GRAPEVINE 歌と演奏に心を込めるこ
とだけに専念し続けた、ツアーファイ
ナルに見たロックバンドの凄み

GRAPEVINE tour2019

2019.6.28(金)Zepp DiverCity Tokyo
結成から四半世紀。それだけのキャリアを重ねることがロックバンドにとって、決して不利にならずに、それどころか凄みに繋がることを、GRAPEVINEは1曲目から見せつけたのだった。その1曲目とは、今年2月6日にリリースした最新アルバム『ALL THE LIGHT』収録の「こぼれる」。
田中和将(Vo, Gt)によるフォーキーでブルージーな弾き語りに西川弘剛(Gt)がアンビエントな音色を、そして亀井亨(Dr)が若干のリズムとハーモニーを重ね、静けさとそこに漂うやピーンと張り詰めた緊張感も曲の一部として聴かせるその「こぼれる」をスタンディングの1階と2階席を埋めた観客が微動だにせずにじっと聴き入るというオープニングは、演奏に説得力があるからこそ。
その凄みにぐぐぐっと吸い込まれるように気持ちを持っていかれた観客は少なくなかったと思うが、曲の最後に鳴らしたフィードバックの轟音が緊張の糸を断ち切ると、それまで固唾を呑んでステージの3人を見守っていた客席から歓声と拍手が起こった。
GRAPEVINE 撮影=岡田貴之
そこに金戸覚(Ba)と高野勲(Key, Gt)が合流。「こぼれる」の静けさから一転、ホーンを鳴らしたソウルフルな「Alright」、そして「FLY」とアップテンポのロックナンバーをつなげ、バンドの演奏は一気に白熱。その立ち上がりの良さは、ライブバンドとしてのポテンシャルの高さを、改めて印象づけたが、『ALL THE LIGHT』をひっさげ、4月から全国20ヵ所を回った今回もまた、充実のツアーとなったことは間違いない。
バンドはほとんどMCを挟むことなく、アップテンポのロックナンバーからスローバラードまで、『ALL THE LIGHT』の全曲を含む計24曲を披露した。
ところで、近頃、ライブに足を運ぶと、多くのバンドが“自由に楽しんでください”と口にするが、その言葉は案外クセモノで、“自由に”と言いながら、“声を出せ”とか、“タオルを振り回せ”とか、“全力でかかってこい”とか、実は注文が多いことが少なくない。GRAPEVINEもこの日、“それぞれに心地いいスタイルで”と言った。そして、2時間30分、歌と演奏に心を込めることだけに専念し続けたのは、たとえ観客全員が手を振らなくても、踊らなくても、自分たちの演奏はちゃんと観客に届いているし、観客の一人ひとりがそれぞれに受け止めているという自信があったからに違いない。
GRAPEVINE 撮影=岡田貴之
曲が進むにつれ、熱度を増すバンドの演奏に観客の歓声や拍手は、どんどん大きなものになっていったが、その熱気はバンドが煽って、生まれたものではないというところがいい。もちろん、ライブの楽しみ方に決まりはない。これはこの日のライブにフィジカルに楽しむことよりもバンドの歌や演奏を聴きにきた観客が多かったという話だが、楽曲や演奏そのもので勝負した分、トラディショナルな表現とオルタナティヴな感性の合わせ技とも言えるGRAPEVINEの音楽性の、そもそもの魅力が際立ったところはあったと思う。
「I must be high」「光について」といった曲では西川がボトルネック奏法も交えながら、轟音を鳴らして、時にいなたいという表現も使えるほどギターロックの醍醐味を存分に聴かせる一方で、確実にこの日の見どころになっていたのは、金戸がグロッケンシュピール(鉄筋の一種)を叩いた「Big tree song」や高野がシンセをフリーキーに鳴らした「ミチバシリ」、フリーキーかつサイケデリックなインプロを繰り広げた「God only knows」など、ギターロックの範疇に止まらないアレンジにチャレンジした曲だった。そういう曲が決して異色曲にならずにバンドの背骨になっているところに単純に“ベテラン”の一言で語りきれない現在のGRAPEVINEの強さがあると思うのだが、中でも圧巻だったのは『ALL THE LIGHT』収録のアカペラナンバー「開花」。ボーカルエフェクトを駆使して、田中が1人で再現した多重コーラスは、冒頭に書いた凄みに繋がる、この日のハイライトの一つだったはず。
GRAPEVINE 撮影=岡田貴之
この日、バンドは9月26日の中野サンプラザホール公演を含む『FALL TOUR』の開催を告げた。そして、本編の終盤とアンコールを、一層熱を込めた演奏で盛り上げると、“またな!”と田中が客席に声をかけ、ライブを締めくくった。ツアーファイナルと言うには、ひょっとしたらあっさりしていたかもしれない。しかし、逆に特別にしなかったところにキャリアを重ねてきたバンドの矜持が感じられた。
GRAPEVINEはここからまた粛々と活動を続けていく――そこにいる誰もが感じたに違いない。その安心感は案外、バンドのファンにとってとても大事なものかもれない。
取材・文=山口智男 撮影=岡田貴之
GRAPEVINE 撮影=岡田貴之

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