【ジン】“感覚”が高次元で乱反射を
繰り返す、多面体ロック
独自の激情ロックサウンドが、聴く者の感情を揺さぶるジン。2ndアルバム『クオリア』で、バンドは一次元高い音世界へと到達。“伝える”ために生まれた楽曲たちは、さまざまな感覚を呼び起こす。
取材:金澤隆志
クオリア”とは“感覚”という意味を表すラテン語だそうですね。これがアルバム全体のコンセプトになっているのですか?
ひぃたん
これまでは、アルバムにコンセプトを持たせることはなかったけど、今回はジンというものが、よりみんなに伝わりやすいアルバムにしようという意識を共有して作ったんです。聴いてくれる人が、いろいろな感覚を持ちやすく、感情移入しやすいもの。これまでは大自然や草原といった、自分の内面の世界を歌ってきたけど、今回は大部分の人が体験し得るであろう悩みや苦しみという、身近な場所にある物語を歌ったんです。
コンセプトを持たせることによって、具体的な作業の上でも変化はありましたか?
もとき
曲の作り方が変わりましたね。これまでは楽器隊の3人がオケでイメージを作って、それをベースにひぃたんに歌詞を書いてもらうという、演奏と歌詞がまったく別々の作業だったんです。今回はひぃたんと僕たち3人がほぼ同時進行で、オケと歌を作っていきました。同じ目標、景色が見えているから、“ここをこうしよう”というと、すぐにその場で変えていくことができたのが良かったですね。
そうした密接な作業を通じて、新たに見えたことも多かったのでは?
ひぃたん
本当に。これまでの4年半はオケが先に出来上がって、その上で私が好き勝手やるというスタイルが定着していたので、最初は慣れない部分もありました。4人一緒なので、問題が出てきたらその場で解決しないといけないし、歩調を合わせないと全体の作業がストップしてしまうわけだし。でも、一緒に作り上げていくことによって、3人が私が見ている歌詞の世界を読み解いてくれるので、それを演奏に反映してもらうことができる。バンドを4人でやるというのはこういうことなんだなと、今回ほど体感したことはなかったですね。
サウンドやアレンジの面でも大きな成長の跡が見て取れます。すごく緻密に構築されているのと同時に、ダイナミクスを兼ね備えていて。
ハルカ
それぞれのパートに関するこだわりが増えてきた結果ですね。時間の経過とともに全員“こうしたい”という意志が明確に出てきたんで。ほとんどの曲は夏に合宿に入った時に作ったんだけど、その時は常に全員が一緒だったから本当に細かい部分まで話し合うことができたし、レコーディングでは音作りの面で妥協することなく、それぞれがこだわることができたんです。
もとき
想像していたアルバムのサウンドを、そのまま音にできたんじゃないかな。それはやはり“伝えたい”という気持ちで全員の意思統一が図られたことが大きかった。
哲之
これまではメンバー同士で曲に対するイメージについて深くまで突き詰めた話をすることはなくて。むしろ、まったく意図していない偶然のマッチングに面白さを求めていたというか。でも今回はお互いの音を意識して、それを巻き込みながら、それぞれが演奏できていると思う。一聴した感じ、スマートな印象になっているかもしれないけど、より深い部分で絡み合うことができたんです。
楽曲に関してですが、「スノーマン」のようなホンワカした印象の曲は、これまでのジンにはなかった要素だと思うんですよ。それ以外にも今回は優しい印象の曲が多いですよね。
もとき
「スノーマン」は聴いた印象と違うかもしれないけど、たぶん僕たちがこの曲をライヴで演奏する時は、両足を広げて踏ん張ってすると思う。
ひぃたん
CDでは、ストリングスが入っていたりしてキレイに作り込まれているけど、ライヴではかなりハードな印象になります。今回、歌詞を書く時に聴く人に特定の感情を伝えるには、その対極の感情も持ち合わせていないと伝わらないのではないかと思ってたんです。私がどれだけ怒りながら書いた歌詞だったとしても、聴く人がどう捉えるかを想像しながら、優しい気持ちを持ち合わせなければ自己満足に終わってしまう。“自分らしさ”とエゴの境界線を感じつつ、感情を共有する上での難しさというのを実感しました。
それでは最後に、アルバムを漢字一文字で表すと?
ひぃたん
“想”。私たちが想いを発信すべき見えない人たちを常に考えながら作ったアルバムだから。
ハルカ
“愛”。大好きな、愛して止まない曲たちなので。最初の頃は、まさかこんな形で表現できるとは思っていなかったから、感動すら覚えます。
- 『クオリア』
- QQCL-35
- 2008.02.06
- 3059円
ジン:ひぃたん(Vo)、ハルカ(Gt)、MOTOKI(Ba)、哲之(Dr)による、女性ヴォーカリストを擁する4人組ロックバンド。2003年夏、東京・府中にて同じ高校に通う、別々のバンドで活動していた4人が“この4人なら最強!”と意気投合して結成。オリジナル楽曲を制作し、ライヴ活動をスタート。2005年には全国50カ所を超えるツアーを敢行。ひぃたんの歌や歌詞が醸し出す独特の世界観、演奏やサウンド、アレンジの圧倒的オリジナリティー、唯一無二なバンドの存在感が注目を集め、2006年5月24日にミニアルバム『言錆の樹』でメジャーデビュー。テレビ朝日系『ミュージックステーション』でのパフォーマンスが鮮烈なインパクトを与え、8月リリースの1stシングル「雷音」でその名を全国に轟かせる。2010年4月、Defrock Recordsへ電撃移籍を果たし、7月に2ndミニアルバム『エンジン』をリリース。夏フェスにも多数出演し、ライヴバンドとしてのポテンシャルの高さをしらしめ、全国37本のツアーを大成功させた。2011年、関西を中心に展開している現役予備校『研伸館』のCMソングに起用された未発表曲「夢幻の光」、オリジナルプリントTシャツの販売・制作・通販の『プラスワン』のCMソングに起用された未発表曲「ブルースケール」がともに関西を中心に話題を集める。オフィシャルHP