特別対談 / VivaOla × Kota Matsuk
awa「呪いのようなものが解かれてき
た感覚がある」──共同制作から生ま
れた意識の変化 「呪いのようなもの
が解かれてきた感覚がある」──共同
制作から生まれた意識の変化

VivaOlaがニュー・シングル「O.M.M (feat. 藤田織也)」を10月11日(水)にリリースする。
今年に入ってから「BOLD (feat. reina)」「GIVE MINE」「PRESENCE」と、いずれもクリエイティブ・レーベル/コレクティブ〈w.a.u〉のファウンダーとして知られるKota Matsukawaをプロデューサーに迎えたシングルを発表しているVivaOla。ミニマムかつモノクロの世界観が展開されているこの3作こそが、彼の最新モードなのだろう。2021年発表の1stアルバム『Juliet is the moon』でのカラフルなサウンドから大きな変化を感じさせると同時に、その独創性の高さにも磨きがかかっている。
両者はこの連作の流れでアルバムをリリース予定だという。セルフ・プロデュース作も多く発表しているVivaOlaにとっては、ひとりのプロデューサーとタッグを組んでまとまった作品を制作するのはこれが初となる。今回は2人の対談を通して、このプロジェクトのスタートから2人の現在地を紐解くことに。また、すでにほぼ完成しているというアルバムについても語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
「お互い孤独に作り続けてきた」──2人の出会いと共振
――現在制作中のプロジェクトについてお聞きする前に、まずはおふたりの出会いから教えてもらえますか?
VivaOla:……最初はどんな感じだったっけ?
Matsukawa:俺視点から話す?
VivaOla:その方がいいかも(笑)。
Matsukawa:共通の知り合いから「VivaOlaっていうヤバイやつがいるから今度紹介する」って言われてたんですよね。でも、一向に紹介してくれなくて(笑)。その後、2021年の初めにさらさのライブでベースを弾いてたら、フィルとかで美味しいフレーズを弾く度に「フゥ!」とか反応してくれるお客さんがいて(笑)。
VivaOla:(笑)。
Matsukawa:ライブ終わってよく見てみたらそれがVivaOlaで。そこで初めて言葉を交わしました。
VivaOla:そのときのバンド・メンバーに知り合いが2人参加していて、その繋がりで遊びに行ったんです。そしたら「やたらカッコいいベーシストいるぞ」と(笑)。
Matsukawa:でも、そのときはあまり深い話はしなかったよね。
――では、おふたりが深く交わったタイミングというのは?
Matsukawa:最初に話した共通の知り合いがシンガーとして活動しているんですけど、その人の作品を一緒に作ろうってなって、VivaOlaの家に集まったんです。
VivaOla:そう。ただ、そのときMatsukawaは時間ぴったりに来てくれたのに、僕は自分の作業が終わってなくて。当時は『Juliet is the moon』の作業をしていたんです。
Matsukawa:肝心の知り合いは2時間くらい遅れてきたので、結果としてほぼ初対面の人の作業風景をしばらく見学することになって(笑)。めっちゃ細かくボーカルを調整するなとか思いながら見ていました。
VivaOla:その知り合いの作品は3人で一緒に作ったんですけど、色々あって世には出ていなくて。でも、Matsukawaとの共同作業で僕は直感的にフィールする部分があったので、Sagiri Sólの「秘密」のプロデュースに加わってくれないかってお願いしました。
Matsukawa:思い出した、確か前日に言われたんだ。一緒に遊んでたときに「明日、空いてない?」って。
VivaOla:そうだったね(笑)。実は当時、プロデュースに対してあまり自信が持てなかったんです。バークリーで学んだのもライティング(作曲)・コースだったし、自分の頭の中に理想の音はあるけど、それを実現する過程が中々上手くいかないことが多くて。「これはひとりでやらない方がいいんじゃないか」って気付き始めたんですよね。今振り返ってみると、その頃から色々なプロデューサーさんと交わるようになった気がします。その中のひとりに、Matsukawaもいたっていう感じですね。
VivaOla:Sagiriの「秘密」に話を戻すと、実はこの曲はかなり前からSagiri自身が温めていた曲で、ひとりでプロデュースするのはちょっと不安だったんです。そこにMatsukawaに参加してもらって、色々なアイディアをもらったり、ときには作業を交代して、殴り合いみたいなセッションをしましたね(笑)。
Matsukawa:僕にとっては誰かと共同プロデュースするのはそれが初めてのことだったので、VivaOlaの作業を見つつ、これまで我流でやってきたことの答え合わせをしているような感覚もありました。あと、僕は最初にドラムやビートから打ち込んでいって、そのリズムがしっくりこないと制作が進まないんですけど、そういった点でもVivaOlaの制作過程には共感する部分が多かったです。
VivaOla:これは後からわかったことなんですが、僕もMatsukawaも長く音楽を続けてるけど、多くの仲間とワイワイやってきたタイプではなくて。どちらかというとお互い孤独に作り続けてきたタイプなんです。だからこそ、最初の頃の会話は「YouTubeであのTips見たんだけど、どう思う?」とか、そういう内容ばかりだった気がする。
Matsukawa:作業しながら自然とお互いのことがわかってきた感じだよね。PCのディスプレイ越しに会話してたというか。
――楽器を鳴らしながらコミュニケーションを取っているような感覚。
Matsukawa:それのDTM版みたいな感じですね。
――「秘密」以降はどのように関わってきたんですか? それこそMatsukawaさんはvoquote名義でVivaOlaさんのリミックスも手がけています。
VivaOla:「秘密」の流れでMatsukawaにはSagiriの2ndシングル「blood」にも〈w.a.u〉のSakepnkと一緒に参加してもらって。それ以降は制作以外、遊びやライブなどでMatsukawaと一緒になることが多かったですね。
Matsukawa:次はreinaの「HEAL」じゃない?
