【この2.5次元がすごい】日常の延長
線上にある戦争を描く 舞台「スタン
レーの魔女」が見せた夢と友情

 舞台を見たあとに階段を登り外に出ると、夏の強い日差しが眩しく、今見たものをじんわりと振り返りたくなる、そんな舞台が「スタンレーの魔女」でした。漫画家の松本零士先生の「戦場まんがシリーズ」として刊行された「スタンレーの魔女」は2006年9月にスペースノイドが初上演し、今回が3回目の上演です。1945年に終戦を迎え、今年は戦後74年。暑い夏の日に観た「スタンレーの魔女」は日常の延長線上に戦争が存在してしまっていたことを感じさせる舞台でした。
 ひんやりとした会場に入ると舞台の上にはひとりのパイロットが座っていました。時が止まっているような空間で、人形が座っているのかと思っていたら開演と同時に動き出し、それが敷井役の石井凌さんだと気がついたときの衝撃。そしてその衝撃に引き込まれるように太平洋戦争中のニューブリテン島での物語が始まります。
戦争が日常にあることを実感させるテンポの良い若者らしいやり取り
 主人公は「落ちこぼれ」航空隊員と呼ばれ、出撃のチャンスもない若者たち。毎日空を見上げながら仲間同士で冗談を言い、夢を語り合って過ごしている彼らは現代を生きる私たちと何も変わらないように感じます。ふるさとに残してきた恋人へ手紙を書いたり、夕食のカレーライスを楽しみにしたり、喧嘩をしたり……その会話のテンポの良さと楽しい会話はどこまでが台本でどこからがアドリブなのかもわからないほど。オフィシャル会見で石井さんは「出演者みんなが自由に動くお芝居なので、セリフは一緒でも感情の流れとかが全公演違う」と公演の見どころについて話してくれました。
 戦争がテーマだということを忘れてしまうほどに彼らの会話は楽しく、それはまるで現代の高校生や大学生の合宿風景を覗いているようでした。そんな中ふいに彼らが語る夢や空への憧れ。主人公の敷井は航空探検家ファントム・F・ハーロックの自伝を何度も読み、彼が乗り越えることができなかった「スタンレー山脈」へ挑戦することを夢見ていました。彼らは誰も戦争をしたかったわけではなく、時代が戦争をしていたから空を目指して戦闘機に乗っているのか……そう気がついた時にザワっと身体が寒くなりました。
想像力を掻き立てる動きのある舞台装置や演出
 もちろん戦闘機が登場するこの舞台。舞台上に冒頭から設置されていたセットたちがみるみる戦闘機に姿を変え、敷井たちも戦闘服に着替えると一気に緊張感が会場を包み込みました。そこから空を飛び、ハーロックが越えられなかったスタンレー山脈を越え、連合軍と対峙する敷井たち。照明や音響が緊張感と残酷さを表現しているようです。
 はっきりと残酷なシーンを表現しているわけではないのに、緊迫感のある演技が過酷さを伝えてくれ、見ているのが辛いほどでした。生き続けることが当たり前ではないシチュエーションで、友情や夢、何を最後まで諦めたくないのか選択させられる彼らの姿に客席では涙した人も多かったようでした。出戻役の唐橋充さんはこの作品を「戦争の“生”の部分だけを描こうとして、でも同時に“死”の部分も描かれる。そんな戦争もの舞台です」と話してくれましたが、まさにそれが戦争なのかもしれません。そんなことを考えさせられる舞台「スタンレーの魔女」。とてもいい作品に出合うことができました。

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