伊藤郁女と森山未來が競演!  私た
ちの生きる価値を問う『Is it worth
to save us?』

フランスを拠点に活動する伊藤郁女(いとう・かおり)と、演技とダンスの両面で表現に打ち込む森山未來。この2人がタッグを組み、2018年10月31日(水)~11月4日(日)KAAT神奈川芸術劇場で新作『Is it Worth to save us?』を発表する。それぞれの人生経験や、死にまつわる思考についての対話を交わすところから始まったという同作について、伊藤に話を聞いた。
ーー新作『Is it Worth to save us?』は、森山未來さんとの共同作品ですね。とても意味ありげなタイトルです。
「私達は救われる価値があるのか?」ですからね(笑)。
ーーこのプロジェクトが立ち上がった経緯は?
未來くんとは、ラルビ(シディ・ラルビ・シェルカウイ。ベルギー拠点の振付家で、日本でも新作を多数制作)の『TeZukA』の打上げの席で一緒になったのが最初です。
ーー手塚治虫のマンガ世界を翻案した作品ですね。

私はフランスに拠点を移してだいぶ経ちますから、彼が映画俳優をやってるとか、まるで知らなかったんですよ。でも舞台での雰囲気や感じがすごく綺麗な子だなと思って、その後も別の公演で再会したり、連絡を取り合ってはいて。それで、たまたまKAAT神奈川芸術劇場で作品をつくろうという話になったときに、ふと「未來くんとやりたいな」と思ったんです。

ーーそれはまたなぜ?
未來くんも私もアンドロギュノス的というか、女性的であり男性的なところがあって、そしてまた、感情のない無表情なお人形さんのようなところを持っているからかな? 日本人で輝くような存在感を持っている人ってそう多くないんですけど、未來くんは一人で何もせずに立っていても空間を満たすような存在感を持っているんですよね。そういった、ある種の「人形性」みたいなものは私の作品の個人的なテーマでもあるので、未來くんはぴったりでした。
それと、けっこうダンサーとしての未來くんは真面目でかっこいいイメージあるじゃないですか、アイドルだから……アイドルって言うと怒られるんだけど(笑)。でも、本当はすごい面白いし、関西ノリのツッコミも鋭い。そういう素の未來くんを出せば面白くなるだろうなって。
伊藤郁女
ーーけれども作品のテーマは「人の生きる価値」を問う、とてもシリアスなものですね。そして土台になっているのが三島由紀夫の『美しい星』です。
人間の家族なのに、全員がそれぞれ別の惑星からやって来た宇宙人だと思い込んでいる人たちを描いた内容で、その家族同士の距離感が面白いんですよ。
人型ロボットの真似をする作品(『ロボット、永遠の愛』)を今年つくったんですね。ロボットって人間の所作を分析して開発されていますから、人間のまねっこしたものをもう一度まねっこしてみる、っていうややこしい構造の作品(笑)。何かと何かの間に自分を置いて作品をつくっていくことが私は好きで、『ロボット』の場合は機械と自分との関係で、次の新作は宇宙人という設定で人間を見る、というのが面白い。
「どうして人間は笑ってすべて忘れてしまうのか?」「なんで時間に遅れてしまうのか?」「鳥をかごに入れて自分は自由を満喫するのか?」「死んだ花を死んでないように飾るのはなぜか?」とか、自分が生きてきたなかで体験したエピソードをベースにしてつくっているんです。ちなみに私は、小さい頃に自分を宇宙人だと思い込んでたんですけど。
ーー本当に?
真剣に! 人間は全員が紙っぺらでできていてペリペリと剥がれると思っていたから必死に分け目を探したり、宇宙人だから水中でも呼吸できると思っていたんだけど、できずに挫折したり。
かたや、未來くんは「逃げる」ってことにオブセッションのある子どもで、2回くらい窓ガラスを突き破ってしまったり、マイケル・ジャクソンのコンサートに行って、偶然マイケルと鉢合わせして握手を求められたんだけど、自分から逃げ去ってしまったりしてる。そういったそれぞれの経験を挙げていって、作品化していこうとしています。
伊藤郁女
ーー先日、日本ツアーがあった『私は言葉を信じないので踊る』は父親との対話を作品にしていましたが、今回もベースには他者とのコミュニケーションがある?
そうですね。ダンスに関係する経験でも共通点があって……。
私はピナ・バウシュの死にショックを受けて、彼はマイケル・ジャクソンの死に衝撃を感じていて、それらはほぼ同時に起きている(ともに2009年)。そういう重なり合いを作品にフィードバックしていきながら「いつか死んで破滅する私たち人類は救われるべきなのか?」という大きな疑問を問うていくわけです。
一方で、ダンサーのタイプとしては私と未來くんは全然違う。彼は緩やかで水のような踊りをする人で、私はとても直線的。まったく異なる踊りが混じっていくことも重要。
ーー『私は〜』も、序盤〜中盤はお父さんと郁女さんの似ている部分を踏まえつつも、最後は別個の個人同士として別れていくような感触のある作品でした。
同じであることに幸せを感じつつ、そこに孤独を感じるときってありますけど、それが大事だと思っているんでしょうね。
近い将来、スイスの新聞社から私が見た夢を記した日記集を出版するんですが、私の夢ってすごく怖いんです。カラスがナマ肉を落としてくるとか、お父さんが這い回っていて片手がないとか、お母さんと一緒に毛布にくるまっていて抱きしめようとすると骨だけになって、それがたくさんの鳥になって羽ばたいていなくなってしまうとか。それで最近は、自分の子どもが死ぬ夢を頻繁に見るようになって。
ーー昨年、男の子が生まれたそうですね。どんな夢ですか?
赤ちゃんの首がバービー人形みたいにポトンとなくなったりして、かなり衝撃です。
でも、そういう世界が自分のなかにあるから笑っていられるし、嬉しく生きてもいける。お父さんが「生まれたときから死に向かっているんだ」と言いますけど、人生の裏表みたいなものが必要だと思うんです。
伊藤郁女
取材・文=島貫泰介 撮影=鈴木久美子

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