松居大悟、本仮屋ユイカ、石崎ひゅー
いが語る舞台『みみばしる』~「主人
公はリスナー」

公演時間381日、出演者4,185万人———。

FMラジオ局J-WAVEと劇団ゴジゲン主宰・松居大悟がコラボレートした舞台『みみばしる』が、2019年2月 東京・本多劇場を皮切りに、福岡、大阪で上演される。
本作は、松居の担当するラジオ番組「JUMP OVER」(J-WAVE/CROSS FM 毎週日曜23:00~23:54 ON AIR)にて企画が進行。本番まで毎週放送するラジオで稽古や台本・音楽・美術打ち合わせなどを配信し、リスナーと相談しながら舞台を作っていく。
舞台が生まれる過程を381日かけてラジオで公開し、リスナー4,185万人も出演者の一人として舞台作りに参加してもらう “ラジオと演劇の境界を越える”新しい試みについて、作・演出の松居、主演の本仮屋ユイカ、音楽監督の石崎ひゅーいに話を聞いた。
▼多彩な出演者たち。総出演者は4,185万人!?
———オーディション応募総数824名より、俳優、保育士、高校生、庭師、ブロック塀研究家…様々な職業の人が選ばれました。出演者全20人の顔合わせ、いかがでしたか?
松居:顔合わせの自己紹介では一人ずつ“職業”“年齢”“名前”そして“発信者か受信者か”を直感で教えてもらいました。それぞれ定義があって「自分は発信者に憧れている受信者だと思います」など話したいことが膨らんで、長くなりましたね。
本仮屋:「何を言いたいのか分からなくなっちゃったんですけど…」と話しがそれる方が何人続いたとしても、それを松居さんは目をキラキラさせながら、一つ一つメモしていくんです。
松居:楽しかったです。一人一人のことを知ることができるし、聞いている周りの人の様子もおもしろかった。緊張してまったく話せない人、何を考えているのか分からない人、笑顔で頷きながら見ている人、茶々を入れる人と、みんなバラバラでした。
石崎:舞台を観ているみたいでしたもんね。みんなあまりに個性豊かなので、顔合わせで音楽のイメージがついてきましたし、ワクワクしました。遅刻してくる人も何人もいるんですよ。「すいません遅刻しました。よろしくお願いしまーす!」って(笑)。
松居:もう何も演じなくていいよね。そのままでおもしろい。
本仮屋:自己紹介を聞いていると「この人はラジオネーム○○さんだ!」って分かるんですよ。みんな本当に松居さんの「JUMP OVER」が好きでメッセージを送ってきている人たちなんです。本物のリスナーが放送で出演者オーディションを知って応募してくれている。だからもう舞台『みみばしる』は始まっているんですよ!
松居大悟
———ラジオの発信者と受信者がすでにごちゃ混ぜになっているんですね。しかもこれから稽古の様子を「JUMP OVER」で発信する予定。となると、普段から「JUMP OVER」を聞いている人が観劇に来たら…。
松居:鳥肌モノでしょう!
本仮屋:でしょうね。稽古中も公演中もずっとラジオ放送しているので、きっとお客さんの反応によって舞台も変わっていくんです。だから、今からでもラジオを聞いて『みみばしる』に参加できる。
松居:そうですね。お客さんから「あのシーンなおした方がいいんじゃないか」って、メッセージが来たらすぐ直すかも!
———まさに「出演者4,185万人」ですね
本仮屋:しかもラジオを聞いてくれている人が増え続ける限り、『みみばしる』に関わるメンバーも増えていくんですよ。
———いつからでも出演者の一人になれるんですね!
応募は800人以上いたそうですが、どういう基準で選ばれたんですか?