VivaOla:そうだ。そこでようやく〈w.a.u〉のこともわかってきて。
Matsukawa:reinaの1stアルバム『You Were Wrong』は色々なタイプのR&Bにトライするっていうコンセプトがあって、その中でも「モダンなR&BだったらVivaOlaでしょ」っていうことで、今度はこちらからオファーしました。
VivaOla:「HEAL」のトラックは本当に50/50な感じだったよね。zuho(01sail、〈w.a.u〉所属のプロデューサー/ギタリスト)にギターを弾いてもらって、ドラムは2人で打ち込んだり、メロディやリリックの部分でも関わらせてもらって。reinaもすごくオープンマインドだから、ポジティブな議論もいっぱいしたし、みんなで一緒にレベルアップできた気がする。……そしてその制作の流れで「BOLD」の話を持ちかけて。
Matsukawa:「HEAL」の制作が大詰めに入った日、reinaが先に帰った後で次の曲の話をされて(笑)。
VivaOla:曲名は違ったんですけど、デモはすでに作ってたので、「こんな曲あるんだけど、一緒にやらない?」って(笑)。
Matsukawa:ただ、僕は僕で「U THINK」でreinaとVivaOlaをフィーチャーしたいなとひっそりと温めていて(笑)。お互い隠し玉を持っていたという。
「BOLD」「U THINK」で加速する2人のプロジェクト
――reinaさんがいないところで話が進んでいったんですね(笑)。その2曲の制作はどのような形で進んでいったんですか?
VivaOla:「BOLD」はドリルをやりたいっていうアイディアから生まれた曲で、デモの段階ではメロディもなくて、1ヴァースしかなかったんです。僕はMatsukawaの作る音像に特に惹かれていて、「BOLD」ではそういった側面を補強してもらった印象があります。
Matsukawa:最初はもっと『Juliet is the moon』の質感に近かったよね。そこからハイハットやスネアの音を変えたりして。
VivaOla:逆に「U THINK」はもうほぼ完成形に近い形でデモができていて、純粋にヴァースを求められている感じでした。だからこそ、プロ意識がめっちゃ出てくるというか、「カマしてやろう」って思いましたね。
Matsukawa:「BOLD」と「U THINK」でしっかりと交わった感覚があるよね。
VivaOla:そうだね。Matsukawaに音像やトラックの面を強化してもらった代わりに、自分はボーカル・プロダクションやボーカル・ミックスなどの面でreinaやvoquoteの作品に貢献できたのかなって。
――個人的に「BOLD」はリズムはしっかりとドリルだけど、ドリルでお馴染みとなっているような音色は全然入ってなくて。一聴した感じドリルっぽく聴こえないのがおもしろいですよね。
VivaOla:作った後に気づいたんですけど、ドリルを作りたかったのに自分の中のR&Bが強すぎて、ハイハットとかが2000年代のR&Bっぽい感じになっちゃったんですよね(笑)。あれ、何ていうんだろう……。
Matsukawa:まだトラップがなかった時代の、Timbalandとかm-floとかの曲によく出てきたビート・パターンというかね。
――「BOLD」「U THINK」で確かな手応えを得たからこそ、その後のプロジェクトへと繋がっていった?
VivaOla:そういう感じですね。この2曲の制作で、シンプルに2人で一緒に過ごす時間が増えたんです。reinaもいたけど、彼女は自分のパートが終わるとすぐ帰っちゃうから(笑)。そこで僕はまたぬるっと「もう何曲か作らない?」って言ったんですよね。
Matsukawa:そこから「GIVE MINE」を含む何曲かを制作して。
VivaOla:当時、Matsukawaはさらさのアルバム制作も並行してたよね? めちゃくちゃ忙しそうに自分のPCで別の曲を編集しながら、たまに僕の作業してる画面に向かって「そのスネアがいい!」とか「ピッチマイナス2!」って言ってきたり(笑)。
Matsukawa:2曲同時進行してた(笑)。
VivaOla:超忙しいA&Rみたいな感じでしたね。で、その後に「REFERENCE」のリミックスですね。「REFERENCE」は「TOMORROW」と一緒に、僕が次に出すアルバムに入れようと思っていた曲だったんです。でも、ちょっと違うなと思って、KRICKと一緒に作り直すことにして。そのとき、KRICKも〈w.a.u〉と接触し始めた時期だったから、「〈w.a.u〉でリミックスEP作ってくれない?」ってお願いして。
Matsukawa:〈w.a.u〉のメンバーでVivaOlaの家に行って、みんなでPC広げてリミックス制作大会みたいなことが行われました(笑)。
VivaOla:あれは遊びの延長だよね。しかもその前に、Anzai(Sakepnk)とMatsukawaは〈w.a.u〉の「w.a.u Introduction」もうちで作ってましたね。
Matsukawa:ワーカホリック過ぎる(笑)。
「自分はちゃんと生産者でなければいけない」
――おふたりのプロジェクトが、アルバム制作へと変わったのも自然な流れで?
VivaOla:KRICKと作った「REFERENCE」や、自分でプロデュースした「TOMORROW」をアルバム候補曲から抜いたときに、見えてきたものがあったんですよね。これはもう、Matsukawaと全部作った方がいいかもしれないなと。そこでMatsukawaにまたぬるっと伝えました(笑)。
――それはやっぱりMatsukawaさんとの制作がすごくしっくりきたからですよね。
VivaOla:それもありますし、何よりMatsukawaに制作を見ててほしかったんですよね。極論、何もしなくてもいいからアイディアや意見だけほしいなって。
――VivaOlaさんはMatsukawaさんと共に制作するようになって、何か音楽面以外での変化は起こりましたか?
