【HANCE インタビュー】
映画監督のようなスタンスで
音楽活動をしている
HANCEの活動は
僕にとって終活
今はサブスクがメインなのでアルバムを曲順どおりに聴く文化はなくなってきていますが、HANCEさんのアルバムは物語を想像しても楽しめるし、後半になるにつれて曲調やヴォーカルが柔らかくなっていくのが印象的でした。
僕にとってアルバムは一枚のサウンドトラックというイメージがあるので、起承転結というか、料理で言えばフルコースみたいなイメージで作っています。僕自身、年齢のせいなのか分からないですけど、アップテンポもメローな曲もいろいろ聴きたいので、“自分だったらこういう並びがいいな”と思って構成していますね。
ノスタルジックな音にエレクトロな音を混ぜ合わせるアプローチも刺激的ですが、音楽面で意識されたことは?
いろいろなジャンルの音楽をやっているわりに僕は楽譜も読めないし、音楽理論で曲を構築していないんです。幼い頃に感じた安心感ややさしさ、逆に誰かに感じた憎しみだったり、心が揺れ動いた瞬間に歌詞やメロディーが生まれてきて。ピュアな感覚から始まって、それをかたちにしていく過程で“ここはちょっと灰汁抜きしたほうが美味しいよね”みたいに考えてバランスをとっていく感じです。
では、今作で今までになかった挑戦した楽曲というと?
最後の曲「眠りの花」です。7分を超える曲で最初から最後まで4つのコードだけで展開する曲なので、かなり異質な曲だと思います。
「眠りの花」はいつ頃、作られたんですか?
20年以上前からありました。大人の方というより、おそらく若い方向けだと思うんですが、それを今の自分のフィルターを通してかたちにした曲です。ただ、当時抱いていた世の中に対しての閉塞感と大人になってからの感覚が、実はそんなにずれていなかったことに気づいたんです。だから、これは今、世の中に出すべきだなと。
歌詞というより詩のような美しさと儚さがあり、いろんな想像ができる曲ですよね。アレンジもシンプルですが、この曲を最後に持ってきた想いというのは?
まず「BLACK WORLD」で大きな世界をサウンドも含めて提示したんですね。その中で、それぞれが個人として生きているのでつながりの中、最後は非常にパーソナルな曲で締めたかったんです。僕自身の感覚ではあるんですが、同じような想いを持っていらっしゃる方がいるとしたら、すごく嬉しいですね。
新曲「十字星」や「シャーロックの月」も素晴らしくて。HANCEさんの曲には孤独に寄り添ってくれるやさしさが感じられるんですよね。
ありがとうございます。僕自身は音楽に力があると思って活動しているんですが、誰かを根本から救えるとか、誰かの人生を大きく変えられるとは思っていないんです。例えばお酒は呑みすぎると身体に良くないけれど、“今はいいよね”という時もある。人生の中で“そういうことがあってもいいよね”っていう感覚で音楽を作っているんですよね。
無理に元気づけるのではなく?
おっしゃるとおり。
“BLACK WINE”というタイトルと関係があるのかもしれないですが、刹那や喪失感や孤独について歌うのはなぜですか?
僕自身、日常で孤独の恐怖を感じることがあるんですが、それはたぶん“自分だけが今、こういう感覚になっているんじゃないか?”っていう恐怖心からなんですよ。同じような感覚を抱えている人がいると思えた時、なんとなく救われたような気持ちになって。そういうことを自分の音楽を聴いた時に感じていただけたら嬉しいですね。
2024年には日本以外でのライヴも行なうんですよね?
はい。現時点ではスイスのローザンヌの音楽フェスとハンガリーのブタペストの音楽フェスに出演することが決まっています。あとは、1月27日には東京の月見ル君想フでアルバムのリリースパーティをします。
HANCEさんの音楽は海外でも支持されていますが、ご自身ではそのことをどうとらえていらっしゃいますか?
今は日本よりも海外の方が多く聴いてくださっているんですが、その理由を考えると、僕は日本語で歌っているので、やっぱりメロディーやサウンドだと思うんです。トレンドというよりも子守唄や童謡を聴いていた頃のピュアな感覚を落とし込むことが多いので、そういう部分が琴線に触れたのかなと思っています。
今後も日本と海外の両方でライヴ活動を行うスタンスですか?
そうですね。日本は多くの国がある中のひとつという感覚なので、世界中どこでも招かれたら行きたい気持ちはあります。とはいえ、日本の同世代、上の方に聴いていただきたいという気持ちは根本にはあります。
そんなHANCEさんが、ご自身と近い世代に伝えたいことは?
自分の母が亡くなったのが40代だったので、年を重ねるにつれて自分もいつ死んでもおかしくないって思うようになったんです。だったら、生きているうちにやりたいことをしたい。それでHANCEを始めた部分もあるんです。HANCEの活動は僕にとって終活ですね。もちろん音楽を聴いていただきたい気持ちもあるんですが、“もっとこういうこともやりたかったな”とか“やってみたいな”と思われている方がいたら、“一緒にやっていきませんか?”“諦めずに夢を叶えていきましょう!”と言いたいですね。
取材:山本弘子
「炎心」MV
「left」MV
「シャーロックの月」MV
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