清春

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【清春 リコメンド】
初のカバーアルバムに見る
25年目の自負心

比類なきヴォーカルと
自負心を懸けての真っ向勝負

 『Covers』で個人的にもっとも清春のシンガーとしての自負を強烈に感じたのは、「やさしいキスをして」と「恋」の2曲だ。収録曲は誰もが知る名曲なので誰にもはっきりとしたオリジナルの印象があるだろう。また、オリジナルのシンガーは名曲を世に出したプロのシンガーなのだから、その歌唱力は折り紙付きで、どの曲にしても簡単に歌えるものではなかろう。それはそうなのだが、この「やさしいキスをして」と「恋」は格別である。何しろ原曲を歌っているのは吉田美和と松山千春なのだから。ふたりとも、もはや説明は不要だろうが、吉田美和と言えば、DREAMS COME TRUEのリーダー、中村正人がその歌声を初めて聴いた時のことを“雷に打たれた感じ”と評し、“1億パーセント売れる!”と断言したのは有名な話。活動歴40年超の大ベテラン、松山千春は、1時間以上の遅延で離陸しない飛行機内で自身の曲を歌い、機内のピリピリしたムードを和らげたという、ほとんど妖怪のようなエピソードを持っている。

 両者ともにその圧倒的な声量と声圧、そして、その説得力はまさしく比類なきものだ。それをのど自慢で腕試し…ならいざ知らず、自ら歌って、音源を制作したり、ライヴで披露したりするなんて生半可な気持ちでできるわけがない。DREAMS COME TRUEと松山千春の代表曲をカバーしようと考えた清春には、正直言って恐れ入る。だが、清春とてバンドから数えて25年、ソロになってからでも15年のキャリアを誇るシンガーである。自負心を懸けての真っ向勝負であったに違いない。

 …と、ここで個人の感想を述べるのも色気のない話だが、それを承知で「やさしいキスをして」「恋」、それぞれの印象を語らせてもらうと──。《報われなくても 結ばれなくても あなたは ただ一人の 運命の人》というフレーズからしてその内容は決してやさしいものではないことが推測できる「やさしいキスをして」は、エキセントリックにすら感じられる清春のヴォーカリゼーションによって情念が増しているような気がする。「恋」も同様。原曲はコード、サウンドともに如何にもフォークソングといった感じだが、『Covers』版はコードも変え、粗めのギターで昭和の歌謡ブルースにも似たアプローチをとることで、物語の中の悲恋が強調されている印象だ。みなさんはどう感じるだろうか。

OKMusic編集部

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