VivaOla:……最近、音楽をやる意味みたいなことについて考えていて。商業的な音楽を聴いて育ったし、自分も音楽で生計を立てる以上、数字やマーケティングが一番重要視されるんですよね。これは客観的事実としての話で。振り返ってみると、『Juliet is the moon』の頃の自分はそれに流されていたなと感じるんです。日本語のリリックを増やしたのもそういう観点からですし、わかりやすい曲を作ろうと意識していた。
もちろん今でもあのアルバムの曲は好きだし、ライブで歌っても楽しい。そこは勘違いしないでほしいです。僕は韓国のアーティスト・DEANが好きなんですけど、彼は韓国語を韓国語に聴こえないような使い方をするんですよね。そういうところにすごく惹かれていて、あのアルバムでは自分も日本語なんだけど日本語に聴こえないようなフロウにも挑戦していて。
――『Juliet is the moon』での日本語詞の多用は確かに印象的でした。
VivaOla:あとから振り返ったときに、それが日本のマーケットに合わせているようにも感じられたんですよね。一方で、最初にひとりだけで『STRANDED』(2020年)を作った頃の自分は、他人の意見やマーケティング、数字など、そういう色々なものを無視して、より音楽に向き合っていた。もちろん制作中、「これでいいのかな……」っていう不安はありましたけど。
外的な要素と向き合う割合が多くなると、自分が消費者になってしまうので、自分はちゃんと生産者でなければいけないなって思いました。Matsukawaと一緒に作るようになって、そこが振り切れたんですよね。なぜなら、Matsukawaはいつも音楽としか向き合ってないから(笑)。
――なるほど。
VivaOla:俺もMatsukawaもRick Rubinが大好きなんですけど、彼も「リスナーが何を求めているのかなんてわからないんだから、自分たちが作りたい作品を作るべきだ」というようなことを言っていて。今、Matsukawaと作っているアルバムは──実はすでに大部分ができているんですけど──、すごく自分本位な作品になると思います。
Matsukawa:作り方も変わったしね。
VivaOla:そうだね。色々な人を迎えて作った『Juliet is the moon』は、バラエティ豊かな作品になったと思うけど、それって自分からコミットしていった感覚もあって。一方で『STRANDED』の頃は全部自分ひとりで作ってたから、自分がシンガーでありソングライターであり、プロデューサーでもあった。そうすると、めちゃくちゃ悩むんですよ。
Matsukawaと出会ってからは、いい意味でぶん投げられる部分ができてきた。もっと純粋にボーカルやソングライティングにフォーカスすることができるようになったというか。
――それだけ強いこだわりを持って制作してきたVivaOlaさんが、自身の作品をMatsukawaさんに任せられるのはなぜだと思いますか?
VivaOla:これまで一緒に作ってきたプロデューサーさんがダメだったわけではなくて、手放すことのできなかった自分の性格が大きかったと思っていて。ひとりでプロデュースまでやっていたから、変に俯瞰する癖みたいなものがあるんですよね。自分で「いい曲ができた」って思っても、「いや、待てよ。これで本当にいいのか?」とか、疑心暗鬼になる。そこを手放したいんだけど、「他の人に任せて大丈夫かな。自分でやった方がいいんじゃないかな……」っていう執着心も生まれてしまう。
それをMatsukawaに任せられるようになったのは……色々な部分を理解してくれているなって勝手に感じたから(笑)。
Matsukawa:(笑)。
VivaOla:Matsukawaは変に寄り添ってこないというか、あくまで“いい音楽を作ること”にしかフォーカスしてない気がしていて。結果、それが一番俺に寄り添ってくれることになるというか。
Matsukawa:あくまで個人的な感覚なんですけど、プロデューサーやトラックメイカーの人って、アーティストを肯定することで自分の身を守る人が多い気がしていて。僕らの場合は作品をよりよくするためなら遠慮なく意見を言い合うし、ときとしてぶつかることもある。
VivaOla:傍から制作を見てた友人に「喧嘩してる?」って言われたこともあったよね(笑)。
Matsukawa:あったあった。もちろんアーティストとプロデューサーとして、お互いプロフェッショナルに接しようっていう思いはありつつも、音楽と向き合ってるときは少年時代のようにピュアな気持ちで、忖度なく言い合う。だからこそ、VivaOlaが商業的なことを忘れられるのかなって。
VivaOla:確かに。Matsukawaと作るようになってから、自分にかかっていた呪いのようなものが解かれてきた感覚があります。……とはいえ、マーケティング的な考えを完全に排除するのもどうかなと思うんですよね。今作ってるアルバムは自分たちのやりたい方向性に振り切ったけど、さらにその次の作品では、理想のバランスに近づけるんじゃないかなって感じています。
「核の部分は2人だけで完成させたい」──アルバムの統一感と強度
――Matsukawaさんは色々なアーティストさんとの制作を経験しているかと思いますが、VivaOlaさんとの制作における特別な点を挙げるとしたら?
