ベビーシッターのマッチングサイト利
用の背景にあるもの

事件の背景には、ベビーシッターのマッチングサイトの利用者が多いことがあります。同種のマッチングサイトはいくつかあります。ベビーシッター側と、それを利用したい側が登録しています。ベビーシッターは子どもを預かるときの時給あるいは日給などの条件を提示しています。また、子どもを預けたい側は、預ける際の条件や注意事項が書かれていたりします。

お互いサイトに登録する際は、身元を保障するようなものはありません。また保育歴や資格の有無について記載するところがありますが、虚偽の内容だとしても、少なくとも書き込み段階では問題になりません、もちろん、名前も...。今回、子どもを預けた母親は、以前にも逮捕された物袋勇治容疑者に預けたことがあったと証言しています。しかし過去に2回ほど、子どもにアザがあった。そのため、母親は子どもも物袋容疑者には預けないようにしていたのです。しかし今回は「山本」と名前を変えていたといいます。

物袋容疑者は、自ら「シッターズネット」という"会社"を作っていました。業務内容は子どもを預かること。ホームページをみてみると、2013年3月25日に開設されています。会社の設立は不明です。代表者は物袋容疑者。スタッフは、物袋容疑者のほか、母親と別の女性の3人です。転職求人サイトにも「保育補助」を募集していた形跡もありました。

一方で、この「シッターズネット」の営業方法はホームページを見て問い合わせを待つという方法と、ベビーシッターのマッチングサイトでの書き込み、とがあったのでしょう。物袋容疑者の名前は複数のサイトに登録されていました。

ただ、今回、事件当初、ちょっとややこしいなと思ったことがありました。この母親と物袋容疑者が出会ったマッチングサイトも「シッターズネット」です。このサイトは6年ほど前から開設されていたからです。物袋容疑者は、このサイトに登録していながら、同名の会社を名乗り、サイトを立ち上げたことになります。

なぜ同名のサイトを立ち上げたのでしょうか。想像するしかないですが、大手のサイトと同じ名前にすれば検索されやすいと考えたのではないでしょうか。またマッチングサイトの関係者と思わせることもできます。ただ、物袋容疑者の「シッターズネット」は検索上位ではありません。私が探すのも苦労しました。名刺代わりにサイトがあることが大事だったのもしれません。

こうしたベビーシッターのマッチングサイトの問題点は、2010年ごろからネット上では話題になっていました。ただこうしたサイトが必要になる背景は、やはり児童福祉の貧困によるものでしょう。待機児童がなかなか解消されない現状があります。朝日新聞の記事に「待機児童、ゼロから231人に 横浜市、再就職や転入増」(2013年12月10日付)という記事があります。

記事によると、横浜市は同年5月に待機児童が「ゼロ」と発表しています。それにより申込数が増加し、「潜在的な待機児童」が3552人になったのです。「ゼロ」と聞いて引っ越しをしてきた人もいます。保育所のニーズが高まっているにもかかわらず、定員が追いついていません。そのため、民間サービスに頼らざるをえず、しかも経済事情からできるだけ安いサービスを探すことになります。それがマッチングサイトだったのです。

厚生労働省はベビーシッターのマッチングサイトなどの実態調査に乗り出すということです。消費税が10%になる2015年度から、ベビーシッターを自宅に派遣する「訪問型」の保育を認可制にして、給付金を出す新制度を始めることはすでに決まっています。ただ無認可のベビーシッターもできることでしょう。

横浜市には「子育てサポートシステム」もあります。地区のリーダー(コーディネーター)が、利用したい会員と、サービスを提供する会員をマッチングさせます。病児や宿泊を伴うものはできません。子どもがけがをした場合の傷害保険などもあります。このシステムが周知されることは必要なことです。もしかすると、マッチングサイトでのニーズを吸収できるものもあるでしょう。しかし、コーディネーターが必要なために、時間がかかることや、時間が限られることなど、ニーズを満たしているわけではありません。

今回の事件は、公的な保育サービスが不十分だということをあからさまにしました。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]

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