安蘭けいインタビュー 出演オファー
に飛びついたイプセン『民衆の敵』へ
の強い思いとは

2009年に宝塚を退団後、ミュージカルの舞台を中心に活躍する安蘭けい。最近はストレートプレイに出演することも多く、女優として磨きがかかり輝きを増している。
2018年11月29日(木)から12月23日(日・祝)にかけて、Bunkamuraシアターコクーンで上演される『民衆の敵』に、主人公の妻カトリーネとして出演が決定した。イプセンの作品は『幽霊』に出演して以来2度目。この公演はBunkamura30周年記念ラインナップのひとつで、「シアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で挑む演劇シリーズ」DISCOVER WORLD THEATRE の第4弾となる。
今回安蘭けいに、『民衆の敵』へ出演を決めた動機や公演にかける意気込み、そしてストレートプレイやミュージカルに対する思いについて聞くことができた。
ーー最近の安蘭さんは、ミュージカル、ストレートプレイと、とてもバランス良く出演されていると思いますが、今回『民衆の敵』の出演を決めたきっかけは何ですか?
お話をいただいて、飛びつくように出演を決めました。私はストレートプレイもすごく好きなので、芝居をもっと自分の中で勉強したい、経験したいという気持ちがある中でこのお話をいただきました。
以前『幽霊』に出演してイプセンの戯曲がすごく好きだということはもちろんのこと、堤真一さんや段田安則さんをはじめお芝居の達者な方々と共演できることが光栄で、すぐに「やらせてください」と伝えました。
また、Bunkamuraシアターコクーンという劇場が大好きなんです。もちろん観客として観に行ったりもしますし、以前『ひょっこりひょうたん島』で出演させていただきましたので、「またあの劇場でお芝居が出来るんだ」という思いもありました。
安蘭けい
ーー以前出演された『幽霊』と『民衆の敵』で、同じイプセンの作品でも何か違いを感じていますか?
2つの作品の共通する点から言うと、とても狭いコミュニティの話で、そういうところだからこそ起きる話だと思っています。でも実はその狭いコミュニティだけの話ではなくて、例えば今の日本で同じような事件が起きて、照らし合わせることができる内容であったり、メッセージであったりするなということを、この2つの作品から感じます。
ただ、より『民衆の敵』のほうが社会派の話で、私たちの生活にダブって見えるところが多いなと思います。その点からみると『民衆の敵』のほうがわかりやすい話なのではないかと思います。
ーーすでに台本を読まれたとのことですが、読んだ印象とどんなカトリーネを演じていきたいか教えていただけますか?
最初はちょっと堅苦しくて難しいだろうなと思って読み進めていました。ところがすごく面白かったので台本を一気に読んでしまいました。何日かかけて読むときもありますが、『民衆の敵』に関しては、どうなるんだろう、結局この人たちは最後どっちに行くんだろうなど、ものすごく興味がわきました。ですのでハラハラドキドキという感じではないけれど、舞台でも観ているお客様が役者の誰かに共感して、どんどん話に引っ張られていくんだろうなと想像しています。
私が演じるカトリーネは、堤さんが演じる夫の言っていることに対して、時には意見をし、要所要所で大切なことを言います。実は彼女の言っていることが一番共感を得やすいのではないかと思っていて、特に女性は「そういう選択するよね」とか「そうだよね」って思うのではないかと感じています。
一見夫のうしろに控えて、夫に従っているように見えがちですけど、実は彼女もきちんと舵を取っていて、夫の行く後ろをついていくけど、ちゃんと自分の意思や信念を持った女性なのだろうなと感じています。そういうふうに役を作っていければいいなと思っています。
ーー堤さんが演じる夫は正義感が強いですが、そういう人を夫に持つと妻は時として大変なのではと想像します。そのあたりはどう思いますか?
実は堤さんの役の気持ちがすごく分かるんです。私にも正義があって、それを曲げたくないんですよ。そっちへ行ったらいろいろな敵を作るよ、デメリットがあるよとわかっていても、なかなかそうではない道を選べないので、夫の生き方がよく分かります。
でもその人だけの人生ならいいのですが、家族があって、「そこは守らなきゃいけないよね」と言っているのがカトリーネなんです。「正義を貫くことはいいことかもしれないけど、それによって子どもたちや私たちはどうなると思ってるの?」ということをちゃんと冷静に言える人です。
ただ結局、カトリーネも正しい道を選んで生きていきたい人だと思いますね。最後は夫の言っていることに賛同しますし、きっとカトリーネは失敗しても「この選択ってダメだったのかな」と弱音は言わないような気がします。
安蘭けい
ーーカトリーネは強い女性なのでしょうか?
