私の好きな星野源の「恋」が、DAM、JOYSOUNDともにぶっちぎりでトップという結果に喜びました。
楽しい曲、すてきな曲と楽しいダンスの振り付けと、近年の作品の中で楽しさを前面に押し出したプロモーションで、幅広い世代からの支持を得たのだと思います。
こういった楽曲が増えれば、音楽に親しむ人はもっと増えるんじゃないかなあと思います。
そんな訳で、自分も大好きなこの曲、ボーカロイドでカバーしてみようと思います。

まずはオケの作成から


楽曲のカバーをしようとなると、まずはオケのコピーをしなければいけません。
自分で楽しむだけなら、CD音源に合わせてしまうのも良いかもしれませんが、どこかに発表したりする場合問題になるので自分で作成していきます。
幸い、この曲はシンプルですので、耳コピー初心者にも比較的難易度が低い曲ではないかと思います(自分も耳コピーは苦手です)。
市販の楽譜などもそろっているので、音を取るのが苦手な方は資料を手に入れて打ち込みするのもいい勉強になります。
ざっと聴いてパートを確認してみると、次のような構成でした。
・ドラム
・ピアノ
・ストリングス
・二胡
・シロフォン
・ベース
・ギター
・ボーカル+コーラス
この中でベースとドラムは、はっきり聴き取れるので、ベースを中心にコピーをしていきます。
最初はベースとストリングス・ピアノの音を大まかに取って、アウトラインを確認していきました。
前奏やサビのバックでコーラスのように聞こえる音は二胡でした。
これは似ている音が何か調べているうちに、二胡が使われているという情報を見つけたのでなるほど、と納得した部分です。
しかしCubase 9.5の付属音源にも、KONTAKTの手持ちのライブラリには二胡の音源はありませんでした。
買わないとだめかな?と思いながらもう少し調べてみたとことろ、Halion Sonic SEのライブラリの中に胡弓の音源がありましたので今回はそれを使用しました。
同じ中国の楽器とあって、似た音が出てくれるのでそれっぽく聞こえてくれました。
意外と厄介だったのがシロフォンの音源でした。
シロフォンはマレットというバチで叩いて音を出す楽器ですが、叩くマレットの種類で音がかなり変わります。
オーケストラ系の音源はソフトマレットなどで柔らかい音だったり、ポップス向けの音源では硬いマレットでは硬質な音だったり……。
手持ちの音源の中で調べてみましたが、なかなかそれっぽい音が見つからなかったのですが、セールで買っておいたXpand!2に収録されているシロフォンの音が、結構近い音だったのでそれを採用しました。
こういった音源などの機材のセール情報を素早くまとめてくれる、Computer Music Japanのお世話になっています。
Computer Music Japan | DTM・シンセサイザーのセール・新製品など音楽制作情報サイト
パート自体はそんなに難しいことをしていないので、コピーは簡単かもしれませんが、ひとつひとつの音が存在感をもって鳴っているので、あまりかけ離れた音が鳴ると全然雰囲気が出ないのでいい音があったのは幸いでした。
ギターの音はギターに詳しくないので完全に打ち込み音源頼りになってしまうのですが、アタリを付けた音で試しに鳴らして見ましたが全然似ませんでした。
ギターに詳しい方に相談してみたところ「ハムバッカーならいけるのでは?」「レスポールならどうでしょう?」とヒントをいただいたのでそれならとJunkGuitarを使ってみました。
JunkGuitarは国産のギター音源で自分のような初心者にも使いやすいので重宝します。
そしてJunkGuitarのもうひとつの名前はVintage Humbacker Guitar。
ヒントと良い音源のおかげで何とか形にできました。
Fujiya Instruments [エレクトリック・ギター音源Junk Guitar, エレキベース音源Organic Fingered Bass]

