ユプシロン

ユプシロン

【ユプシロン インタビュー】
違うレンズを通した色の見え方を
楽しんでもらえたらいい

何も衝撃がないと、
何にも生まれない

今回の作品の中で「祭壇」は何かから影響を受けていそうなシネマティックな楽曲だと思ったんですが、これはどんなきっかけでできたんでしょうか?

詳しくは初回限定盤のライナーノーツに書いたんですけど、簡単に話すと僕は子供の頃に何回か手術と入院をしたことがあって、そこで治療していた時の経験が反映されて、グロテスクで美しい曲になったっていう。でも、それがあったからこの曲ができたっていうだけで、表現していることとしては、食物連鎖の頂点に人間がいるわけじゃないですか。それって自然界の中では不自然なことなんだろうなって。誰かに食べられる心配がない動物ってあんまりいないから、その不自然さの代償があるはずだと思って、それを表現したっていう。今作のリード曲は「パラドックス」なので、「祭壇」は好きにやらせてもらいました(笑)。

このドラマチックな楽曲がそんなリアルな経験から生まれてきたというのが驚きです。よくこういう世界観に昇華されましたね。

根がポジティブなんすよね(笑)。何も衝撃がないと、何にも生まれないんで。

「祭壇」はリード曲じゃないから好きにやったとのことですが、そういう意味では「ユビキタス」も同じですか?

そうですね。かなり自由にやらせてもらいました。5曲目をピアノ1本の曲にすることは最初から決めていたんです。“歌ってみた”でもピアノ1本の曲を協力してくれるピアニストの方と一緒にやっていて、それがリスナーさんから好評だったので、オリジナル曲でもやってみたいと思っていたんです。実は3曲ぐらい作って、どれにしようか悩んだんですよ。めちゃくちゃ暗い曲もあったんですけど、「祭壇」のあとだと重いなって(笑)。なので、リスナーのみんなの向けた曲にも聴こえるし、ラブソングにも聴こえる「ユビキタス」を入れました。

リスナーのみなさんに対して、どんな想いを込めたのですか?

今聴いてくれている人たちに、ずっと聴いてもらいたい気持ちがあって。それってつまり、変わらないでほしいっていうことじゃないですか。“ユビキタス”って“普遍的なもの”や“当たり前にそこにあるもの”っていう意味ですけど、僕の音楽が傍にあることが当たり前になってほしい、それが続いてほしいと思って作りました。

ちなみにピアノ1本で歌うのは得意ですか?

もともとは苦手でした。ロックな曲を歌ったほうが粗が目立たないと思うんですよ(笑)。ピアノ曲は誤魔化しが効かないので。“歌ってみた”でピアノ曲を選んでいたのは、修行でもあったんです。丸裸になった歌を見つめ直す機会というか。

「ユビキタス」の歌声には感情の揺らぎのようなものまでパッケージされているように聴こえたんですが、ご自身ではどういう歌が録れたと思っていらっしゃいますか?

活動当初はブレス音を多用していたんです。でも、最近は引き算をしていて。「ユビキタス」のサビも力強く歌うことはできたし、もっと裏声っぽく歌うこともできたんですけど、その中間みたいにしたいと思って、気持ちを込めつつも、うるさくない歌を考えて録りました。レコーディングは難しかったんですが、やりたい表現はできたと思います。あとは、自分の低い歌声のいい成分をAメロで使いたかったので、それもできたかなって。

修行の成果が表れましたね!

はずです!(笑) それこそさっきおっしゃっていた感情による歌声の揺れも、真っ直ぐに機械的に直すこともできたんですけど、そうせずに生っぽい感じにしました。

すごく客観的にとらえていますよね。“この曲にはこの声が合う”とか。

それはレコーディングを自分でやっているからかもしれません。どういう声色で歌うかっていうところから決めるので。プリプロで何パターンか歌ってみて、切って貼ってくっ付けてみて、どの声がいいかを決めてから歌うんです。「ユビキタス」はそれを丁寧にやったので、レコーディングしている時、かなり客観的なんですよ。歌っているんですけど、半分エンジニアさんの気分というか。

この流れで訊くと、ユプシロンさん節が出ている「パラドックス」は歌いやすかったですか? 聴いている立場としては、スピード感があって難しい歌に感じるのですが。

めちゃくちゃ歌いやすかったです!

