事にはしたくないということですね?
おっしゃるとおりです。現実をリアルに描きたいんですよね。理想論みたいなことはなるべく描かないようにしています。理想論を描く音楽の良さもありますけど、tonari no Hanakoが表現したいのはそういうものではないんです。
歌詞も激しい言葉が突然出てきますよね。《爆破したかった終電も》とか。
こういうことを思う女性は意外と少なくないんじゃないと思います。
しかも、激しい感情を歌声にそのまま反映するのではなく、抑制したトーンで表現していますよね?
柔らかく怨念を込めております(笑)。感情をだだ漏れにするのは私自身が得意ではないんです。どちらかと言うと感情を飲み込んでしまうし、涼しい顔をしてやりすごしてしまうタイプなんです。でも、押し込めている感情はマグマのように今にも出てきそうになるんですよ。だから、表面上はさらりとしていても、内側には渦巻いているものがあるというのを歌声でも表現したいんです。
抑制したトーンの奥に深い感情を込めるニュアンスはトラックに関しても感じました。
トラックメイクにもこだわっています。あんまり音を重ねないようにしたりとか、引き算しながら作るのを大事にしています。あと、感情が上下に振れないようにループのサウンドで構成していくことで、没入感みたいなものを作りたいとも思っています。
「ぜんぶ忘れてしまうって」のトラックは、まさにそういうものになっていますね。表面上は瑞々しいですけど、奥の方から熱がジワジワと伝わってくるニュアンスを感じます。
私が目指していた世界がそれなので、そう言っていただけて嬉しいです。
アレンジはTAMATE BOXさんと相談しながらかたちにしているんですか?
はい。“こういうふうにしたい”という話をすごくしています。そこにTAMATE BOXさんの味を加えていただいているので、毎回とてもいいものが仕上がってきますね。
この曲を男女のカップルに聴かせて反応を観察したら面白そうです。“男性は動揺するだろうなぁ”と想像しているんですけど。
そうですね(笑)。この曲のMVはカップルの際どいところを描いたものになっているので、男性はヒヤッとするかもしれないです。ショートドラマを観るような感覚になると思います。
MVのイメージは作曲をしている段階からはっきりと見えているんでしょうか?
曲によってですね。この曲に関してはsobueの中に“こういうものにしたい”というのが明確にあったので、ほぼ任せています。私が伝えたのは“一応、これは片思いの曲だよ”という点だったんですけど、MVはかなりドロドロしたものになっています。色、質感、tonari no Hanakoの世界観はお互いに共有しているので、それを軸にしてもらいつつ、ストーリーはsobueオリジナルっていう感じです。