松居:大事にしていたことは二つ。ラジオを愛しているかどうか、と、境界線を越えたいと考えているか。中には職業としての役者さんもいるけれど、参加者全員がこの新しい企画をおもしろがってくれたり、人生で一歩踏み出そうとしてくれている。
ラジオ愛を舞台上で担ってくれる人と作っていきたかったんです。普通のオーディションだったら落ちているであろう人もいます。本当に声が出ないけれどラジオ愛の強い人とか。「ラジオについての愛を教えて」と聞いたら「こんな僕でも受け入れてもらえる、ラジオに恩返しがしたいんです」って本当に小さな聞こえないような声で言うんです。
泣きそうになりました。こういう人が舞台に立ったら、役者では敵わない。みんな普通に生きてたら絶対に出会わない人たちなんですよ。でもこの企画があるからこそ、一緒に1ヶ月過ごし、舞台の上で生きることができる。そのための地図を今、作っています。
▼受信者=ラジオリスナーが主役の演劇
———ラジオリスナーが演劇をするメリットは?
松居:僕は、ラジオと演劇はすごく近いな、という気がしているんです。どちらも、ちょっと危険な媒体。日常のなかでTVや雑誌ほど身近じゃなくて、出会おうとしないとなかなか出会えない媒体だな、と。また、一対一の人間関係が大事な媒体だとも感じています。そんな親和性を感じているので、ラジオリスナーは舞台が好きだと思います。
石崎:ラジオと舞台は“流れていくもの”ですよね。儚い。僕は小さい頃からラジオを聞いてきた人ではないけれど、2012年にデビューして自分の曲がラジオから流れてきた時は、不思議で嬉しい気持ちになった。それは、流れていくからなんですよね。舞台もその時にしか残らない、やり直しがきかないもの。そんな魅力があるんだと思います。
本仮屋:松居さんから聞いたんですけれど、俳優が演技で「ラジオが好き」という熱量は出せるけれど、もともとラジオを好きで聞いている人の熱量には勝てないんじゃないかというのが、リスナーが出演するメリットだと言っていました。そういう人たちのナマのおもしろさはあるんじゃないでしょうか。
プロの俳優だと、すぐになんとなく目指すゴールが共有できて、最短で最高のゴールに向かって全員で走れるんです。でも俳優ではない人たちが集まるとゴールが設定できない。どこに行くかわからないのはとても不安ですが、どこにでも行けるし、どこに行ってもいい。どうなるのかわからない未知数さが、リスナーの人たちとプロフェッショナルの俳優が組む一番のおもしろさだと思います。
本仮屋ユイカ
———本仮屋さんにとっても、俳優以外のいろんな方々と共演することはなかなかない経験だと思います。楽しみや不安はありますか?
本仮屋:今までの自分のやり方を全部壊されちゃう現場になると思います。この企画が終わったら、すごくOSがアップデートされちゃうだろうな(笑)。それに、出会えない人に出会える。舞台という、相手と自分が命綱で繋がっていて相手が落ちたら自分も死ぬ、みたいな場所で、立場やバックグラウンドが違う人と出会えたことは、人生において宝になってくるんじゃないかなと思って楽しみです。
———松居さんは本仮屋さんにどんなことをやってもらいたいと考えていますか?
松居:やっぱり、反撃の狼煙を上げろ、と。
本仮屋:松居さんは私のパブリックイメージを壊したいってずーっと笑顔で言ってくるんです。今までの私とは違うことを求められるんだろうな、と怖いですよ。
松居:そうですね。イメージじゃ無いものを求める方がワクワクします。でも僕はユイカさんを見てイメージを膨らませて台詞を書いているので、これまでのユイカさんではないかもしれないけれど、絶対ユイカさんが持っている要素はあるはずですよ。
———きっと本仮屋さんにとって初めてのことが多い舞台になりますね
本仮屋:多いです。でももしかしたらこの舞台の創り方がスタンダードになるかもしれないとも思っています。今は松居さんが先駆者ですが、5年後には「ああ、みみばしる風ね」とみんなが馴染んでいるかも。だって、こんなにいろんな人を参加者として巻き込みながら舞台を創るってすごくおもしろいから!
