まもなく来日!マニュエル・ルグリ率
いるウィーン国立バレエ団『ライモン
ダ』現地公演を特別レポート

ウィーン国立歌劇場は1869年に開場した世界最高峰の名門歌劇場である。そこを本拠とするバレエ団は2010年9月以降フォルクスオーパー・バレエと統合され、マニュエル・ルグリが芸術監督に就いた。ルグリはパリ・オペラ座バレエ団屈指の名エトワールとして君臨し、定年後も破格の踊り手として活躍するが指導力の評価も高い。バレエの申し子といえるルグリは、ウィーンにおいて新世代のダンサーを育て、レパートリーを広げ、勢いのあるバレエ団へと進化させた。きたる2018年5月の来日公演を前に4月中旬、“芸術の都”を訪れて鑑賞した同バレエ団『ライモンダ』の今シーズン最終公演の模様をお伝えする(4月14日、ウィーン国立歌劇場)。
ウィーン国立歌劇場 (c)Wiener Staatsoper/Michael Pöhn
『ライモンダ』は1898年、帝政ロシア時代にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演された全3幕4場のバレエだ。クラシック・バレエの様式美を確立したマリウス・プティパ最後の大作で、音楽を名匠アレクサンドル・グラズノフが書き下ろした。中世の十字軍遠征時代の南フランスを舞台に、伯爵夫人の姪ライモンダと婚約者のジャン・ド・ブリエンヌをめぐる恋物語が華麗かつドラマティックに描かれる。
ルグリにとって『ライモンダ』は自他ともに認める特別な作品に違いない。彼は21歳のとき、オペラ座のニューヨーク公演でジャン・ド・ブリエンヌを踊りエトワールに任命されている。任命者は当時のオペラ座バレエ団芸術監督ルドルフ・ヌレエフであり『ライモンダ』もヌレエフ版だった。ヌレエフは20世紀後半以降のバレエを語る際に欠かせぬ存在で、ソ連から西側に亡命した彼の活躍によってロシア・バレエの精華が世界中に広まったのである。ヌレエフの薫陶を受けたルグリが、師と縁の深いウィーン国立歌劇場のバレエ団の芸術監督になったことに運命を感じずにはいられない。ウィーン国立歌劇場におけるヌレエフ版『ライモンダ』の初演は1985年で、ルグリの監督就任後としては2016/2017シーズンに続く上演である。
アデーレ・フィオッキ(左) 、マリア・ヤコヴレワ(中央) 、エレーナ・ボッターロ(右) (c)Wiener Staatsballett/Ashley Taylor
壮大できらびやかな序曲に続き幕が開くとプロヴァンスの城内。ライモンダ(マリア・ヤコヴレワ)の誕生パーティーが開かれ、伯爵夫人(オクサナ・キヤネンコ)はライモンダをジャン・ド・ブリエンヌ(デニス・チェリェヴィチコ)と結婚させようと考えている。ハンガリー王アンドリス2世(ジョルト・トゥルック)、そしてライモンダが登場し、ヤコヴレワは細やかなポワント・ワークで軽快に踊り、愛らしさをふりまく。宴もたけなわ、サラセンの貴族アブデラーマン(エノ・ペシ)が威勢よく姿をみせ、ライモンダに宝石を捧げて去る。ヤコヴレワは花嫁のヴェールを持ちながら上体を柔らかく使って優美に舞い、婚約者への想いを表す。続いては幻影の場。白い貴婦人に導かれ夢のなかで踊るヤコヴレワのヴァリエーションはしなやかで、風格あるチェリェヴィチコと踊ったデュエットにもうっとりさせられるが、そこへアブデラーマンの幻影があらわれる…。
ジョルト・トゥルック&オクサナ・キヤネンコ&エノ・ペシ (c)Wiener Staatsballett/Ashley Taylor
第2幕ではアブデラーマンがライモンダのために開いた祝宴に宮廷の人々が招かれる。大きな天幕を張りめぐらせた舞台でサラセンの踊り、スペインの踊りなどリズミカルで情熱的なキャラクター・ダンスがめくるめくように繰り広げられた。古典バレエ美から一転しての熱気に満ちた踊りが鮮やかだ。アブデラーマンは宴の盛り上がりに乗じライモンダをさらおうとするが、そこへジャン・ド・ブリエンヌが戻る。男二人は決闘しジャン・ド・ブリエンヌが勝ち、ランモンダと手を取りあう。
『ライモンダ』第2幕 (c)Wiener Staatsballett/Ashley Taylor
第3幕はライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの結婚式で、多くの蝋燭が掲げられた重厚な空間で展開される。なかでもグラン・パ・クラシックと呼ばれる場面は独立して上演されることも名シーンとして知られよう。ライモンダの友人のクレメンス(アデーレ・フィオッキ)、ヘンリエット(エレーナ・ボッターロ)のヴァリエーション、4人の騎士の踊り、ジャン・ド・ブリエンヌとライモンダのヴァリエーション、コーダ、ギャロップなどを一気呵成に魅せ、大団円を迎える。ここではウクライナ出身の実力派チェリェヴィチコの豪快で力強い踊りもさることながらヤコヴレワが踊る、手を打つような動きが特徴的なヴァリエーションが出色。軸が強く、それでいて腕や手を自在に用い、背中のラインもきれいだ。第1幕では、あどけない少女の趣を残していが、すっかり大人の女性へと変貌し気高さを漂わせた。
マリア・ヤコヴレワ&デニス・チェリェヴィチコ (c)Wiener Staatsballett/Ashley Taylor
ヌレエフの演出・振付は、ニコラス・ジョージアディスによる豪華絢爛たる美術・衣裳もあいまって格調高く、数ある『ライモンダ』のなかでも格別といっていい仕上がりである。ダンサーたちも好演し、ヤコヴレワ、チェリェヴィチコ、ペシといったベテランに加え若手の台頭を実感した。ボッターロとフィオッキというイタリア人コンビや彼女たちと踊りに興じたベランジェ役のアルネ・ヴァンデルヴェルデは売り出し中で活きのいい踊りをする。スペインの踊りを華やかに踊ったイオアンナ・アヴラアム、ハンガリーの踊りを表情豊かに魅せたキヤネンコ、グラン・パ・クラシックのハンガリーなどで臆せず個性をアピールする芝本梨花子ら若い才能が、宝石のように輝いている。ヌレエフからルグリへ、そして新世代へ── 。偉大なる師弟が培ってきたバレエ芸術の奥義が惜しみなく伝えられ花開いていた。
マニュエル・ルグリ版『海賊』 (c)Wiener Staatsballett/Ashley Taylor
待望の来日公演は5月9日~13日 東京・Bunkamuraオーチャードホール、5月15日 大阪・フェスティバルホールにて行われる。『ライモンダ』からの抜粋を含む≪ヌレエフ・セレブレーション≫も入った「ヌレエフ・ガラ」(東京のみ)、ルグリ振付による話題のグランド・バレエ『海賊』という豪華演目だ。ご紹介したダンサーをはじめとする世界各国から集った気鋭が存分に活躍することが大いに期待できる。バレエ界のカリスマ&生きる伝説たるルグリの魔法にかけられ新鮮な活力に満ちたステージをしかと目に焼きつけたい。

文=高橋森彦

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