融合する歌とステージとアニメーショ
ン、新しき名曲の誕生ーーSHISHAMOの
ホールツアー・NHKホール公演

SHISHAMO ワンマンツアー2018春

「ドキドキしながら手を握ったのは、君には見えないあの娘が大人になるのが怖かったから」
2018.3.30 NHKホール
SHISHAMOの音楽と出会うことは、信頼できる友達と巡り会うことに限りなく近いのではないだろうか。NHKホールでのステージを観て、まず感じたのはそんなことだった。温かくて人間味あふれる、熱いライブだった。観客に対するメンバー3人の好意までもが演奏に乗って届いてくるような気がした。東京で桜が満開となった3月30日、19か所20公演をまわるSHISHAMOのホールワンマンツアーの3本目。
SHISHAMO・宮崎朝子
NHKホールは昨年12月31日に彼女たちがNHK紅白歌合戦に出演した場所でもあるので、3か月ぶりに同じ舞台に立ったことになる。だが、おそらく彼女たちにとって、視界に入ってくる景色はまったく違うものになっていたのではないだろうか。バンドもすでに2018年の新しいモードに突入しているように感じた。宮崎朝子(Gt&Vo)、吉川美冴貴(Dr)、松岡彩(Ba)という3人の奏でるバンドのアンサンブルもコーラスワークもさらにレベルアップしていたからだ。以前から3人の息はぴったり合っていたのだが、その精度が増している。グルーヴも切れ味が増して、メリハリが効いている。と同時に、ニュアンスも豊かになっている。楽しい空間が生まれる背景には、地道な努力が不可欠ということを彼女たちは知っているのだろう。最新シングル「水色の日々」リリース直後のツアーということで、タイトル曲「水色の日々」も演奏された。キーボードとシンセ・サウンドのシーケンサーが流れる中での演奏なのだが、みずみずしさとせつなさとが際立つ歌と演奏だ。この瞬間に生まれれるエモーションも含めて、音楽として昇華させていくバンドの集中力の高さを感じた。
SHISHAMO・松岡彩
今回のツアー、2016年の春ツアーに続いて、アニメーションを取り入れた演出が大きな特徴となっており、ツアー直前のインタビューで宮崎が「2016年の春ツアーが楽しかったので、またやりたかったんです」と語っていたとおり、楽しさ満載のステージとなった。演奏とアニメーションとセットなどの演出の相乗効果によって、楽しさのポイントがたくさん散りばめられている。ライブからアニメーションへ、アニメーションからライブへという転換の流れも鮮やか。観て、聴いて、感じて、楽しい総合エンターテインメントだ。
SHISHAMO・吉川美冴貴
ツアー・タイトルがダーク・ファンタジー風だなと思っていたら、なるほど、そう来たかと、うならせられるようなアニメーションのストーリーになっていた。不気味さは控え目、コミカルでキュートで、ちょっとせつなくて、感動的なところもある。当然と言えば、当然なのだが、宮崎が描き下ろしたアニメーションと、彼女が作詞・作曲している歌の世界観とは実に親和性が高い。まるでステージとアニメーションで描かれている場所が隣接していて、自由に行き来できるのではないかと錯覚しそうになるほどだった。二次元のアニメーションと三次元の生のライブの有機的な融合が実に楽しかった。歌、演奏、アニメーション、映像、照明、舞台セットなど、様々なところで創意工夫がこらされている。「来た人に楽しんでもらいたい。笑顔になってもらいたい」というバンドの思いが伝わってくる、細やかなところまで行き届いたライブだ。観客も1曲ごとに歓声をあげ、腕をふりあげ、ともに歌い、ハンドクラップして、この魔法のような空間を一緒に作り上げていた。
SHISHAMO・宮崎朝子
「水色の日々」「中庭の少女たち」「音楽室は秘密基地」など、学校を舞台にした歌、学生生活をモチーフとした楽曲も数多く演奏された。観客の年齢層の幅は広いが、中学生、高校生、大学生など、リアルタイムで学生生活を送っている人たちの割合がかなり高そうだ。それらの人たちに身近に響くだけでなく、社会人にも年齢を重ねた大人にも、彼女たちの歌は深く届いていたのではないだろうか。どんな大人だって、かつては少年少女であり、学校生活を送った経験を持っている。SHISHAMOの音楽にはそうした記憶、思い出、過去の感情を蘇らせる効力を持っていると思うのだ。ツアー・タイトルの言葉を借りるならば、“あの娘が大人になっていく”ベクトルとは真逆に、“大人が大人でなくなっていく”スイッチがたくさん用意されたステージでもあった。SHISHAMOの音楽が幅広い層に支持されているのは、彼女たちの音楽が聴き手の胸の奥底に潜んでいた感情にまでリンクしていく普遍性を備えているからだろう。