見るからに強いのではなくて、竹みたいな人かな(笑)。一見柔らかい感じだけど実は誰よりも芯が強い、しなっているけれど絶対に折れない人なのかなと思います。でもそれは人間としてというよりも、母親として強いのかもしれませんね。
ーー主演の堤さんにはどのような印象を持っていますか?
まだ一度お会いしてご挨拶をしただけなんです。テレビや舞台で拝見していると芝居に対して真摯に取り組まれる方という印象ですが、堅苦しくなくすごくユニークなところもあるのかなと感じています。堤さんは関西人でいらっしゃるので、関西人同士通じるものがあればいいなと。
ーー今回の演出は、日本でも活躍されているジョナサン・マンビィさんですが、ジョナサンさんの印象とどんな話をされたか、教えてください。
お会いする前は芝居の演出家なので、固くて難しい方なのかなと思っていましたが、実際にはすごくフランクで気さくに話してくださる人でした。これから役作りのこともいろいろコミュニケーションをとっていきたいですね。
ただ外国の演出家の方は、通訳を介して話をしていく、というのが難しいですね。こちらが英語を話せたら一番よいのですが、ダイレクトに話すことができないところは大変だと思います。だからこそ面白い部分もたくさんありますけどね。
安蘭けい
ーー日本人と外国の演出家では、どちらがやりやすいですか?
やりやすさでいえば、やっぱり言葉が通じますから日本人の演出家です。通訳はいりませんから、時短になります(笑)。でも外国の演出家は、すべての方がそうではないかもしれませんが、言葉が通じない分、とてもダイレクトなんです。言っていることが的を得ていて、一番近い道で導いてくれる気がします。始めに「すごくいいよ」と言ってくれて「でもね、こうだよね」という導き方が、私には合っていますね。
ーーストレートプレイとミュージカルの違いはどんなところだと思いますか?
歌があるのとないのとでは大きな違いがあるなと感じていました。宝塚を卒業して初めてストレートプレイに出演した時に「なんでここで歌えないんだろう。ここで悲しい歌を歌えば、悲しみを表現できるのに」と思ったことがありました。その時にミュージカルってすごいなって思いました。
でもストレートプレイに出演するようになって、歌は必要ないと思えるようになりました。歌がなくても表現できるんだと。また、ミュージカルは歌もあるし世界観もあるから役をデフォルメして作っていきますが、ストレートプレイだとそういうものをそぎ落としてすごくシンプルに舞台に立つことが大切だと思っています。そういうスタイルを発見したのは最近です。
ーー具体的にどの作品でそのスタイルを発見したんですか?
今年の5月に出演したミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』で共演した大竹(しのぶ)さんと風間(杜夫)さんが、すごくシンプルに舞台上にいらっしゃったんですよ。
私の役は伯爵夫人で、自分の中に全くない要素の役なので自分を壊さないと役作りができないと思っていました。でもお二人を見ていたら、本当にシンプルにあり​のままで出ていらっしゃって、それがまたとても魅力的だったんです。ミュージカルでも「シンプル」で伝わるんだというのは、すごい発見でした。いつか私もミュージカルで過剰にしなくても伝わるということをやってみたいですね。
ーー宝塚で星組に組み替えをされた頃、安蘭さんの芝居に深みが出たなと感じましたが、今でも研究をしながら、いろいろな発見をして前に進んでいるんですね。
宝塚は宝塚の型があるので、あの中ではいろいろ成長して考えてそこに至りましたけど、それが今は全く通用しません。あの時は「男性になる」という段階がありましたが、今はそれがなく「自分でいる」ということの難しさを感じています。正解が全然分からないから、これからもいろいろな役者さんを見て研究し続けていくことになると思います。
ーー『民衆の敵』のおけいこで楽しみにしていることはありますか?
これからけいこが始まりますが、この作品に携われてすごく光栄ですし、この作品をいいものに作り上げていく段階がどうなるのか楽しみです。出演される役者さんたちの中で自分がどういう立ち位置で、どういう芝居をするのかということも興味深いですし、いろいろ勉強になり刺激にもなるんだろうなと考えています。
ーーファンの皆さんにメッセージをお願いします。
私たちが生きている時代に当てはまるようなメッセージが『民衆の敵』にはたくさん込められています。観ていただいたあとに、一緒に観た方とお酒を飲んでいろいろなことを語れるような舞台になると思います。楽しみにして観に来ていただきたいです。
安蘭けい
取材・文=吉永 麻桔 撮影=山本 れお

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