ボーカロイドの打ち込み

オケの制作ができたらボーカルパートを作ります。
オケ制作の段階でボーカルとコーラスの音程も拾えているので、まずはベタっとボーカロイドで歌わせてみてどんな雰囲気になるのかを確認してみました。
今回もIAとIA Rocksを併用して歌ってもらいます。
とりあえず打ち込んだオケのボーカルガイドパートを、そのままボーカロイドトラックに流し込んで歌詞を割り当ててみましたが、やはりベタ打ちでは雰囲気が出ませんでした。
まずはベタ打ちで聴いてみて気になる点をまとめて、そこからひとつひとつ修正していきます。
・デュレーション(音符の長さ)がだいぶ違う
・ビブラートが細かく入っている
・アクセントが足りない
・声が細い
デュレーションはボーカルありの曲を作る時に、アルトサックスで音を取って、音符の長さをテヌートにしているので細かく調整をおこないます。
意外と気になったのが、四分音符などの短い音符にビブラートが入ったりしている部分でした。
こういう細かい部分は手間がかかりますが、入れておかないと物足りない感が大きいので、原曲を聴きながらチェックしていきました。
アクセント不足・声の細さは、ボーカロイドでは宿命とも言える課題ですが、アクセントはVOCALOID Editor上でダイナミクスで底上げしたり、waveに出力した後に部分的に調整することもできなくはありません。
声の細さについては、ボーカルをサポートするエフェクターに頼ります。
幸い、昨今のプラグインは優秀なものが多いので、ある程度期待したとおりの結果を得られるようになっています。
自分はWavesのSSL Collectionや、Eddie Kramerのシグネイチャーシリーズをよく使います。
アナログ系の倍音付加を利用して線の太い音にしていきました。

修正のポイントなど

まず音符の長さについてですが、伸ばす部分と止める部分は歌のリズムの重要なポイントです。
ボーカロイドはベタ打ちでは、比較的スムーズな歌(全体的にスラー気味)になりますが、「恋」はテンポの速めな曲ですので緩急はしっかりつける必要があります。
しかし、こういったテンポが速く音符が密な歌は、ボーカロイドは苦手な分野でもあります。
単発の音でブツ切りにしてしまってもいいジャンルでない場合は、スラー気味がもたらすもうひとつの問題である「次の音に滑らかにつながろうとする」音の動きで、思うように音程がコントロールできない場合があります。
今回もこの問題にぶつかりましたが、これには解決策があります。
伸ばしの音符を1音ではなく末尾に短い長音記号の音符を置くことで、連続する同じ音の2音符にすると、後ろの音の長さと無関係に前の音符は音程を維持します。
これを利用することで細かい動きの中でも十分な音程キープが可能になりました。

図にあるふたつの丸の中に赤いラインで示されたピッチの動きが見えます。
左の丸は、次の音符に向かって赤い線が早い段階からカーブしているのに対して、右の丸では長音記号のある短い音符までの線はカーブしていません。
こういった微調整で、できるだけ音程の動きも近くなるように気を付けてみました。
ビブラートの調整については私は一切ピッチベンドを記入しません。
VOCALOID4 Editor for Cubaseから追加になったピッチレンダリング機能(上で表示した赤いピッチのライン)があるので、ビブラートが必要な音符には、音符のプロパティでビブラートの質を設定しています。
手書きピッチでももちろん同じことはできるとは思いますが、ピッチレンダリングが追加されたことでパラメーターによる入力でも出力結果が目視できるようになりました。
このためどのスピードならどれくらい揺れるのか?という結果を確認しながら調整ができるため、作業性がよくなっています。
高い音程でファルセットボイスで歌っている部分がありますが、こういった裏声もボーカロイドは苦手です。
この辺りは複数のパラメーターを一度に動かす必要があり、かなり難解です。
言葉で言ってしまえばGEN(ジェンダーファクター)、BRI(ブライトネス)、OPN(オープニング)、XSY(クロスシンセシス)のパラメータを上げたり下げたりなのですが、使用するボーカロイドの種類によっても異なるので(キャラクターによって特性が違うため一概にこうです!!という方法がない)自分の使用するボーカロイドの特性に合わせた方法を検討してみてください。

ここではGENとDYNを大きく操作しています。
見えていませんが、実際にはこのほかにBRIとOPNも変化させています。
うまくいったか?と言われると微妙ですが、雰囲気は近づけたかな……と思います。

完成した音源はこちら


まだ完璧とは言い難いですが、ボーカロイドIAで「恋」を歌わせられました。
好きな曲をコピーするのはとても楽しいですね。
ボーカロイドの編集が上手な方は、もっとうまく歌わせるられるかもしれませんし、ボーカロイドには、「ぼかりす」という人が歌ったボーカルデータからボーカロイドの歌唱データを作るツールなどもあります。
最初はベタ打ちの難しくないところから始めてみてもいいでしょう。
徐々にとコツをつかんでいろいろな曲を歌わせられるようになるときっと楽しいですよ。

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