SHISHAMO
SHISHAMO・宮崎朝子
アコースティック編成で演奏を披露する場面もあった。通常のギター、ベース、ドラムとは違う編成となっても、歌をしっかり届ける姿勢は一貫している。ダイナミックなバンドサウンドとは一転したしっとりしたアレンジになっても、曲の魅力は少しも損なわれない。いや、むしろ違う魅力が顕在化する。いいメロディといい歌詞という軸があって、歌心あふれる演奏をすれば、曲の可能性は広がっていく。音楽的な楽しみを満喫できるライブでもあった。
SHISHAMO
「ツアーが今月から始まって3公演目なんですけど、全然ライブやってなくて。久しぶりにみんなに会えるということで、うれしいです。紅白歌合戦の時もここでやって、その時もたくさん人がいたんですが、今日はSHISHAMOを観に来た人だけでいっぱいになるということで、どんな景色になるんだろうって、ワクワクしていました」と宮崎。バンドのワクワクと観客のワクワクとが混ざり合って、とてつもなくハッピーな空気が漂っていく。続くMCのやり取りからも、感受性の豊かさが演奏の表現力の豊かさにも直結していることがよく分かった。ちなみに吉川は松岡から、“最近足と腕がゴリゴリ”と暴露されていたが、本人は「ジムに行ってないし、鍛えてない」と証言。いわく、「ただSHISHAMOとして生きているだけ」とのこと。筋トレもしてないのに、腕がゴリゴリなのは、ライブはもちろん、リハなどの練習も含めて、ドラムをたくさん叩いているからだろう。こうしたエピソードからもバンドの音楽に対する姿勢と情熱が見えてくるようだった。
SHISHAMO・宮崎朝子
音源化されていない新曲も2曲、披露された。1曲目は松岡の表情豊かなベースと吉川の躍動感のあるドラムによる自在なグルーヴが魅力的なナンバーだ。せつない歌声と多彩なバンドサウンドとが混ざり合って、主人公の心の揺れが見事に表現されていた。もう1曲の新曲は、宮崎のギターの弾き語りで始まって、独り言を呟くような素朴な歌声がすーっと届いてくる。その歌声をベースとドラムが優しく包み込んでいく。聴き手の隣に寄り添ってくるような包容力のある温かな演奏で、柔らかな歌声とギターがまるで闇の中の一筋の光のように、さりげなく、でも確かに届いてきた。初めて聴いた瞬間にSHISHAMO屈指の名曲が誕生したと感じた。
SHISHAMO・松岡彩
この新曲だけでなく、この日演奏された曲の数々が聴き手の心強い味方となっていることも。寄り添ったり、励ましたり、一緒にときめいたり、胸を痛めたり、熱くなったり。SHISHAMOの音楽を通して、様々な感情を共有していく時間そのものが日々の生活を送る糧となっていくに違いない。夏に開催される等々力陸上競技場でのスタジアムライブについて、「SHISHAMOの全部を詰め込んだ一日にしたいと思っています」との宮崎の発言もあった。密度の濃かった2017年の音楽活動を経て、バンドは着実に進化して、今という瞬間に出来る最大限のパフォーマンスを発揮し、未来をしっかり見据えていた。
SHISHAMO・吉川美冴貴
終演後の帰り道で目撃した街灯の光に照らされて舞い散る桜の花びらまでもが、この日のライブのセットの一部のような気がしてきたのは、SHISHAMOの奏でる歌の数々が日常の中に自然に入り込んでいたからだろう。桜の花が散ってもバンドは満開、いや全開だ。春から夏へ、ツアーの中で感じた思いを一緒に抱えて、SHISHAMOは全国をまわり、等々力陸上競技場へと進んでいる。吉川の腕はさらに“ゴリゴリ”になり、全国各地の会場に充満した“ワクワク”や“ドキドキ”は夏の野外の広大な空間でさらに巨大な“ワクワク”と“ドキドキ”になって共有されていくのだろう。

取材・文=長谷川誠
SHISHAMO

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