今回、たとえ「JUMP OVER」宛にメッセージを送らなくてもラジオを聞いていたら、舞台を観た時に「あのラジオの時のアレがこんなふうにストーリーに反映されてるんだ」って絶対に分かると思うんです。その瞬間、ラジオを聞いていた時の自分の思い出も舞台に重なるので、その人自身の物語になる。そんな舞台、すごいですよ。
松居:普通の演劇は、お客さんは稽古場には入れないけれど、今回はラジオで放送するからお客さんも稽古場に入れる。主人公はリスナーなんです。
▼同世代3人、刺激しあって創っていく
———石崎さんは音楽監督を務めるにあたり、ラジオとコラボするという点で意識していることはありますか?
石崎:“受信者が発信者になる”というテーマなので、僕も、自分が音楽をやり始めた瞬間の気持ちの爆発みたいなものを音楽にできたらいいなと思っています。そしてラジオを聞いてくれている人が「自分も何かを表現したい」と思って『みみばしる』の参加者になってくれたら嬉しいですね。
松居:音楽打ち合わせもラジオで公開放送していきます。音楽は共犯関係で作りたいと思っていたので、音楽の誕生を一緒に楽しみたいですね。どこにたどり着くかわからないけれど、一緒に走ってくれるならひゅーいだと思ったので依頼しました。リスナーの方にとっても、ひゅーいが即興で弾いて音楽が生まれる瞬間に立ち会えるのは、すごく興味深いことなのではないでしょうか?
石崎:僕もそういう瞬間をリスナーさんと共有したいです。普段は一人で音楽を作っているけれど、音楽作りに一番影響するのが、人。人からもらったものが音楽に反映されて曲になる。松居くんと作品作りをすると曲が降りてくるので、一緒にやればやるだけ僕のものにもなるんです。だから最終的には自分のものにしてやろうという思いもあります(笑)。
松居くんともリスナーの方々とも一緒に作っていきたいから、音楽作りをラジオ公開して、メッセージをくれる人がいたらその言葉をキャッチして音楽に反映したいですね。それは、ラジオだからこそできること。
石崎ひゅーい
———音楽のコンセプトは?
石崎:物語のプロットを松居くんから聞いて、僕は「こんなメロディはどう?」と会話をするように作っています。答えがないキャッチボールをしている感覚です。
松居:僕も同じで、そのひゅーいのメロディを聴いて「こうすればいいんだ!」と物語が進むこともある。これまでにない作り方です。相談する中でこっちも変わるので、ワクワクします。
———音楽がストーリーにも影響するんですね。本仮屋さんからも影響を受けていますか。
本仮屋:松居さんは私がパーソナルな話をしている時にメモをしたりしています。私の弱い部分をちょこちょこ集めて作っている気がします。
松居:二人から刺激を受けますね。いい意味で気を使わずにいれるし、歳も近いので、見てきた景色や共通言語も多い。でも本職が違うから持っている言葉が違うことが、すごく刺激になります。みんなで作っているんですよ。キャストがいて、リスナーがいて、みんなで作る大きな円ができあがっていく。演劇を創っている感覚でもないし、音楽でもない。命の塊のような感じです。
———本当に、これまでにない舞台の創り方なんですね。
本仮屋:こうしよう、こうしなきゃ、という縛りが無いんですよ。大人たちが「僕、これやりたいんです!」「やりたいならそうしようか」と言い合ってつくっている。やりたいという純粋な思いだけで形になってきているから、この熱量のまま舞台ができたらすごいことになるんじゃないかなと思っています。
松居大悟、本仮屋ユイカ、石崎ひゅーい
(取材・文・撮影/河野桃子)
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本仮屋ユイカ
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ヘアメイク:平林輝之(アルール)
スタイリング:ナカイマサコ
ニット¥47000/tiit tokyo(The par_k store TEL03-6416-1056)
スカート¥21000/HaQue (Sian PR TEL03-6662-5525)
イヤリング¥9800/STELLAR HOLLYWOOD(TEL03-6805-0390)
※価格はすべて税抜
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石崎ひゅーい
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ヘアメイク:大宝みゆき スタイリング:和田翔太郎
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松居大悟
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ヘアメイク:大宝みゆき

SPICE

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