Matsukawa:これは本当に悪い意味じゃないんですけど、頭がいいからめんどくさいんです(笑)。自分の言葉に少しでも迷いや躊躇があると、絶対にバレる。
VivaOla:(笑)。
Matsukawa:その場しのぎの「こんな感じでどう?」は通用しないというか。その反面、キャッチボール……というよりはスカッシュみたいな感じで、こっちが頑張って最高の球を打てば、より最高の球を打ち返してくれる。めっちゃ張り合いがありますね。
VivaOla:下手に取り繕うのは音楽に対して失礼だしね。ただ、最近ではお互いを尊重する領域が明確になってきた気もします。ボーカルやコーラスなど声にまつわる部分はもちろん僕で、ドラムやビート関連はMatsukawa。最近ではデモを作るときもあまりビートは作り込まないようにして、ソングライティングや別のポイントで自分が欲しいビートをMatsukawaに汲んでもらえるよう心掛けています。
――素晴らしい関係だと思います。これまでに発表されてきた「BOLD」「GIVE MINE」「PRESENCE」はいずれもミニマムなサウンド・デザインが印象的です。低い方の帯域に振り切った構成というか。
Matsukawa:ボーカルの存在感とロー(低音)をいかに上手く料理するかっていうことを考えた結果、ミニマムになったっていう感じだと思います。
VivaOla:曲それぞれで上音の塩梅はバラバラだけど、アルバム全体としてはかなり統一感のある作品になると思います。
Matsukawa:「PRESENCE」なんて6トラックしか使ってないしね(笑)。
VivaOla:そうそう。結局、寿司と醤油みたいなもので、美味しい寿司でも醤油を漬け過ぎたら台無しじゃないですか。ワサビも醤油も少し効いてるくらいがちょうどいい。寿司ネタがボーカルで、シャリが……
Matsukawa:ベース。
VivaOla:その通り(笑)。
――息ぴったりですね(笑)。
VivaOla:ミックス、マスタリングも自分たちでやってるので、それも統一感に寄与してるかもしれないですね。
Matsukawa:ミックス、マスタリングまでやることで、変に言い訳できなくしたっていうのもあるかもしれません。自分たちで最後までやることで、最後まで自分たちだけで責任を取りたいっていうか。分業制って便利だけど、どこか責任の所在がなぁなぁになってしまう部分もあると思うんです。
VivaOla:連帯責任を鎧にすることで安心感に浸ることはできるけど、その鎧は見せかけで、実際の強度は脆い。だからこそ、今回はフィーチャリングで参加してもらってるアーティストはいるけど、核の部分は2人だけで最後まで完成させたいんです。
――フィーチャリング・アーティストはreinaさん以外にも?
VivaOla:アルバムを制作するときはいつも最初に構成を考えるんです。イントロっぽい曲があって、ここら辺で客演入りの曲を持ってきて……といった感じで。今回はreinaと、最後にエンディング的な感じでもう一人呼びたいってなって思って。そのとき、ちょうどBleecker Chromeをよく聴いてたこともあり、Kenyaくん(藤田織也)にも参加してもらいました。
これも後から知ったんですけど、KenyaくんもLAに行ったときに現地のプロデューサーに「VivaOlaって知ってる? 聴いた方がいいよ」って言われて、前から知っててくれたみたいで。
Matsukawa:Kenyaくんとの曲も実際に会って、3人でその場で作っていきました。
VivaOla:お互いトラップ・ソウルが好きだったので、そのテイストを上手く出せたんじゃないかなと。あと、リリース順が逆になっちゃったんですけど、僕らとの制作がいい感じだったっぽくて、実はKenyaくんの1st EP『Enfant Terrible』にもコライトで参加させてもらったんです。
VivaOla:彼は母音をすごく大事にしながらリリックを書くんです。「絶対ここは“a”だよね」とか「子音は“c”じゃないよね」って感じで、その手法にめっちゃ共感しました。ルーツやバックグラウンドで重なり合う部分が多くて、きっとそれが理由でコライトに呼んでくれたんだと思います。
Matsukawa:そういう流れもあって、〈w.a.u〉とWWWによる共催イベント『n.e.m』にもVivaOlaはKenyaくんと一緒に出てもらうことになりました。たぶん、現状で2人を同じイベントにオファーする人って中々いないと思うんです。でも、音楽的な部分ではめちゃめちゃ共振してるから、違和感なく楽しんでもらえると思います。
――以前のインタビューでもおっしゃっていましたが、〈w.a.u〉のイベントでは文脈を大事にされていますよね。
Matsukawa:今回もそこはかなり考えていて、メイン・フロアにはVivaOlaとKenyaくん、reinaのバンド・セットのほかに、grooveman Spotさん、Arμ-2さん、starRoさん、NEWLYさんに出演してもらうんですけど、それも結局〈w.a.u〉ってプロデューサーが多いし、みんなプロデューサーが好きだよねっていう話になったからで。ヒップホップやビート・ミュージックとR&Bが自然と融合するようなフロアを目指してブッキングさせてもらいました。
あと、WWWβも開放するんですけど、そっちのオーガナイズは一緒にコンタクトとかでパーティを共催してた『Mural』が仕切ってくれていて。CYKのKotsuくんやジャズ・ハウス系のレーベル〈Apron Records〉のJ M S Khosahなどが出演します。僕らのルーツやバックグラウンドを直接的に提示するというよりは、もっと包括的に自分たちの音楽性をみせられたらなと。
VivaOla:属性は違うかもしれないけど、それぞれ重なり合う歴史を理解している人たちが同じ空間でアウトプットする。そうすることで、おもしろいミクスチャーが生まれそうだよね。
Matsukawa:そうだね。R&Bが流行ってるからR&Bをやっているんじゃなくて、自分たちが吸収したものをきちんと咀嚼してアウトプットする。その結果、重なり合ったり隣り合った人たちを集結させたいんですよね。そうやって続けていけば、何かしらムーヴメントのようなものができるのかなって思うんです。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://vivaola.lnk.to/OMM)
■VivaOla: X(Twitter)(https://twitter.com/viva0la) / Instagram(https://www.instagram.com/viva0la)
■Kota Matsukawa: X(Twitter)(https://twitter.com/KotaMatsukawa) / Instagram(https://www.instagram.com/kotamatsukawa/)
【イベント情報】

[WWW β]

Kotsu (CYK)
J M S KHOSAH (APRON/NCA)
mad O
Mural
……and more!
