「冨田勲 映像音楽の世界」コンサー
ト~手塚アニメから特撮音楽、大河ド
ラマ主題曲まで by 高木大地(金属恵
比須)

「従来の演奏会ではステージでの上にピアノがあり、演奏者がヴァイオリンやチェロをかかえて出てくれば、もうそれでどのような音がでてくるのか楽器としての音色そのものは聴衆にわかってしまう。しかし、ステージの上にポンと置かれたシンセサイザーは、いったいどういう音ででてくるのか、とにかく始まってみなければわからない(後略)」

『惑星/冨田勲』(1976年)「制作メモ――冨田勲」より
シンセサイザーの“魔術師” 冨田勲(1932-2016)は、オーケストラの名曲をシンセサイザー(と若干のキーボード)のみでつくりあげ、次々とヒットさせていたころ、こう語っていた。当時、シンセサイザーはナイーヴな精密機械だったのでコンサートで使われることはまれ。にもかかわらず冨田は当時から未来を予測し、現在はシンセがステージ上にてなくてはならない存在となり、予測は的中することとなる。
かくいう筆者は、小学校のころに『惑星』を聞いてシンセサイザーの無限大の可能性に惹かれ、シンセの虜となった。現在もプログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」を率い――冨田の予想通り――ステージ上で惜しげもなくシンセを使い倒している。スペイシーな音は確実に影響を受けている。
シンセの“魔術師”のイメージの強い冨田だが、映像音楽(いわゆるサウンドトラック)の作曲家でもある。1958年、映画『地獄の午前二時』を手がけて以来、数えきれないほどの映画・テレビの音楽をつくってきた。
代表的なのは手塚治虫の『ジャングル大帝』。オープニングの歌のメロディで、獣の雄叫びを再現すべく、音楽の常識ではありえない1オクターヴ以上開きのある「音飛び」を使い、音楽に造詣のある手塚治虫にダメ出しされたという逸話がある(結局〆切の都合上、冨田のメロディが採用されることとなる)。
ほかにも、1963年、記念すべきNHK「大河ドラマ」第1回である『花の生涯』を手がけ、以降1983年の『徳川家康』まで計5回も担当している。どれも音数が少なく、象徴的な「音飛び」を多用した覚えやすいメロディなのが印象的だ。『徳川家康』にいたっては、フルオーケストラと合唱団(慶應義塾ワグネル・ソサィエティー)に加え、シンセサイザーやシーケンサー(自動演奏機器)もふんだんに使用し、その後のサウンドトラックの方向性に影響を与えたであろうエポックメイキングな作風となっており、個人的には最もイチオシの曲である。
そのように冨田が1960~1970年代に作曲した映像音楽ばかりを集めたコンサートが催されることとなった。スリーシェルズ企画コンサート「冨田勲 映像音楽の世界 SOUNDS OF TOMITA ~冨田勲メモリアルコンサート~特撮・アニメ・映画音楽特集~」である。
先に挙げた曲のほかにも、当時シンセサイザーの大胆起用で話題となった『ノストラダムスの大予言』(1974年)をフルオーケストラで演奏、円谷プロの特撮ドラマ『マイティジャック』(1968年)の映像付き演奏など、目玉はたくさん。
指揮は冨田が絶大な信頼を寄せていた藤岡幸夫。2012年度大河ドラマ『平清盛』の指揮を担当した人物である。プログレ・ファンであれば、吉松隆氏(『平清盛』作曲者)のアレンジによるエマーソン・レイク&パーマー「タルカス」のオーケストラ版を指揮した、と聞けばピンとくるだろうか。ちなみに、冨田も藤岡も吉松も慶應義塾大学出身で、綿々と連なる慶應の音楽歴史の系譜だというのも興味深い。
藤岡幸夫 (c)Shin Yamagishi
そして、このコンサートにおけるシンセサイザー担当は篠田元一。『キーボード・マガジン』(リットーミュージック)の連載で有名なシンセサイザー奏者の第1人者である。また、監修を映画監督・映画評論家の樋口尚文が務めるのも心強い。
樋口尚文
冒頭の冨田の言葉では、オーケストラが出てきてもどんな音色が出されるかがわかってしまう、と述べていた。しかし、手塚治虫がメロディの奇抜さに驚かれたり、大河ドラマでシンセを使ってしまったりと、冨田の音楽はとにかくいい意味で裏切られることが多い。
よってこのコンサートは、ステージ上にフルオーケストラが登場しようが、合唱団が登場しようが、シンセサイザーを使おうが、まったく予想のつかない音が待っているに違いない。よく考えてみよう。シンセサイザーの原義[Synthesize]は、「音を合成する」という意味である。今回のステージに並べられている楽器すべての音がその場で合成され、「いったいどういう音ででてくるのか、とにかく始まってみなければわからない」状態になる、非常に興味深いコンサートになる事は間違いないだろう。
文=高木大地(金属恵比須)

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