【和楽器バンド インタビュー】
『I vs I』はいわゆる
“抜いている楽曲”というのがない
僕はギタリストとしての
エゴがあまりない
アレンジ面では和楽器バンドは音数が多いのにもかかわらず、ゴチャゴチャしていないことも特色になっています。
和楽器バンドはサビで転調することとかも多くて、そうするとAメロは誰がメインで引き立って、Bメロは誰がメインで、サビはこの人がメインで…というのが自ずと決まってくるんです。それぞれの楽器の特性から、例えばサビのキーに合わせている人はAメロ/Bメロはちょっとしか入れなかったりするんですよ。逆に、Aメロ/Bメロのキーに合わせている人は、サビで使える音があまりなかったりする。つまり、そこのコントラストをどうやっていくかということですよね。そういう意味ではオーケストラまではいかなくても、ビッグバンドのヴォイシングみたいなことは意識しています。
すごく面白いですし、一般的な編成のバンドさんもそういう感覚でアレンジを考えるというのはいいヒントになる気がします。
そうかもしれないですね。それに、僕はブラスセクションの譜面みたいな感覚でレコーディングしながら聴いているから、例えば調性感をあまり強く出したくなかったら、三味線に3度を弾いてもらったりします。三味線は撥弦楽器で、しかも叩きが強いので、音の減衰がめっちゃ速いんですよ。だから、3度の音を鳴らしても強調されない。逆に、調性をよく出したい時は尺八とか、音がよく伸びる楽器に3度の音を弾いてもらったりとか。そういうこともしています。
おおっ! 調性を音価で操るということは考えたことがありませんでした。
意外と盲点かもしれないですね。僕は基本的にギター、三味線、尺八でその辺は作っていきますが、例えば9th以上の4声が出てきた場合は9thの音は結構当たるじゃないですか。それが一番きれいで、かつ和っぽく聴こえるのは箏だったりするんですよね。そういうふうに和音の重ね方という観点で楽器を選んだりしています。
さらに、箏が箏に聴こえなかったり、尺八がリコーダーのように聴こえたりするといった手法を採れることも強みと言えます。
うちの和楽器隊の人たちは伝統的なものをちょっと崩して、なるべく新しいことをやろうとしてきたメンバーが集まっている。だから、こういうことができるのかなと。
いいメンバーが揃っていることからは、バンドを立ち上げた時からビジョンが明確だったことが分かります。続いて、『I vs I』のギターについて話しましょう。町屋さんは前作『ボカロ三昧2』でクリーントーンでテクニカルなプレイをするというモダンなスタイルを披露されましたが、今作は曲調に寄り添ったアプローチを採られています。今回も前作のようなプレイをしたいという気持ちになったりしませんでしたか?
ならなかったです。僕の中では楽曲をいかに良くするかが最も重要で、アレンジングが一番力を注がないといけないことなんですね。そういう観点で考えると今作みたいな激しい楽曲はこういうサウンドに持っていくのがベストだし、それがクライアントさんが喜んでくれる、お客さんにも楽しんで聴いてもらえることにつながる。なので、今作は最近よくやるモダンなスタイルではなくて、トラディショナルなスタイルでいくことにしました。
それを楽しめる辺り、生粋の音楽好きと言えますね。ギターパートを考える際もギタリストとしてではなく、アレンジャーの観点で考えるのでしょうか?
そうですね。僕はギタリストとしてのエゴがあまりないんです。
分かります。例えば、すごくカッコ良いギターリフができても、それを箏が弾いたほうがいいと感じたら箏に任せているような印象を受けます。
そうしないと、よくある音楽になってしまいますからね。ロックバンドをベースとして、上モノ的に和楽器が入ってくるというアンサンブルになってしまう。僕が提示したいのはそういうものではないんです。そもそも僕は自分がどういうギターを弾くかということよりも、楽曲としてどれだけクオリティーの高いものが作れるかに喜びを感じるんです。
ギタリストとして高いスキルを持っていながらギター推しではないというのは稀有な気がします。メタリックなアプローチからしなやかなカッティングまでカバーする幅広さは、どんなふうに習得されたのでしょう?
もともと僕がギターキッズだった頃にやってきたものはプログレとかフュージョンだったんです。そうすると、すでにいろいろ混ざっているじゃないですか。あと、ファンクも好きだったので、跳るのも好きだったんです。だから、僕の頭の中では常に3連符の跳たリズムが鳴っていて、どんな曲でもタカタ・タカタ・タカタ・タカタという連符が鳴った状態になる。だから、「そして、まほろば」で疑似6/8拍子にいったのも自然な流れだったんです。