【編集Gのサブカル本棚】第32回 「
ツイステ」の魅力とゲームのアニメ化
の難しさ

 「ディズニー ツイステッドワンダーランド」(以下「ツイステ」)のアニメ化プロジェクトが、2021年10月に発表されてから約2年が経つ。今のところ、ディズニープラスで全世界独占配信予定であることのみが明らかにされている。

 「ツイステ」は20年3月にサービスを開始したスマホ向け学園アドベンチャーゲームで、同年夏頃からプレイし続けている身としてアニメ化を楽しみにしているが、筆者の見てきた範囲ではゲームのアニメ化はなかなか上手くいかない印象がある。「ツイステ」がどんなアニメになるのかを勝手に予想しながら、ゲームのアニメ化が難しい理由を考えてみたい。
ディズニー作品がモチーフ
 「ツイステ」の世界観を乱暴に説明すると、ちょい悪ふくむユニークなイケメンだらけの「ハリー・ポッター」にディズニーの要素も入っている感じ――と言うと熱心なファンの方には怒られてしまうかもしれない。魔法をあやつる「魔法士」を養成する全寮制の男子校に、魔法を使えない主人公(プレイヤー)が迷いこみ、生徒たちと交流しながら様々な困難を乗り越え、元の世界に戻る方法を模索するというストーリーだ。
 メインキャラクターと彼らが所属する寮は、「ふしぎの国のアリス」とハートの女王、「ライオン・キング」とスカーなど、ディズニー作品とそのヴィランズ(悪役・敵役)がモチーフになっている。原案・メインシナリオ・キャラクターデザインを「黒執事」で知られる漫画家の枢やな氏が務め、ウォルト・ディズニー・ジャパン協力のもと、アニメ「鬼滅の刃」シリーズなどで知られるアニプレックスが企画・配信を手がけている。プレイ層の大半は女性だ。
 「ツイステ」の最大の魅力はキャラクターで、7つの寮に所属する22人のキャラクターが、細田守監督の「竜とそばかすの姫」でも用いられた「Live2D」というCG表現で生き生きと動き、声は人気の男性声優陣が担当。アドベンチャーパートの途中に入るバトルも基本的にはそれほど難しくなく、使用するキャラクターにこだわらなければ無課金でも十分に楽しめる。現在メインストーリーの第7章が順次配信中で、物語は大きな山場をむかえている。今からでも十分追いつけるので、機会があったらぜひプレイしていただきたい。
主観視点の主人公
 そんな「ツイステ」のアニメ化で、もっとも気になっているのは主人公をどう描くのかという点だ。ゲームは基本的に主人公の主観視点で描かれ、プレイヤーは主人公の姿を見ることができない。プレイしていると、男性ばかりが登場するゲームやアニメにいそうな紅一点の女性というイメージをもってしまうが、主人公の初期ネームは「ユウ」で男性でもおかしくなく、寮生たちとのやりとりも、男女の会話にも男性同士にも感じられる。ゲーム本編で主人公は、夢の中で大きな鏡をのぞき、鏡の向こう側からミッキーマウスもこちらを見ているという謎めいたシーンが何度も繰り返され、主人公が何者なのかが物語のカギになっていることが分かる。
 ただ、「ツイステ」のコミカライズとノベライズでは、それぞれ異なる日本の男子学生が主人公として3人称視点で明確に描かれ、ゲームの序盤とほぼ同じストーリーが展開されている。アニメでもオリジナルの主人公になる可能性が高そうだ。
物語の物量と歌舞伎スタイル
 もうひとつ気になっているのは、ゲームのアニメ化でネックになりがちなストーリーの物量と映像尺に関する問題だ。最近のアドベンチャーゲームやRPGは、膨大なテキストやムービーなどで物語を紡ぎ、プレイ時間が数十時間におよぶことが珍しくない。その物語を1クールのテレビアニメ、もしくは2時間程度の劇場アニメの尺で描こうとすると、どうしても無理がでる。アニメ化は初見の人に原作を知ってもらうのが大きな目的でもあるため、物語は最初から描かれることがほとんどで、そうなるとよほど長いシリーズにならないかぎり、アニメ版の物語は物凄く端折られてしまうか区切りのいいところで終わってしまう。
 ゲーム原作のアニメで名作と誉れの高い「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」も、放送当時に原作ゲームを知らずに見たときは、なぜ序盤がこんなにダラダラしているのだろうと感じてしまったのを覚えている。原作ゲームをプレイすると、序盤に冗長なやりとりがあることが後々の展開に効いてくる仕掛けになっていて、アニメ版ではその効果を出しつつ映像作品としてギリギリ最小限度に留めようとしていた狙いがよく分かる。自分がプレイヤーとしてインタラクティブに参加できるゲームと、流れていく映像を見て楽しむアニメでは一見ルックが似ていても大きな溝があり、アニメ化にあたって大胆なアレンジを加えないと映像作品として楽しめるものにはならないことが多い。
 「ツイステ」でも、それぞれの寮にスポットをあてたエピソードが展開されながら最終的に寮長が“闇落ち”して暴走するという、ある種テンプレートな物語が繰り返されていて、仮にアニメで最初のエピソードから丁寧にこの展開が描かれても個人的には物足りなく感じてしまう。総勢22人のキャラクターにはそれぞれお気に入りのファンがついていて、物語を最初から描くと後半のエピソードでスポットがあたるキャラクターの出番が少なくなるのももったいない。それらの問題を解決する一案として、歌舞伎のスタイルを参考にしてみるといいのではと個人的に思っている。
 昔一度だけ観劇した歌舞伎で面白いなと思ったのは、上演される演目は長い物語のほんの一部で、熱心なファンは事前に筋書(公演プログラム)を購読して、事前に物語を予習していることだった。上演前の時点で全体の物語や登場人物の境遇などは頭に入れて、演者による表現を楽しむことに集中している。音楽ライブも、一見の人以外は配信やCDなどで事前に曲を知ったうえで演奏を楽しんでいるわけだから、ゲームのアニメ化も物語を最初から丁寧に描くことにこだわらず、思い切って物語の比重を減らすやり方も一案なのではないだろうか。
 実際、「ツイステ」と同じスマホ向けゲーム発の「アイドリッシュセブン」やマルチメディア展開されている「BanG Dream!(バンドリ!)」の劇場アニメ版では、ライブ形式が採用されている。アイドルアニメの華であるライブパフォーマンスや演奏シーンを中心に構成することで、リアルのライブと同じように楽しめ、リピート鑑賞がしやすくなるメリットもある。「ツイステ」はアイドル物ではないが、ライブ形式にしても馴染みそうだし、演劇やミュージカル仕立てにするのもありかもしれない――と、すでに制作が進んでいるであろうアニメ版では、この程度のことは十分検討したうえで、ファンの期待を上回る作品を届けてくれるのではないかと楽しみに待ちたい。(「大阪保険医雑誌」23年8・9月合併号掲載/一部改稿)

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