昨年の5月にコーミッシェオーパーの「ドン・ジョバンニ」を観劇して度肝を抜かれて間もなく、またしてもコーミッシェオーパーは私に新たなる衝撃を与えてきた。それが、今やベルリンコーミッシェオーパーの看板演目となった『魔笛』である。
モーツァルト作曲の『魔笛』はまったくクラシック音楽に明るくない者とて、その楽曲を聴いたことがある人がほとんどであろう。街のカフェや、ラジオ、テレビのBGMなんかでも多用され、知らず知らずのうちにみんな『魔笛』を知っている。
映画?アニメ?いいえ、オペラです。
コーミッシェオーパーで上演されている『魔笛』はイギリスの演劇グループ「1927」が演出を手がけ、同演出で既にヨーロッパ各地、いや、世界各国での再演が大成功を収めている。ベルリンのコーミッシェオーパーでは2012年の初演以来たびたび再演がなされているにもかかわらず、未だその公演は連日超満員の人気公演となっている。
それほどまでに観客の心を惹き付けたのは、画期的な取り組み、まったく新しい演出手法、そう、プロジェクションマッピングの使用に起因すると言えるだろう。
その手があったか! プロジェクションマッピング×オペラ
舞台上のセットは、全面を覆う白い壁一枚。そこに投影される映像に合わせて歌い手たちは演じ、歌う。『魔笛』には本来曲と曲の間に台詞が入り物語が進行するのだが、それらの台詞もオールカットで映像に文字で表示される。それに合わせてあたかもその台詞を喋っているかのように歌い手たちは演技する。映し出されるのは絵本のようなアニメーションで、まさに魔笛の世界観にぴったりである。
歌い手として観た感想を言わせてもらうと、めちゃくちゃ難しそう…の一言につきる。この公演には私の師匠であるCaren van Oijen氏が出演しているのだが、彼女は「映像に合わせて動くことに集中しなければならないから、体は硬直してとても難しい」と話していた。知り合いで、デュッセルドルフの劇場にて同演出公演にザラストロ役で出演していたThorsten Grümbel氏も「壁の上方で歌う際は、足場が靴のサイズよりも狭く、体が固定されているから非常に大変だ」とも言っていた。
しかし観客はそんなことは知ったこっちゃないのだ。そんなこと、観客は知らなくてもいいのだ。楽しむために劇場に来ているのだから。そして言うまでもなく、歌い手はみなその大変さを観客の我々には微塵も感じさせることはなく、コミカルでアニメーションのような動きで我々観客を楽しませてくれるのだ。
魅力的なキャラクター達
しかし私が感じたのは、ただプロジェクションマッピングを使ったエンターテイメント性というポイントではなく、歌い手たちの並外れた演技力や安定した歌唱力だけではなく、これらの演出によって物語自体も明瞭でわかりやすく、キャラクターのそれぞれの個性も輝いている! ということだ。
主要キャストはもちろんのことながら、脇役たちがとてつもなくおもしろい。笑えるのだ。めっちゃウケる。蜘蛛なのか死神なのか、その出で立ちが登場からいかにも怖そうな夜の女王も印象的だ。なかでも私は夜の女王に仕える3人の侍女の役がいまだかつてこれほどまでに魅力的だと感じたことはなかった。とにかくおもしろくてコケテッシュで、3人で1セットの統一感を持ちながら、一人ひとりの個性が明瞭で実に魅力的なのである。
観客は見終わった後に劇場を出ながら、「どの役が好きだった〜? 私はね〜◯◯〜! だってすごいかわいかったもの〜!」なんて話すのだ。お気に入りのキャラクターを見つけに、ベルリンを訪れた際はぜひ観劇することをお勧めしたい。

お洒落な気分もまた一興。
コーミッシェオーパーは非常にフランクな劇場で、観客には、スニーカーにジーンズを履いた、今時のこじゃれた若者たちをよく見かける。若いカップルでのデートも多く見かける。
たしかに、こんなにアーティスティックでおもしろい公演だったら、気になるあの子を誘うのにぴったりだ。こんな公演にデートで誘われたら「なんて気の利いた人なの! しかもオペラだなんて、彼ってとってもクールでインテリな人!」と女子はメロメロだ。気軽に映画を見に行くように「今夜オペラでも見に行かない?」という誘い。なんて粋なんだ。
世界各国で上演される、この演出での公演が日本にやってくる日も近い!? ぜひとも日本の多くの人に、この公演を観ておしゃれな気分を味わってもらいたいものだ。

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