【マリアンヌ東雲 インタビュー】
作家とマリアンヌの個性が
異化作用を起こす
“変態ヴィンテージエレクトロ”な
ソロ初作
山奥のスタジオだったので
蝉を追い払って録音したり(笑)
マリアンヌさんのソロとして注目されるのはもちろん、松石さんの才能も表に出る作品だと思いました。
そうですね。ゲルさんの鬼才っぷりが随所に表れているのではないでしょうか。そういったところもキノコホテルの作品とは違う部分かと思います。バンドをやりながらソロを出す方って、バンドでは周りとの調和を重視していろいろなことを我慢していて、ソロで自分らしさをアピールされることが多いような気がするのですが、私の場合はもともとバンドで我を通しまくっているわけで、それって実にエネルギーを使うんですね。なので、逆にソロでは一歩引くというか、力まずに臨みたいと思って。実際そのようにできたと思います。ゲルさんにも随分いろいろなことをお願いしましたし。
では、「MOOD ADJUSTER」以外にシンガーとして楽しめた楽曲というと?
どうでしょうね…キノコのツアーと並行しての録音作業だったので、十分に歌いこなせるようになる前に本番の録音を迎えることになってしまったのもあって、自分の歌の限界を思い知るきっかけにはなったかも(笑)。自分が歌うということに対して、いかに思い入れや執着を持たずにこれまでやってきたかを思い知らされたんですよね。つまり、甘かったと(笑)。歌入れは結構苦労しました。
半田健人さん作詞作曲の「ガラスの時間」もびっくりです。80年代歌謡と言えるかと。
あぁ、そうですね。半田くんは確実に確信犯的にこの曲を書き下ろしてくれたんですが、ならば彼の想定とは異なるであろうアレンジを施してやろうと。そんな応酬の結果、懐かしくもどこか新しい世界観が出来上がっていると思います。
時代が錯綜するというか、いろんな時代を思い出す曲が多いです。あと、「プールサイド・プリテンダー」の声色の演出も。
アルバムコンセプトを詰める段階で、ゲルさんから平山みきさんの「鬼ヶ島」というワードが出たりしていたので。実際に「鬼ヶ島」を意識して書いてくださった曲みたいで。だから、わりとプラスチック感というか、そういったものを意識してます。
実際の声質が似てらっしゃいますよね。
恐縮なんですけど、私は平山みきさんの声に若い頃からずっと憧れていて。みきさんの曲はキノコホテルでも何曲かカバーさせていただいてるんですよ。なので、この曲に関しても完全にそのノリで歌ってみました。
平山さんの「真夏の出来事」がプールサイドで実際に流れていたりしたので、すごくはまりました。
遊園地のプールや海の家のでスピーカーから聴こえてくるみたいなイメージもありました(笑)。今回、車がないととても辿り着けないような愛知県の山奥にあるゲルさんのスタジオに滞在して歌を録ったんですけど、その周りの何にもない景色だとか、暑かったあの季節…日中は蝉の鳴き声がすごくて。レコーディングを妨害するぐらい鳴いてるから、ゲルさんが蝉を追っ払いに行ったり…夕方になると今度はヒグラシが鳴き出して。そういう真夏の原体験が凝縮された曲ですね。「プールサイド・プリテンダー」を聴くと、あの愛知の山奥を思い出してしまいます。プールはそこにはないんですけど(笑)。
「漂流のサブタレニアンズ」も難易度が高そうですね。
難しいです(笑)。でも、何回か歌って会得できた時にすごく気持ちが良かった。最初にデモをいただいた時に“なんと覚えにくい曲なんだ!?”と。ゲルさんにもそのようにメールを返した記憶があるんですよ。“これ、譜割が厄介ですね”って。何回か歌ってコツが分かってくるとすごい楽しくなってきたんで、せっかくだからゲルさんにも歌ってもらってデュエットになったという(笑)。「MOOD ADJUSTER」みたいな曲を書くかと思えば、こういう曲も書けるところが流石だなと。
この曲はフレンチというか、ゲンスブール的なイメージが沸きました。
まさにそうですね。それもあってゲルさんに歌っていただきました。自分が歌を入れるまでそのアイデアはなかったんですけど、もっとエロくしたいと思って。でも、あくまで洒脱なエロスで、下品じゃないのがいいと思うんです、我ながら。今のJ-POPではなかなか醸し出せないムード感ではないかと。近い将来、廃れていってしまうんじゃないかと思うんですよ。こういうアンニュイな空気感って。
で、こんなにイチャイチャしてたのに「絶海の女」で別れに至るという怖いエンディングで(笑)。
《断崖の流刑地》とは(笑)。完全に妄想200パーセントの世界です。情景が浮かぶような。サウンド作りを意識した感じはあります。目の前に流氷が見えるような寒々しさ…。
でも、ビートはレゲエという(笑)。
あははは。ゲルさんからいただいた曲がそれぞれ変態度が高いので、自分なりの変態返しというか。
ちなみに、どんな方にこのアルバムを聴いてほしいですか?
そうですねぇ…キノコホテルに対して苦手意識を持っているような方に聴いていただきたいというのもあるんだけど、これに関してはある程度の年齢を重ねて、いろんなものを聴いてきた方とそうでない方で評価がキノコホテル以上に分かれる気がしていて。まぁ、その反応を見て楽しみたいというのはありますけどね。
取材:石角友香
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アルバム『MOOD ADJUSTER』2019年11月6日発売
ビクターエンタテインメント
『マリアンヌ東雲ソロアルバム発売記念ライブ「マリアンヌ東雲とG.S.P」』
11/09(土) 東京・下北沢CLUB Que
11/30(土) 大阪・堺ファンダンゴ
12/01(日) 愛知・名古屋得三
『キノコホテル・デビュー10周年記念大実演会』
[2020年]
2/11(火) 東京・渋谷TSUTAYA O-EAST
マリアンヌシノノメ:2007年6月、謎めいた女性だけの音楽集団・キノコホテルを創業。10年2月に1stアルバム『マリアンヌの憂鬱』でデビュー。定期的な単独公演ツアーや各地ロック・フェスティバル、アジア、ヨーロッパ公演など、常に休むことなく精力的に活動中。パンク/ニューウェイヴ、ディスコ/R&B、サイケ/プログレ、往年のポップス/ロックンロールなど、さまざまなサウンドを昇華した濃厚な音楽性で、老若男女、メジャー&アンダーグラウンドを超えて幅広く浸透しており、その中毒性は高い。バンド活動以外にも各方面への楽曲提供やトークイベント開催、モデルやナレーションもこなすマルチな才女。マリアンヌ東雲 オフィシャルTwitter
アルバム『MOOD ADJUSTER』
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