音楽家のためのメンタルスキル(5)「
プラス思考」

こんにちは。ドイツ、ハレ在住のピアニスト・ピアノ教育者の大木美穂です。

「音楽のための8つのメンタルスキル」についてのお話しもようやく折り返し。今回は、5つ目の「プラス思考」についてです。
なぜプラス思考が大切なのか
私たち人間は日々さまざまな感情をもって生きています。そして日常生活の中では、感情に左右される場面がたくさんあります。たとえば
相手にイラついてしまい、そのイラつきをそのまま相手にぶつけたところ、さらに悪い展開になってしまった
本番で思わぬミスをしてしまい、自分に腹をたてていたら、次のミスにつながってしまった
などのマイナスの連鎖もあれば、逆に
前向きに考えていたら、次々とよいことが起こった
感謝の気持ちをもって相手と接していたら、相手からも感謝されるようになった
など、プラス思考による連鎖もありますよね。
マイナス思考による負のループを断ち切って、プラス思考によるプラスのループに入ることで、成功する確率も高くなります。
マイナス思考の例
マイナス思考の例には、次のようなものがあります。
練習が嫌い、楽しくない
他人が悪い
環境が悪い
楽器など道具が悪い
やる気がない
自分には実力がない など
プラス思考の例
プラス思考の例には、次のようなものがあります。
練習が好き、楽しい
この機会があることに感謝
他人に感謝
やる気に満ちている
自分ならできる など
プラス思考をトレーニングするには
「どちらかというと元々ネガティブに考える癖がある」という人や、「どんなこともポジティブに考えられる」という人など、人それぞれ傾向はさまざまです。
これらを「生まれつきの性格だから」と片付けるのではなく、考え方のクセに過ぎないと考えるとよいでしょう。
クセ(習慣)なので変えていくには時間と根気がいりますが、日々のトレーニングで少しずつ変えていくことは可能です。
日々のセルフトークを意識する
セルフトークについては次の記事でまた詳しくお話ししますが、簡単にいうと自己会話のことで、「心の中で自分に対し言い聞かせる言葉」のことです。
先ほど例にあげたように、「自分には実力がないから」や「自分にはできない」といったネガティブなセルフトークを、つい心の中で言ってしまう人は、「自分の力を信じている!」「自分ならできる!」といったセルフトークに変えていきましょう。
私がこれまでに実施してきた音楽家へのインタビューや、メンタルトレーニングのワークショップの中でのヒアリングによると、本番前に「〇〇(自分の名前)ならできる!」や「絶対に負けない!」などと鏡を見て自分に言い聞かせている音楽家も多いようです。
1800年代から1900年代前半を生きたフランスの薬剤師エミール・クーエは、このような言葉の力に気付き、自己暗示法による診療を始め、さまざまな治療困難な病気を治療してきました。
クーエは、想像力と言葉の力について、次のように述べています。
想像力と意志が相争っているとき、
勝者は常に想像力の方である
つまり、「こうしたい!」 という強い意志があっても、頭の中で「自分にはできない」と思いこみ続けていると、本当にできるようにはなりません。本番前だけでなく、日頃から意識してポジティブな言葉を自分に言い聞かせるようにしてみてください。
ルーティーンで気持ちの切り替え
スポーツ界における「ルーティーン」といえば、野球のイチロー選手やラグビーの五郎丸選手を思い浮かべる人も多いでしょう。
五郎丸選手がキック前におこなう独特のポーズは、パフォーマンスの前におこなうルーティーンということでスポーツ心理学用語で「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」と呼ばれます。その他、パフォーマンスの後におこなうルーティーンは「ポスト・パフォーマンス・ルーティーン」と呼ばれます。
プレ・パフォーマンス・ルーティーンの効果として、次の4つがあります。
何度も動作を練習することにより、それに続くプレー(五郎丸選手の場合はキック)をスムーズにおこなうことができる
動作に集中することにより外的(歓声・相手の動き)及び内的(不安・心配)な障害を取り除くことができる
動作をおこなうことによりストレスの軽減につながる
動作を通じて、それに続くプレーのリハーサルをするため、プレーの修正をすることができる(キックをミスしたら、次のキックの成功のため動作の途中で調整をする)
(引用元:五郎丸選手のルーティーンを共に進化させたメンタルコーチ 荒木香織さんのブログより)
私がおこなってきた、音楽家へのインタビューやヒアリングによると、音楽家が実際におこなっているルーティーンとして次のようなものが挙がりました。
ジャンプする
ストレッチ
左足から舞台に出る
「負けない」という宣言
鏡を見て「〇〇ならできる」
神へのお祈り など
自分のルーティーンを決めて、その動作を練習し、動作をおこなうときは動きだけに集中しましょう。その動作の中で気持ちの切り替えをすることで、マイナス思考からプラス思考へ修正していくことができます。
プラス思考にするための考え方の例
その他、プラス思考にするための考え方として、私が実際に有効だと思ったものをご紹介します。
緊張感をエネルギーとして利用する
自分の奏でる音楽を楽しみにしている・楽しんで聴いてくれる人たちのことを想像する
自分が現在もっている以上の実力を本番で急に出すことはできないが、自分の現在の実力を把握している限り、それを発揮することはできる
自分が音楽をしている根本的な理由を考える
音楽への愛を思い出す
プレッシャーや集中力が途切れてしまう原因等を、他人や環境のせいにしない
与えられた条件で自分ができることをやる
こういったことを本番前に自分に言い聞かせることで、プラス思考に考える助けになります。
ありのままを受け入れることも大事
日頃からネガティブ思考をプラス思考へ変えていく努力をすることも大事ですが、私たちは人間なので、時にはネガティブに考えてしまったり不安になったりするのは当たり前。
そんなときに「またネガティブになっている。やっぱり自分はダメなんだ」と思う必要はありませんし、つらいときは無理してまで常にポジティブに考えようとする必要もありません。
まずは、ありのままの状態を受け入れることも大事。
受け入れて、感じて、言葉にして、心を整えて。それからまた次に進んでいきましょう。

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