そうおっしゃると思いました(笑)。

あははは。1年半前に出した「フォージェリィ」(2022年11月発表のミニアルバム『セイロン』収録曲)が、ひとつ代表曲みたいになっていて。だから、“ユプシロンと言えばこれ!”みたいなものが組み立てやすくなったので、この曲はサクサク作れました

ユプシロンさんって多作ですけど、「パラドックス」はどれくらいの時間をかけて作ったんですか?

これは共作(作編曲)してくれているsachiさんのおかげなんですが、1カ月かかっていないんです。SODA KIT(ユプシロンも所属する男女4人の歌い手VTuberグループ)のワンマンの準備が大変で、今作のスケジュールがタイトになっちゃって。「祭壇」と「パラドックス」は同時進行で、3週間くらいで完パケしました。「祭壇」はテーマをsachiさんに話してオケ先行で作ってもらって、そこに僕がメロディーと歌詞を入れて。「パラドックス」はコードが丸サ進行っていうのは決まっていたので、リズムを決めて、メロディーを何パターンか乗せて、それをsachiさんに投げて。だから、sachiさんが「祭壇」を作っている時に、僕は「パラドックス」を作って、あとでそれを交換するみたいな流れでした。sachiさんは3年一緒にやっているんで、だいたい僕がやりたいことを把握してくれているし、感覚も同じだから。

だからこそ、タイトなスケジュールでもスムーズにキャッチボールができたんですね。曲はオケ先行やコード先行、メロ先行とか、いろんなパターンがあるんですか? それこそ詞先とか。

「ユビキタス」は詞先だったかな? 《いつか終わるかもしれないと君は言った》から始まるんですけど、始まりから終わりの話をしようと決めて作ったので。

なぜ始まりから終わりの話をしようと?

僕の普段の考えでもあるんですけど、“いつか全部終わるじゃん”っていう(笑)。細かいことは気にしない性格なので。この曲は、自分語りというか、いつも思っていることから始めたいと思ったんです。

この曲のみならず、ユプシロンさんが何者なのか伝わってくる作品になったと思うんですが、自分だからこそ歌える曲ということは考えますか?

それは活動のテーマにはありますね。自分自身もいろんなアーティストを聴くんですけど、いい曲って世の中にいっぱいあって、ぶっちゃけもう足りていると思うんですよ。そういう意味で“ユプシロンが歌う意味”みたいなことは、すごく考えます。早口で、音をバーン!と浴びて、気づいたら終わっていて、なんかすっきりする…みたいな(笑)。でも、歌詞を読むと“こういう見方もあるんだ!?”と思える。違うレンズを通した時の色の見え方を楽しんでもらえたらいいかなと思います。

今後はライヴもやっていきたいですよね。

そうですね。ライヴはひとりでは無理だと思っていたけど、メジャーデビューしてから現実的になってきたので。楽曲制作でもライヴを意識するようになりましたし。

ちなみに「シンデレラ」はライヴ映えしそうですが、ライヴを意識して作りました?

いや、考えていなかったですね。ライヴ映えはしそうですけど、歌うのが難しいので(笑)。“頑張らなきゃなぁ”って(笑)。でも、ライヴでファンの方と一緒に楽曲を育てていくっていうのは体験してみたいですね。

取材:高橋美穂

ミニアルバム『ガタカ』2023年9月6日発売 PONY CANYON
    • 【初回限定盤】(CD+ブックレット(20P))
    • PCCG-02275
    • ¥2,750(税込)
    • ※アザージャケット仕様
    • 【通常盤】(CD)
    • PCCG-02276
    • ¥1,980(税込)
ユプシロン プロフィール

ユプシロン:少年のような少⼥のような歌声を持つVsinger。性別・年齢・正解の“概念”を失い、⾳楽を通じて⽋けたものを探している。作詞作曲を⾃⾝で⾏ない、ボーカロイド楽曲の投稿や他アーティストへの楽曲提供も⾏なう。変わった⾓度から描く、哲学的な歌詞には定評がある。クールなクリエイターに⾒られるが、かなりの天然で、やらかしエピソードは多数。また、『60⽇後に始動する歌い⼿グループ』として正体をあかさずに歌声だけで動画投稿をスタートさせ話題になった男⼥4⼈のVTuber歌い⼿グループ・SODA KIT(ソーダキット)のメンバーYupsilonとしても活動している。ユプシロン オフィシャルYouTubeチャンネル
ユプシロン オフィシャルX

「シンデレラ」MV

「ZERO」MV

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」