[EXHIBITION]
ARTIST:Masami Kato, TONII, WARE, YARI
SPACE DESIGN:DODI
INSTALLER:Munehiro OHTA
CURATOR:Reo Anzai
※オールスタンディング
問合:WWW 03-5458-7685
■ チケット詳細(e+)(https://eplus.jp/wau/)
■ 公演詳細(https://www-shibuya.jp/schedule/017136.php)
VivaOlaがニュー・シングル「O.M.M (feat. 藤田織也)」を10月11日(水)にリリースする。
今年に入ってから「BOLD (feat. reina)」「GIVE MINE」「PRESENCE」と、いずれもクリエイティブ・レーベル/コレクティブ〈w.a.u〉のファウンダーとして知られるKota Matsukawaをプロデューサーに迎えたシングルを発表しているVivaOla。ミニマムかつモノクロの世界観が展開されているこの3作こそが、彼の最新モードなのだろう。2021年発表の1stアルバム『Juliet is the moon』でのカラフルなサウンドから大きな変化を感じさせると同時に、その独創性の高さにも磨きがかかっている。
両者はこの連作の流れでアルバムをリリース予定だという。セルフ・プロデュース作も多く発表しているVivaOlaにとっては、ひとりのプロデューサーとタッグを組んでまとまった作品を制作するのはこれが初となる。今回は2人の対談を通して、このプロジェクトのスタートから2人の現在地を紐解くことに。また、すでにほぼ完成しているというアルバムについても語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
「お互い孤独に作り続けてきた」──2人の出会いと共振
――現在制作中のプロジェクトについてお聞きする前に、まずはおふたりの出会いから教えてもらえますか?
VivaOla:……最初はどんな感じだったっけ?
Matsukawa:俺視点から話す?
VivaOla:その方がいいかも(笑)。
Matsukawa:共通の知り合いから「VivaOlaっていうヤバイやつがいるから今度紹介する」って言われてたんですよね。でも、一向に紹介してくれなくて(笑)。その後、2021年の初めにさらさのライブでベースを弾いてたら、フィルとかで美味しいフレーズを弾く度に「フゥ!」とか反応してくれるお客さんがいて(笑)。
VivaOla:(笑)。
Matsukawa:ライブ終わってよく見てみたらそれがVivaOlaで。そこで初めて言葉を交わしました。
VivaOla:そのときのバンド・メンバーに知り合いが2人参加していて、その繋がりで遊びに行ったんです。そしたら「やたらカッコいいベーシストいるぞ」と(笑)。
Matsukawa:でも、そのときはあまり深い話はしなかったよね。
――では、おふたりが深く交わったタイミングというのは?
Matsukawa:最初に話した共通の知り合いがシンガーとして活動しているんですけど、その人の作品を一緒に作ろうってなって、VivaOlaの家に集まったんです。
VivaOla:そう。ただ、そのときMatsukawaは時間ぴったりに来てくれたのに、僕は自分の作業が終わってなくて。当時は『Juliet is the moon』の作業をしていたんです。
Matsukawa:肝心の知り合いは2時間くらい遅れてきたので、結果としてほぼ初対面の人の作業風景をしばらく見学することになって(笑)。めっちゃ細かくボーカルを調整するなとか思いながら見ていました。
VivaOla:その知り合いの作品は3人で一緒に作ったんですけど、色々あって世には出ていなくて。でも、Matsukawaとの共同作業で僕は直感的にフィールする部分があったので、Sagiri Sólの「秘密」のプロデュースに加わってくれないかってお願いしました。
Matsukawa:思い出した、確か前日に言われたんだ。一緒に遊んでたときに「明日、空いてない?」って。
VivaOla:そうだったね(笑)。実は当時、プロデュースに対してあまり自信が持てなかったんです。バークリーで学んだのもライティング(作曲)・コースだったし、自分の頭の中に理想の音はあるけど、それを実現する過程が中々上手くいかないことが多くて。「これはひとりでやらない方がいいんじゃないか」って気付き始めたんですよね。今振り返ってみると、その頃から色々なプロデューサーさんと交わるようになった気がします。その中のひとりに、Matsukawaもいたっていう感じですね。
VivaOla:Sagiriの「秘密」に話を戻すと、実はこの曲はかなり前からSagiri自身が温めていた曲で、ひとりでプロデュースするのはちょっと不安だったんです。そこにMatsukawaに参加してもらって、色々なアイディアをもらったり、ときには作業を交代して、殴り合いみたいなセッションをしましたね(笑)。
Matsukawa:僕にとっては誰かと共同プロデュースするのはそれが初めてのことだったので、VivaOlaの作業を見つつ、これまで我流でやってきたことの答え合わせをしているような感覚もありました。あと、僕は最初にドラムやビートから打ち込んでいって、そのリズムがしっくりこないと制作が進まないんですけど、そういった点でもVivaOlaの制作過程には共感する部分が多かったです。
VivaOla:これは後からわかったことなんですが、僕もMatsukawaも長く音楽を続けてるけど、多くの仲間とワイワイやってきたタイプではなくて。どちらかというとお互い孤独に作り続けてきたタイプなんです。だからこそ、最初の頃の会話は「YouTubeであのTips見たんだけど、どう思う?」とか、そういう内容ばかりだった気がする。
Matsukawa:作業しながら自然とお互いのことがわかってきた感じだよね。PCのディスプレイ越しに会話してたというか。
――楽器を鳴らしながらコミュニケーションを取っているような感覚。
Matsukawa:それのDTM版みたいな感じですね。
――「秘密」以降はどのように関わってきたんですか? それこそMatsukawaさんはvoquote名義でVivaOlaさんのリミックスも手がけています。
VivaOla:「秘密」の流れでMatsukawaにはSagiriの2ndシングル「blood」にも〈w.a.u〉のSakepnkと一緒に参加してもらって。それ以降は制作以外、遊びやライブなどでMatsukawaと一緒になることが多かったですね。
Matsukawa:次はreinaの「HEAL」じゃない?
