小島和宏 HKT48台湾密航記5:「言葉
の壁」を超えるもの

 開場時間に入口に行ってみるが、まだ誰もいない。おかしいな、と思っていたら「HKT~」などと書かれた看板を掲げた係員に率いられて、たくさんのファンがエスカレーターで昇ってくるではないか。

 複合商業施設の中にある会場とあって、目の前にはレストランが(こちらはこちらで行列ができている)。そのため、会場前に長蛇の列を作るわけにはいかず、ビルの外に一度、並んでもらい、順番にビルの6階まで上がってきてもらっているようだ。

 どう考えても、混乱は避けられないような段取りなのだが、まったくといっていいほどトラブルもなく、非常にスムーズに人が流れていく。唯一、係員のお姉さんの叫び声がおっかないぐらいだったが、これは僕が言葉を理解していないから、そう感じてしまっただけなんだろう。 台湾のファンから贈られた花は、海外初公演と紅白初出場をWで祝うものだった。ちなみに台湾でも紅白の視聴は可能だ。 一般のお客さんと並んで会場に入ると、ファン代表の方から2本のサイリウムを手渡された。添付された用紙を読むと……もちろん中国語で書かれているのだが、さすがに人名や曲名(まぁ、曲名はカタカナ表記になっていたんだけど……)ならわかる。

 おそらくクライマックスで歌われるであろう『メロンジュース』のときに、客席を緑一色で染めてメンバーを喜ばせよう、ということ。そして、翌日が20歳の誕生日となる多田愛佳(キャプテンという意味なのだろうが、文字にすると“多田愛佳隊長”と偉く堅い表記になるのが妙に可笑しい)をお祝いしよう、というファン発信の生誕企画のために、緑とピンクのサイリウムを配っていたのだ。 結論から書いてしまえば、このファンの行動が感動的なダブルアンコールを生み出すことになる。実は本編中、多田愛佳の誕生日を祝うようなタイミングが見つからず、そのまま公演が終了。このまま終わるわけにはいかない、と客席から自然発生的に「らぶたん」コールが沸き起こり、それが予定外のダブルアンコールの呼び水になったのだ。

 不安視していた「言葉の壁」を客席側から打ち壊してくれた、というのが正直な感想。ステージサイドからも、トークコーナーでは通訳を立てて意思の疎通を図ったり、日本ではちょっとあり得ない「村重杏奈が一発ギャグだけで衣装チェンジの時間を稼ぐ」という海外ならではのアプローチがあって、それが見事にハマった(田中菜津美の自虐ネタに一度、観客がニュアンスを感じとってワッと沸き、その後、通訳された言葉を聴いて、またちょっと違った反応が返ってくるのが妙におもしろかった)。

 そういえば、夜市でB級グルメを探索していたら、やたらと明太子入りの食べ物が多かったけど、それも関係している? いやいや、本当に台湾のファンは日本から情報を貪欲にキャッチしているのだ(前夜祭の会場でもFLASHの青木さんがファンに囲まれて、大撮影会になっていた!)。

 最初は47人全員で台湾へ行く、ということに「そこまでする必要あるんだろうか?」とも感じたが、客席で見かけたお手製のうちわに書かれた名前が、いわゆる選抜メンバーよりも、全国ツアーには毎回、帯同できないような顔ぶれのほうが多かったことを考えると、全員で行く、というのがなによりのファンサービスだったんだな、と。 台湾公演の詳報は12月29日発売の『月刊エンタメ』に書いているので、そちらを読んでいただければ幸いです。日本にも生中継された公演なので、ステージ上のことよりも、客席の反応や、会場内の空気感を中心に綴っています(実際に地元のファンに混ざって、客席から見ました。48グループの海外公演を現地で見るのははじめての経験だったので『あぁ、MIXは日本とまったく同じように打つんだな』とか、えらく新鮮でした。てか、日本発祥の文化だもんねぇ~)。

 日本に帰ってきてからメンバーに話を聞いてみると、リハーサルと公演に追われて、台湾の街はほとんど楽しめなかったけど、あんなにたくさんファンの方が待っていてくれるとは思っていなかったので、本当にびっくりしたし、客席からの声援がなによりも嬉しかった、という。

 2015年も継続していく全国ツアーでは、その土地のお客さんと一緒に、一夜限りの思い出を紡いでいくような演出が多くみられるが、この日はまさに「台湾のお客さんのために贈る」贅沢な一夜だった。あぁ、1月の香港公演にも行きたいけど、すでに別の取材が入っていて断念。足を運べる人たちが羨ましい!

(完)


小島和宏 1968年生まれ。週刊プロレス記者として8年間活躍し、現在はフリーライター&編集者として、エンタメ分野を中心に活躍。近年はももクロやAKB48などのアイドルレポートでファンの支持を得ている。

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