今回は久しぶりに、ベルリンコーミッシェオーパーでの演目についてつづろうと思う。少しさかのぼるが、3月の頭に非常に面白い作品を見た。最初に「非常に面白い」だなんて言ってしまうと大体「それほどでもないじゃん」とガッカリされることってあると思う。わかっている。わかっていてなお冒頭に書かせていただいた。今回は間違いなく期待を裏切らないはずだ。
作品は2本立てで、第1幕がイーゴリー・ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽『ペトルーシュカ』、第2幕がモーリス・ラヴェル作曲の『子どもと魔法』だった。演出のしようによって、この2作品の世界観はいかようにも変貌を遂げる。メルヘンでファンタジー、まるでおもちゃ箱のような作品で、子ども向けの公演として上演されることも多い。子どもじゃないけど私も大好きな2作品だ。

しかも今回はなななんと! 演出をあの演出グループ「1927」が手がけたのだ!
(「あの『1927』」とは何のこっちゃと思われた方は以前取り上げた『魔笛』について参照していただきたい。

そう、あのコーミッシェオーパーの代表作であり、ロングランで大ヒット作の『魔笛』を手がけた演出グループが、今シーズン新たに手がけた話題作がこの作品だったのだ。

怒濤のメルヘン
『ペトルーシュカ』も『子どもの魔法』も、それぞれひと作品だけで上演されるということはまず滅多にない。なぜなら、それ単体では短すぎるためだ。だいたい日本では同じ作曲家の他の作品と組み合わせて上演されることや、同じ国の作曲家のほかの作品と一緒に上演される事が多いように思っていたが、こうしてメルヘンもしくはファンタジーというくくりで抱き合わせて上演されるという試みはとても面白いし、とても素敵だと思った。
また、どちらもその名前を掲げて上演できるような人気作品を、一度に観られてしまうというのはなんともお得な気分だし、加えてバレエとオペラを同時に観られるという事もお得な気分だ。今回は「1927」の演出ということで、『魔笛』のときと同様に、プロジェクションマッピングの映像とのコラボレーションだ。映像に登場するアニメーションたちは絵本のようで、どこかシュールで、少しレトロな風合いをもつ。なんともお洒落でたまらない。
言わずもがな、今回のこの演目も今シーズンの大ヒット作で、連日超満員となっていた。私はたいてい当日券で公演を見に行くのだが、この作品は1度目に当日券に並んだときには、すんでのところでチケットが売り切れてしまい、泣く泣くそのまま帰宅した。今回は2度目の正直で、ベルリンっ子がこぞって観劇している本作品を楽しむことができた。なるほど人気な訳だ。これは面白い!
エンターテインメント形オペラ
ペトルーシュカはバレエ公演としての上演だけでなく、その多彩な音楽を堪能する為にオーケストラのみのコンサートでの上演されることが多い。筋書きは何とも切なく、ものすごく簡潔な説明で失礼するが、感情を持った操り人形ペトルーシュカが、人間に憧れ、恋をして、最後は死んでしまう。
音楽が多彩だと書いたが、とにかく写実的で、感情もその場面の描写も音楽から聞き取ることができる。本公演で3人の登場人物を演じるダンサーは、クラシックバレエのダンサーというよりもむしろ、かなりアクロバッティックなダンサーたちだったこともあり、視覚的にもあっと驚かされるようなパフォーマンスが目白押し。それに加えて何とも斬新な映像とのコラボレーション。まさに全く新しいエンターテインメントジャンルを観ているような感覚だった。
『子どもと魔法』も同じく「1927」の演出により、これまたファンタジーな世界観を全く今までにないオペラのスタイルが確立されていた。魔笛で鮮烈な印象を与えてくれたがために、次の作品はどうなんだろうか…と期待値がものすごかったのだが、まんまと期待を超えてきてくれた! してやられた感じだ! 悔しい! まんまと楽しかった! 思うつぼだ!
新しい刺激と感動がそこにはある

オペラはが映画のようであったり、お芝居のようであったり、サーカスのようであったり、バレエのようであったり。「なにがおもしろい? こんなのはどう?」このベルリンでは決まった形ではなく、本当に様々な形態で観客に問いかけてくる。観客は常にそれに拍手で応える。割れんばかりの拍手だ。
例外なく、今回の公演も観客の満足は目に見えた。いや、その拍手の音から聞き取れた。そんなに死にものぐるいで叩かなくたって、舞台の上の人々にはちゃんと伝わっているよと言いたい。興奮の証しだろう。
なんとこの公演、大盛況により来シーズンも上演されるそうだ。これは是非多くの人に見に行ってもらいたい。ベルリンにオペラを見に行くために旅行に出かけるなんてどうだろうか。かっこ良すぎる。私はそういう、形から入ることが大好きだ。どうだろう、皆様も試しに「先週の週末はどちらへ?」なんて問いかけに、「ちょっとオペラを観に、ベルリンまで…」なんて答えてみては?

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