アニメ「ピアノの森」で学ぶクラシッ
ク(前編)

本コラムにはアニメ『ピアノの森」第1シリーズ・第2シリーズのネタバレとなる内容が多分に含まれます。ご覧いただく際はご留意ください。
一色まこと氏のまんがを原作に制作されたTVアニメ『ピアノの森』の第2シリーズが4月に完結しました。貧しいながらも、森にあるピアノを愛し明るく暮らす少年カイを主人公に、さまざまな登場人物が葛藤と成長を繰り返しながらショパン・コンクールをめざす物語。
この作品を見て「ピアノ習いたい〜!」と言い出すお子さんが急増…したかどうかまでは知らないのですが、クラシック音楽を題材にしながらも王道青春ストーリーとなっており、ろくすっぽ練習せず適当にピアノを習っていたことのある筆者ですら、なんだかもう一度勉強したいような気になってしまうほどでした…。
カイ少年の才能が開花する第1シリーズ
第1シリーズは、カイの通う小学校へ転校生として雨宮修平がやってくるところからストーリーが始まります。修平の父親は世界的なピアニストで、修平自身も本格的なピアノレッスンを受けています。一方、カイは森に捨てられたピアノをおもちゃ代わりに弾いて育っており、ピアノという共通の話題のもとでふたりは友情を育みます。
また、この小学校で音楽教師をしていた元天才ピアニスト 阿字野壮介との出会いが、カイの人生を大きく変えてゆくことになり…。
実はカイが弾いている森のピアノは、阿字野氏が事故をきっかけにピアニスト生命を絶たれ、絶望のうちに捨てたもの。アニメですから、あまり細かいところに突っ込んでは野暮というものですが、それでもひとつだけどうしても言いたい。
森にピアノを捨てたらだめ…!
やんちゃすぎるよ阿字野先生。それはともかくとして、なんでも簡単に再現できてしまうカイが初めて壁にぶつかったのがショパンの『小犬のワルツ』でした。基礎練習を一切していないカイにとって、さすがにショパンの楽曲はテクニックが追いつかなかったのです。ショパンに魅せられ、どうしても『小犬のワルツ』が弾きたいカイは、阿字野氏に教えをこいに行きます。
ワルツ第6番 変ニ長調 Op.64-1 「小犬のワルツ」(ショパン)
コロコロと転がるような音符の運びがきらびやかなこの曲は、ショパンが長らく生活をともにした恋人のジョルジュ・サンドが飼っていた小犬が、尻尾を追いかけてぐるぐるとまわるようすから即興的に作曲されたと言われています。
「ワルツ」とは3拍子の舞曲のことで、いわゆる「ズン・チャッ・チャッ」のリズムを左手が刻んでいます。ショパンが作曲したワルツは全部で19曲ありますが、生前に発表されたものはそのうち8曲しかありません。第6番はショパンの晩年の作品で、小犬のワルツを含む全3曲からなっています。完成度が高く、演奏時間もコンパクトであることから、“ショパンの入門” としてピアノ学習者が最初に取り組むことが多い曲です。
さて、カイの才能にいち早く気づいていた阿字野氏は、『小犬のワルツ』を教えるかわりに、全日本ピアノコンクールに出場するようカイと“契約”を交わします。このコンクールには修平も出場することになっており、ここで初めて修平とカイが同じ舞台で戦うことになるのです。そのときの課題曲がこちら。
ピアノ・ソナタ 第2番 ヘ長調 K.280:第1楽章(モーツァルト)
モーツァルトが1775年に書いた6つのピアノソナタのうちの第2番にあたる曲。なんと、モーツァルトが19歳のときの作品です。「ソナタ」というのは、クラシック音楽においては非常に基本的な楽曲の形式のひとつで、提示部・展開部・再現部という3部から成るものをさします。
当時は現在使われているようなピアノではなく、チェンバロやフォルテピアノが演奏されていた時代でした。どちらもピアノよりも音の持続時間が短い楽器なので、現代のピアノの音から想像される音楽とは、いくらか異なる響きの音楽だったはずです。
ところで作品番号の「K.280」の「K」はルートヴィヒ・フォン・ケッヘル氏の頭文字をとったもので、「ケッヘル280」と読みます。ケッヘル氏はモーツァルトの作品を出版した初めての人物で、その際に全作品につけた通し番号がケッヘル番号として現在も使われています。
修平は教科書通りの完璧な演奏で優勝候補に躍り出ますが、カイのピアノも野生の勘が冴え渡るとでもいいましょうか、不思議な魅力で観客の心を鷲掴みにします。しかし、カイの型破りな演奏はコンクールでは通用せず…。決勝へ駒を進め、優勝を勝ち取ったのは修平でした。
このあと修平が海外留学へ旅立ったり、森のピアノが焼失してしまったりといろいろありますが、ふたりは遠く離れても、お互いの存在を意識し合いながらピアノに取り組みます。そして時は流れ5年後、ふたりはついにショパン・コンクールにて顔を合わせることになります。
舞台はポーランド・ワルシャワへ
ここからがいよいよショパン・コンクール編。本大会前の予備予選には、カイや修平、世界各国から集まった有力な優勝候補たちの姿がありました。
練習曲 ハ長調 Op.10-1(ショパン)
カイの演奏曲のうちのひとつがこちら。1833年に発表された曲集「12の練習曲 作品10」の中の第一番にあたります。ショパンが20歳のときに書いた作品で(モーツァルトといいショパンといい、本当に早熟ですよね)、『滝』の愛称でも親しまれている通り右手の素早い音階演奏が特徴的です。
ショパンの “練習曲” は全部で27個存在していますが、練習曲というネーミングからは想像しにくいほど難易度が高く、同時に作品としての芸術点も高いものばかりです。この曲は腕の筋肉を消耗するため、続く演奏曲への影響が懸念されるほどですが、森のピアノで鍛えられていたカイはなんなく弾ききり、間髪入れずに次の曲へ進んだことで審査員を驚かせます。
本大会への出場を決めた修平とカイ。ふたりの戦いは第2シリーズへともちこされます。
本コラムも後編へと続きます! 引き続き楽曲紹介をおこなうほか、ショパン・コンクールの概要やショパンの生涯についても触れたいと思います。
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