L→R みと(Ba)、堀胃あげは(Vo&Gu)、田中そい光(Dr)

L→R みと(Ba)、堀胃あげは(Vo&Gu)、田中そい光(Dr)

【黒子首 インタビュー】
この作品を起点に
新たに出発する気配がしている

昨年メジャーデビューを果たした黒子首から、早くもメジャー2ndアルバム『dig saw』が届いた。TVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』のエンディング主題歌として書き下ろした「リップシンク」をはじめ、収録された10曲の全てがシングル級の輝きを放っている今作について、本誌初登場の彼らに早速語ってもらった。

制作期間の半分ぐらいは
「リップシンク」に使っていた

前作『ペンシルロケット』(2022年10月発表のアルバム)が全15曲だったのに対して、今作『dig saw』は全10曲。それに伴って収録時間も51分から34分とかなりコンパクトに凝縮されたことに“おっ!”と唸らされたのですが、狙ってそうしたのですか?

田中
曲数に関してはそうですね。前作はさすがに曲数が多かったという反省がありまして(笑)。個人的に前作の最後に収録した曲をたくさん聴いてほしかったんですけど、ストリーミングなどではなかなかアルバムの最後まで辿り着いてもらいにくいというか。聴く人にとってハードルが高くなるようなことをわざわざ設定する必要もないと思ったので、今回はできるだけ凝縮したいという意思のもとで作り始めました。

収録時間が短くなっていても、まったく物足りなさを感じなかったです。むしろ、聴き応えは過去イチと言っていいほどにすごく濃いアルバムでした。それこそ全曲シングル曲なんじゃないかと思うくらいで。

堀胃
ありがとうございます。嬉しいです。
田中
制作初期の段階でチームの方から“堀胃さんの作るメロディーはポップスとして確立されているから、アレンジで無理にポップスにしようとか、あまり考えなくていいんじゃない?”と言ってもらったんです。それがちょうど「リップシンク」のアレンジに苦戦していた時だったんですよ。その言葉を聞いて、確かに一曲一曲の威力というか、全体的なクオリティーはめちゃくちゃ上がっているからこそ、アレンジで何をぶつけてもメロディーが負けることはないと思えて。そういう精神でいろいろとぶつけることができたから、それぞれの楽曲のキャラクターがかなり濃くなった気がしますね。

アルバムの制作期間はどれぐらいだったんですか?

田中
昨年末に開催した前作の発売記念ツアーが終わってから曲のブラッシュアップとかをしながらだったので…制作が始まったのは3月くらいからかな?
堀胃
そこから半年間ぐらいはずっと作っていましたね。

では、じっくり時間をかけながら制作されたと。

堀胃
曲数が少ないぶん、自ずと1曲に充てられる時間も長くなりました。
田中
制作期間の半分ぐらいは「リップシンク」に使っていましたけど(笑)。

先ほどアレンジで悩んでいたとおっしゃっていましたが、そんなに難産だったとは。この曲はTVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』のエンディング主題歌として書き下ろされたんですよね?

堀胃
はい。「リップシンク」は曲作りの段階でもだいぶ時間がかかっていて。デモの時点でたくさん作り直しましたし、アレンジに関しても何パターンも考えたんです。アニメの制作サイドの方からは“好きに作ってください!”と言われていて。黒子首の楽曲が持っているドロドロ感を活かしてもいいし、ポップな要素を活かしてもいいと言ってくださったので、ドロドロした曲も2、3曲作りました。ただ、わりとシリアスな探偵もののアニメだから、それだと少し直接的すぎたんです。主人公と相棒がタッグを組んで事件に立ち向かっていく物語でもあるので、ふたりの友情をちゃんとピックアップした曲にしたほうが今の黒子首の進むべき道としてもいいんじゃないかという話になり、やっと完成系に辿り着いたんですよ。そもそも明るくてポップな曲は1曲しか作っていなかったのですが、その時点で数カ月を使っていたかもしれない(笑)。

ちなみにアルバム全体のテーマや目指したい方向性については、どんなふうに考えていたのでしょうか?

堀胃
“ポップ”というのはひとつの軸として置いていました。あと、今作のラストが「もぐら」という曲なんですけど、この曲ができた時に明るいものと暗いものとのコントラストがちゃんと際立つように一曲一曲を作っていこうと思ったんです。

コントラストとは?