VivaOla:そうだ。そこでようやく〈w.a.u〉のこともわかってきて。
Matsukawa:reinaの1stアルバム『You Were Wrong』は色々なタイプのR&Bにトライするっていうコンセプトがあって、その中でも「モダンなR&BだったらVivaOlaでしょ」っていうことで、今度はこちらからオファーしました。
VivaOla:「HEAL」のトラックは本当に50/50な感じだったよね。zuho(01sail、〈w.a.u〉所属のプロデューサー/ギタリスト)にギターを弾いてもらって、ドラムは2人で打ち込んだり、メロディやリリックの部分でも関わらせてもらって。reinaもすごくオープンマインドだから、ポジティブな議論もいっぱいしたし、みんなで一緒にレベルアップできた気がする。……そしてその制作の流れで「BOLD」の話を持ちかけて。
Matsukawa:「HEAL」の制作が大詰めに入った日、reinaが先に帰った後で次の曲の話をされて(笑)。
VivaOla:曲名は違ったんですけど、デモはすでに作ってたので、「こんな曲あるんだけど、一緒にやらない?」って(笑)。
Matsukawa:ただ、僕は僕で「U THINK」でreinaとVivaOlaをフィーチャーしたいなとひっそりと温めていて(笑)。お互い隠し玉を持っていたという。
「BOLD」「U THINK」で加速する2人のプロジェクト
――reinaさんがいないところで話が進んでいったんですね(笑)。その2曲の制作はどのような形で進んでいったんですか?
VivaOla:「BOLD」はドリルをやりたいっていうアイディアから生まれた曲で、デモの段階ではメロディもなくて、1ヴァースしかなかったんです。僕はMatsukawaの作る音像に特に惹かれていて、「BOLD」ではそういった側面を補強してもらった印象があります。
Matsukawa:最初はもっと『Juliet is the moon』の質感に近かったよね。そこからハイハットやスネアの音を変えたりして。
VivaOla:逆に「U THINK」はもうほぼ完成形に近い形でデモができていて、純粋にヴァースを求められている感じでした。だからこそ、プロ意識がめっちゃ出てくるというか、「カマしてやろう」って思いましたね。
Matsukawa:「BOLD」と「U THINK」でしっかりと交わった感覚があるよね。
VivaOla:そうだね。Matsukawaに音像やトラックの面を強化してもらった代わりに、自分はボーカル・プロダクションやボーカル・ミックスなどの面でreinaやvoquoteの作品に貢献できたのかなって。
――個人的に「BOLD」はリズムはしっかりとドリルだけど、ドリルでお馴染みとなっているような音色は全然入ってなくて。一聴した感じドリルっぽく聴こえないのがおもしろいですよね。
VivaOla:作った後に気づいたんですけど、ドリルを作りたかったのに自分の中のR&Bが強すぎて、ハイハットとかが2000年代のR&Bっぽい感じになっちゃったんですよね(笑)。あれ、何ていうんだろう……。
Matsukawa:まだトラップがなかった時代の、Timbalandとかm-floとかの曲によく出てきたビート・パターンというかね。
――「BOLD」「U THINK」で確かな手応えを得たからこそ、その後のプロジェクトへと繋がっていった?
VivaOla:そういう感じですね。この2曲の制作で、シンプルに2人で一緒に過ごす時間が増えたんです。reinaもいたけど、彼女は自分のパートが終わるとすぐ帰っちゃうから(笑)。そこで僕はまたぬるっと「もう何曲か作らない?」って言ったんですよね。
Matsukawa:そこから「GIVE MINE」を含む何曲かを制作して。
VivaOla:当時、Matsukawaはさらさのアルバム制作も並行してたよね? めちゃくちゃ忙しそうに自分のPCで別の曲を編集しながら、たまに僕の作業してる画面に向かって「そのスネアがいい!」とか「ピッチマイナス2!」って言ってきたり(笑)。
Matsukawa:2曲同時進行してた(笑)。
VivaOla:超忙しいA&Rみたいな感じでしたね。で、その後に「REFERENCE」のリミックスですね。「REFERENCE」は「TOMORROW」と一緒に、僕が次に出すアルバムに入れようと思っていた曲だったんです。でも、ちょっと違うなと思って、KRICKと一緒に作り直すことにして。そのとき、KRICKも〈w.a.u〉と接触し始めた時期だったから、「〈w.a.u〉でリミックスEP作ってくれない?」ってお願いして。
Matsukawa:〈w.a.u〉のメンバーでVivaOlaの家に行って、みんなでPC広げてリミックス制作大会みたいなことが行われました(笑)。
VivaOla:あれは遊びの延長だよね。しかもその前に、Anzai(Sakepnk)とMatsukawaは〈w.a.u〉の「w.a.u Introduction」もうちで作ってましたね。
Matsukawa:ワーカホリック過ぎる(笑)。
「自分はちゃんと生産者でなければいけない」
――おふたりのプロジェクトが、アルバム制作へと変わったのも自然な流れで?
VivaOla:KRICKと作った「REFERENCE」や、自分でプロデュースした「TOMORROW」をアルバム候補曲から抜いたときに、見えてきたものがあったんですよね。これはもう、Matsukawaと全部作った方がいいかもしれないなと。そこでMatsukawaにまたぬるっと伝えました(笑)。
――それはやっぱりMatsukawaさんとの制作がすごくしっくりきたからですよね。
VivaOla:それもありますし、何よりMatsukawaに制作を見ててほしかったんですよね。極論、何もしなくてもいいからアイディアや意見だけほしいなって。
――VivaOlaさんはMatsukawaさんと共に制作するようになって、何か音楽面以外での変化は起こりましたか?
