『ペンギン・ハイウェイ』天才少年が
解いた謎の名前は、悲しみ。

『ペンギン・ハイウェイ』天才少年が解
いた謎の名前は、悲しみ。

この夏の大本命アニメーション映画。
そう言っていいだろう。
長編アニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』が8月17日から全国の劇場で公開されている。

『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト

原作は『夜は短し歩けよ乙女』や『新釈 走れメロス』など、独特の文学的香気が読者を魅了する作家、森見登美彦。
監督は『フミコの告白』や『陽なたのアオシグレ』などで疾走感あふれる短編アニメーションを制作してきた監督、石田祐康。
二つの才能が化合して、深い余韻をのこす傑作を生みだした。

本記事では、このすばらしい映画『ペンギン・ハイウェイ』をよりたくさんの方々に観てもらうために、監督、あらすじ、見どころを詳しく紹介しよう。最後に、映画にまつわる関連情報も載せておいたので、興味のある方はチェックしてみてほしい。
(『ペンギン・ハイウェイ』予告)

『ペンギン・ハイウェイ』

石田祐康監督について

石田祐康監督は今年30歳を迎えたばかりの非常に若い監督である。

彼はスタジオジブリ出身の若手アニメーター新井陽次郎とともに、2011年、スタジオコロリドを設立した。そこで劇場用短編アニメーション『陽なたのアオシグレ』を監督したほか、新井陽次郎監督『台風のノルダ』(2015年)の作画監督を務めるなど、これまで精力的に創作活動をおこなってきた。
(『陽なたのアオシグレ』予告映像)

『ペンギン・ハイウェイ』は、スタジオコロリド設立前から彼の動向に注目してきたファンにとって、待ちに待った長編アニメーション初監督作品となる。主題歌を宇多田ヒカルが務めることも話題だ。

石田監督については、以前、ミーティアで大きく取りあげたことがある。その経歴や魅力を紹介しているので、本記事と合わせてお読みいただきたい。

『ペンギン・ハイウェイ』あらすじ

小学四年生のアオヤマ君は、一日一日、世界について学び、学んだことをノートに記録している男の子。利口な上、毎日努力を怠らず勉強するので、「きっと将来は偉い人間になるだろう」と自分でも思っている。 そんなアオヤマ君にとって、何より興味深いのは、通っている歯科医院の “お姉さん”。気さくで胸が大きくて、自由奔放でどこかミステリアス。アオヤマ君は、日々、お姉さんをめぐる研究も真面目に続けていた。 夏休みを翌月に控えたある日、アオヤマ君の住む郊外の街にペンギンが出現する。街の人たちが騒然とする中、海のない住宅地に突如現れ、そして消えたペンギンたちは、いったいどこから来てどこへ行ったのか……。 (『ペンギン・ハイウェイ』公式サイトより)

アオヤマ君とそのクラスメイトのウチダ君は、街に突如現れたペンギンの謎を解くべく、調査と研究を開始する。
目撃者に話を聞いて回り、ペンギンのたどる道、すなわちペンギン・ハイウェイを探すのだ。もちろん、アオヤマ君は“お姉さん”のおっぱい研究にも余念がない…。
(画像:出典元)

『ペンギン・ハイウェイ』という映画はとても不思議な出来事で幕を開ける。
けれども、ペンギンは姿も仕草も可愛らしく、どこかほのぼのとしている。
何より、アオヤマ君の好奇心がペンギンだけではなく、“お姉さん”のおっぱいにも及んでいるので、それが小気味よいアクセントになって、ほほえみを誘う。

小学四年生のアオヤマ君は純粋な好奇心から、「なぜ、おっぱいに惹きつけられるのか?」という研究ノートを作成して、“お姉さん”のおっぱいと牛のそれとの比較までおこなってしまうのだ。

アオヤマ君の身の回りで、明らかに異常なことが起こっているのに、緊迫感がない。
温かみのあるキャラクターデザインの効果も相俟って、映画は楽しげに、のんきに、少しミステリアスに、進行してゆく。

ところが、アオヤマ君たちがペンギンの謎について研究を進めてゆくにつれて、不思議なこともどんどん増えてゆく。

雪だるま式に謎が謎を呼び、それは途方もなく大きくなって、ついに彼らは「世界の果て」に関する謎にまで直面することになる。
ほのぼのとした物語が次第に深刻さを増してゆく。このあたりの展開は実に見事で、決して飽きさせない。

見どころ~知ることは悲しい~

(画像:出典元)

アオヤマ君は研究熱心な少年である。
小学四年生にして相対性理論に関する本を読み、神羅万象について興味をもち、そして不思議に感じたことに対して仮説を立て、検証する(おまけに人間と動物のおっぱいを比較分析する!)。
ひょっとしたら彼は天才かもしれない。少なくとも、自分でも思っている通り、将来有望であることは間違いない。

しかし、彼はペンギン研究をつづけてゆく過程で、この世界の秩序とは相容れない、「世界の果て」のさらに向こうにある存在に気づくことになる。

それは人間には解くことのできない謎だ。いや、解くべきではなかった謎といえるかもしれない。
勉強すること、研究すること、問題を解決すること。それはときに知りたくないようなことまで知ってしまうことをも意味している。

だからこそ少年はこう思うのだ。「知ることは悲しい」と。

そう、『ペンギン・ハイウェイ』という映画は、可愛らしいペンギンの謎を追求する少年らの姿を通して、知ることの悲しみを描いているのである。

間口はできるだけ広く、けれども奥行きは限りなく深く。そういうエンターテインメント映画の鉄則をこれほど鮮やかにクリアしてみせた映画はそうそうないだろう。

しかも、石田祐康監督はそれを長編アニメーション映画第一作目にして達成してしまったのだ。
この非常に才能あるアニメーション映画監督を、これからもずっと見守ってゆきたい。

関連情報

最後に、この映画にまつわる関連情報を押さえておこう。

アニメーション化された森見登美彦の小説
森見登美彦の小説はこれまで何度もアニメーション化されている。
TVアニメ『四畳半神話大系』(湯浅政明監督)と『有頂天家族』(吉原正行監督)、長編アニメーション映画『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅政明監督)だ。石田祐康監督の『ペンギン・ハイウェイ』とはまた違った味わいとセンスがあって、こちらも非常におもしろい。

『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫)

『四畳半神話大系』(角川文庫)

『有頂天家族』(幻冬舎文庫)

『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)


アリスもの
(ジョン・テニエル絵「ジャバウォック」)

また、『ペンギン・ハイウェイ』のなかには、事件の謎に関わってくる重要な鍵として、ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する、謎の怪物ジャバウォックの話が出てくる。
ジャバウォックが何者であるのかは、小説を最後まで読んでみても、結局よく分からない。世界中の研究者たちが、今もせっせとジャバウォックについて論文を書いているくらいだ。
それこそアオヤマ君のように、その謎を解き明かしたい一心で。

ちなみに『鏡の国のアリス』は『不思議の国のアリス』の続編で、二つ合わせて「アリスもの」と称される。
『不思議の国のアリス』はディズニーがアニメーション映画(1951年)にしたことでも有名。
ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』(角川文庫)

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(角川文庫)

ディズニーのアニメーション映画
『不思議の国のアリス』DVD


コミックス
『ペンギン・ハイウェイ』は漫画家の屋乃啓人によってコミカライズされている。
こちらもぜひチェックしたい。ちなみに、Amazonのサイトでは試し読みもできる。
『ペンギン・ハイウェイ』(MFコミックス)

『ペンギン・ハイウェイ』天才少年が解いた謎の名前は、悲しみ。はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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