堀胃
アルバムのジャケットは地層がモチーフになっているんですけど、層ごとにどんな色にするのかをひとつずつ考えました。一番深いところはとても暗く、地面に近いところはとても明るくみたいな。

収録された曲が持つ色がビジュアルとしても楽しめる層になっていて、10曲それぞれがちゃんと際立つようなデザインにされたと。

堀胃
そういう感じです。ただ、ポップスとひと言で言っても、相当なことをしないとキャッチーにはならないし、人に歌ってもらえるようなものにはならないじゃないですか。誰かとしゃべっていても思うことですけど、自分の意図がちゃんと伝わることって本当に少なくて。だから、今回の曲たちはとにかく振りきってポップなメロディーを書いてしまおうと思ったんです。その結果、「言わせない」という曲を書いたあたりで、メンバーのふたりから心配の電話がかかってきました(笑)。あまりにメロディーがキャッチーすぎたので、逆に投げやりになっているんじゃないかと心配されて。
みと
「言わせない」は歌詞もストレートすぎたから“えっ!? 大丈夫?”ってなったんです。
堀胃
失礼な(笑)。
田中
確かにね(笑)。でも、最初は本当にびっくりしました。たぶん堀胃さん自身は前作の途中くらいからこのフェーズに入っていたと思うんですけど、我々がそれに気づけていなかっただけで(笑)。近くにいすぎるとその人の身長が伸びたことに気づけないみたいなことだと思うんですけど。

堀胃さんの中では、それぐらい思いきらなきゃいけないという気持ちがあったんでしょうね。

堀胃
ありましたね。その人にとってのポップってひとりひとり違うし、それこそ生まれた環境からして違うのですから、思ったとおりに意図を伝えるなんて絶対に無理だろうって。だから、なるべく洗練されたものにしつつも自分がちゃんと好きな曲で、口ずさみたいメロディーでもある……そんなギリギリを探していました。

自分で口ずさみたいメロディーと、キャッチーでポップなものって本当のところは乖離しているんですか?

堀胃
最初はそうでした。キャッチーは面白くないと思っていましたから。

でも、今はそこにご自身から歩み寄ろうとされている?

堀胃
ふたりともちゃんとポップスが好きな人たちなので、いろいろなことを教えてもらったり、私自身は現実を知ったりしながら、少しずつ距離を詰めているという感じかもしれません。でも、今は私もポップスが好きになっています。

それは良かったです。好きなら作れますもんね。

堀胃
そうなんですよ、興味ないものはさすがに作れないので。

これはみなさんにうかがいたいのですが、今作を作るにあたっての個人的な目標や、“こういうものが作りたい”と思い描いていたことなどはありましたか?

みと
私もキャッチーというのは全体を通して大事にしていましたね。あと、今までは音に対して真面目に考えすぎていたんですけど、今回はそれをやめて自由にしてみたんです。実際のところはミリ単位での違いでしかないと思うので分からない人もいるかもしれませんが、自分で情景を思い描きながら弾くことによって、それまでの頭で考えていたものでは生まれなかったノリが出たりしたから、そういうのも大事だと思いました。例えば2曲目の「ばっどどりぃむ純喫茶」だと毎セクションで同じフレーズを弾いてはいるんですけど、セクションが違えば考えていることも違うので、同じフレーズだけど結果的には音感も変わって、流れも変わったりしていて。

そういうアプローチをしたことで、また新しい扉が開いた実感も?

みと
あります。今までよりもっとライヴが楽しくなる気がします。
田中
いいね! 逆に私は今まで影響を受けてきた自分の中にあるポップスを封印しました。曲のアレンジをする時とかに、参考曲を何曲かメンバーに送ってイメージを共有するというやり取りをしているんですけど、これまでは自分が昔からよく聴いていたアーティストの曲を出すことが多かったんです。それに対して今回は、半分意地になっていたのかもしれないですけど(笑)、“絶対に参考にしてたまるか!”ぐらいの気持ちであまり出してこなかったオルタナバンドやブラックミュージックなどに目を向けていましたね。

何か理由があったんでしょうか?

田中
そういう、受けてきた影響を意識的に自分の中から排除しないと、『ペンシルロケット』以上のものが作れない気がしたんです。そうやって自分に制限を設けることで違う引き出しや、違う視点からドラムのフレーズが見えてきたりもして。

タイトルに絡めるわけではないですけど、あえて自分のど真ん中ではなかったところをdig(掘る)っいったんですね。

田中
まさしく改めてdigってみたという感じでしたね! オルタナやブラックミュージックなどのジャンルも前々から広く聴いていたのに、自分の軸にあるポップス要素が強すぎて、そっちにまで視野が及ばなかった。それこそsaw(見るの過去形)できていなかったんです。

おぉ、うまい!(笑)

田中
いやいや(笑)。でも、そこを改めてsawすることで“私にはこの要素もあったじゃん!”と知れました。おかげで“まだまだやれるな”と思いましたし、そうやって視野を広げてとことん取り組んだあとに改めて自分の中にあるポップスという軸を見つめ直してみたくなりましたね。そうしたらきっと違う見方もできるはずだし。
L→R みと(Ba)、堀胃あげは(Vo&Gu)、田中そい光(Dr)
アルバム『dig saw』

OKMusic編集部

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