VivaOla:……最近、音楽をやる意味みたいなことについて考えていて。商業的な音楽を聴いて育ったし、自分も音楽で生計を立てる以上、数字やマーケティングが一番重要視されるんですよね。これは客観的事実としての話で。振り返ってみると、『Juliet is the moon』の頃の自分はそれに流されていたなと感じるんです。日本語のリリックを増やしたのもそういう観点からですし、わかりやすい曲を作ろうと意識していた。
もちろん今でもあのアルバムの曲は好きだし、ライブで歌っても楽しい。そこは勘違いしないでほしいです。僕は韓国のアーティスト・DEANが好きなんですけど、彼は韓国語を韓国語に聴こえないような使い方をするんですよね。そういうところにすごく惹かれていて、あのアルバムでは自分も日本語なんだけど日本語に聴こえないようなフロウにも挑戦していて。
――『Juliet is the moon』での日本語詞の多用は確かに印象的でした。
VivaOla:あとから振り返ったときに、それが日本のマーケットに合わせているようにも感じられたんですよね。一方で、最初にひとりだけで『STRANDED』(2020年)を作った頃の自分は、他人の意見やマーケティング、数字など、そういう色々なものを無視して、より音楽に向き合っていた。もちろん制作中、「これでいいのかな……」っていう不安はありましたけど。
外的な要素と向き合う割合が多くなると、自分が消費者になってしまうので、自分はちゃんと生産者でなければいけないなって思いました。Matsukawaと一緒に作るようになって、そこが振り切れたんですよね。なぜなら、Matsukawaはいつも音楽としか向き合ってないから(笑)。
――なるほど。
VivaOla:俺もMatsukawaもRick Rubinが大好きなんですけど、彼も「リスナーが何を求めているのかなんてわからないんだから、自分たちが作りたい作品を作るべきだ」というようなことを言っていて。今、Matsukawaと作っているアルバムは──実はすでに大部分ができているんですけど──、すごく自分本位な作品になると思います。
Matsukawa:作り方も変わったしね。
VivaOla:そうだね。色々な人を迎えて作った『Juliet is the moon』は、バラエティ豊かな作品になったと思うけど、それって自分からコミットしていった感覚もあって。一方で『STRANDED』の頃は全部自分ひとりで作ってたから、自分がシンガーでありソングライターであり、プロデューサーでもあった。そうすると、めちゃくちゃ悩むんですよ。
Matsukawaと出会ってからは、いい意味でぶん投げられる部分ができてきた。もっと純粋にボーカルやソングライティングにフォーカスすることができるようになったというか。
――それだけ強いこだわりを持って制作してきたVivaOlaさんが、自身の作品をMatsukawaさんに任せられるのはなぜだと思いますか?
VivaOla:これまで一緒に作ってきたプロデューサーさんがダメだったわけではなくて、手放すことのできなかった自分の性格が大きかったと思っていて。ひとりでプロデュースまでやっていたから、変に俯瞰する癖みたいなものがあるんですよね。自分で「いい曲ができた」って思っても、「いや、待てよ。これで本当にいいのか?」とか、疑心暗鬼になる。そこを手放したいんだけど、「他の人に任せて大丈夫かな。自分でやった方がいいんじゃないかな……」っていう執着心も生まれてしまう。
それをMatsukawaに任せられるようになったのは……色々な部分を理解してくれているなって勝手に感じたから(笑)。
Matsukawa:(笑)。
VivaOla:Matsukawaは変に寄り添ってこないというか、あくまで“いい音楽を作ること”にしかフォーカスしてない気がしていて。結果、それが一番俺に寄り添ってくれることになるというか。
Matsukawa:あくまで個人的な感覚なんですけど、プロデューサーやトラックメイカーの人って、アーティストを肯定することで自分の身を守る人が多い気がしていて。僕らの場合は作品をよりよくするためなら遠慮なく意見を言い合うし、ときとしてぶつかることもある。
VivaOla:傍から制作を見てた友人に「喧嘩してる?」って言われたこともあったよね(笑)。
Matsukawa:あったあった。もちろんアーティストとプロデューサーとして、お互いプロフェッショナルに接しようっていう思いはありつつも、音楽と向き合ってるときは少年時代のようにピュアな気持ちで、忖度なく言い合う。だからこそ、VivaOlaが商業的なことを忘れられるのかなって。
VivaOla:確かに。Matsukawaと作るようになってから、自分にかかっていた呪いのようなものが解かれてきた感覚があります。……とはいえ、マーケティング的な考えを完全に排除するのもどうかなと思うんですよね。今作ってるアルバムは自分たちのやりたい方向性に振り切ったけど、さらにその次の作品では、理想のバランスに近づけるんじゃないかなって感じています。
「核の部分は2人だけで完成させたい」──アルバムの統一感と強度
――Matsukawaさんは色々なアーティストさんとの制作を経験しているかと思いますが、VivaOlaさんとの制作における特別な点を挙げるとしたら?
Matsukawa:これは本当に悪い意味じゃないんですけど、頭がいいからめんどくさいんです(笑)。自分の言葉に少しでも迷いや躊躇があると、絶対にバレる。
VivaOla:(笑)。
Matsukawa:その場しのぎの「こんな感じでどう?」は通用しないというか。その反面、キャッチボール……というよりはスカッシュみたいな感じで、こっちが頑張って最高の球を打てば、より最高の球を打ち返してくれる。めっちゃ張り合いがありますね。
VivaOla:下手に取り繕うのは音楽に対して失礼だしね。ただ、最近ではお互いを尊重する領域が明確になってきた気もします。ボーカルやコーラスなど声にまつわる部分はもちろん僕で、ドラムやビート関連はMatsukawa。最近ではデモを作るときもあまりビートは作り込まないようにして、ソングライティングや別のポイントで自分が欲しいビートをMatsukawaに汲んでもらえるよう心掛けています。
――素晴らしい関係だと思います。これまでに発表されてきた「BOLD」「GIVE MINE」「PRESENCE」はいずれもミニマムなサウンド・デザインが印象的です。低い方の帯域に振り切った構成というか。
Matsukawa:ボーカルの存在感とロー(低音)をいかに上手く料理するかっていうことを考えた結果、ミニマムになったっていう感じだと思います。
VivaOla:曲それぞれで上音の塩梅はバラバラだけど、アルバム全体としてはかなり統一感のある作品になると思います。
Matsukawa:「PRESENCE」なんて6トラックしか使ってないしね(笑)。
VivaOla:そうそう。結局、寿司と醤油みたいなもので、美味しい寿司でも醤油を漬け過ぎたら台無しじゃないですか。ワサビも醤油も少し効いてるくらいがちょうどいい。寿司ネタがボーカルで、シャリが……
Matsukawa:ベース。
VivaOla:その通り(笑)。
――息ぴったりですね(笑)。
VivaOla:ミックス、マスタリングも自分たちでやってるので、それも統一感に寄与してるかもしれないですね。
Matsukawa:ミックス、マスタリングまでやることで、変に言い訳できなくしたっていうのもあるかもしれません。自分たちで最後までやることで、最後まで自分たちだけで責任を取りたいっていうか。分業制って便利だけど、どこか責任の所在がなぁなぁになってしまう部分もあると思うんです。
VivaOla:連帯責任を鎧にすることで安心感に浸ることはできるけど、その鎧は見せかけで、実際の強度は脆い。だからこそ、今回はフィーチャリングで参加してもらってるアーティストはいるけど、核の部分は2人だけで最後まで完成させたいんです。
――フィーチャリング・アーティストはreinaさん以外にも?
VivaOla:アルバムを制作するときはいつも最初に構成を考えるんです。イントロっぽい曲があって、ここら辺で客演入りの曲を持ってきて……といった感じで。今回はreinaと、最後にエンディング的な感じでもう一人呼びたいってなって思って。そのとき、ちょうどBleecker Chromeをよく聴いてたこともあり、Kenyaくん(藤田織也)にも参加してもらいました。
これも後から知ったんですけど、KenyaくんもLAに行ったときに現地のプロデューサーに「VivaOlaって知ってる? 聴いた方がいいよ」って言われて、前から知っててくれたみたいで。
Matsukawa:Kenyaくんとの曲も実際に会って、3人でその場で作っていきました。
VivaOla:お互いトラップ・ソウルが好きだったので、そのテイストを上手く出せたんじゃないかなと。あと、リリース順が逆になっちゃったんですけど、僕らとの制作がいい感じだったっぽくて、実はKenyaくんの1st EP『Enfant Terrible』にもコライトで参加させてもらったんです。
VivaOla:彼は母音をすごく大事にしながらリリックを書くんです。「絶対ここは“a”だよね」とか「子音は“c”じゃないよね」って感じで、その手法にめっちゃ共感しました。ルーツやバックグラウンドで重なり合う部分が多くて、きっとそれが理由でコライトに呼んでくれたんだと思います。
Matsukawa:そういう流れもあって、〈w.a.u〉とWWWによる共催イベント『n.e.m』にもVivaOlaはKenyaくんと一緒に出てもらうことになりました。たぶん、現状で2人を同じイベントにオファーする人って中々いないと思うんです。でも、音楽的な部分ではめちゃめちゃ共振してるから、違和感なく楽しんでもらえると思います。
――以前のインタビューでもおっしゃっていましたが、〈w.a.u〉のイベントでは文脈を大事にされていますよね。
Matsukawa:今回もそこはかなり考えていて、メイン・フロアにはVivaOlaとKenyaくん、reinaのバンド・セットのほかに、grooveman Spotさん、Arμ-2さん、starRoさん、NEWLYさんに出演してもらうんですけど、それも結局〈w.a.u〉ってプロデューサーが多いし、みんなプロデューサーが好きだよねっていう話になったからで。ヒップホップやビート・ミュージックとR&Bが自然と融合するようなフロアを目指してブッキングさせてもらいました。
あと、WWWβも開放するんですけど、そっちのオーガナイズは一緒にコンタクトとかでパーティを共催してた『Mural』が仕切ってくれていて。CYKのKotsuくんやジャズ・ハウス系のレーベル〈Apron Records〉のJ M S Khosahなどが出演します。僕らのルーツやバックグラウンドを直接的に提示するというよりは、もっと包括的に自分たちの音楽性をみせられたらなと。
VivaOla:属性は違うかもしれないけど、それぞれ重なり合う歴史を理解している人たちが同じ空間でアウトプットする。そうすることで、おもしろいミクスチャーが生まれそうだよね。
Matsukawa:そうだね。R&Bが流行ってるからR&Bをやっているんじゃなくて、自分たちが吸収したものをきちんと咀嚼してアウトプットする。その結果、重なり合ったり隣り合った人たちを集結させたいんですよね。そうやって続けていけば、何かしらムーヴメントのようなものができるのかなって思うんです。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://vivaola.lnk.to/OMM)
■VivaOla: X(Twitter)(https://twitter.com/viva0la) / Instagram(https://www.instagram.com/viva0la)
■Kota Matsukawa: X(Twitter)(https://twitter.com/KotaMatsukawa) / Instagram(https://www.instagram.com/kotamatsukawa/)
【イベント情報】

[WWW β]

Kotsu (CYK)
J M S KHOSAH (APRON/NCA)
mad O
Mural
……and more!
[EXHIBITION]
ARTIST:Masami Kato, TONII, WARE, YARI
SPACE DESIGN:DODI
INSTALLER:Munehiro OHTA
CURATOR:Reo Anzai
※オールスタンディング
問合:WWW 03-5458-7685
■ チケット詳細(e+)(https://eplus.jp/wau/)

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