向井理×倉持裕インタビュー 倉持ワ
ールドに向井が初挑戦する、嘘が嘘を
呼ぶブラックコメディ『リムジン』

映像作品で常に話題作に出演するだけでなく、舞台作品にも精力的に取り組んでいる向井理。しかも、蓬莱竜太作品(『星回帰線』2016年)や赤堀雅秋作品(『美しく青く』2019年)に出演してナイーブな演技を披露し小劇場演劇好きのツボを刺激したと思えば、その一方で劇団☆新感線の『髑髏城の七人』(Season風、2017年)ではクールで妖艶な無界屋蘭兵衛役で殺陣にも挑戦。作品ごとに違うスキルを着実に身に付け、舞台役者としての輝きも増す一方だ。最新舞台『リムジン』は向井からのラブコールが叶った形となる、初めての倉持裕作・演出作品となる。
とある架空の小さな田舎町。主人公の男が自己保身のためについた、小さな嘘。その嘘が次の嘘、さらに次の嘘を呼び、やがて逃げ場のない窮地にまで追い込まれていく男と、その妻。ブラックな展開を笑いつつ、サスペンス色にハラハラもできるコメディ作品となる予定だ。
果たしてどんな舞台になりそうか、向井と倉持に語ってもらった。
ーーそもそもは、向井さんのほうからぜひ倉持さんとご一緒してみたいとお話しされていたのだとか。
向井:僕の姉に、片桐はいりという人がいまして(向井は2013年の舞台版と2014年の映画版『小野寺の弟・小野寺の姉』にて姉弟役で共演)(笑)。はいりさんから「倉持くんの作品はいいよ」と、以前から聞いていて。それで僕も観に行かせていただいたら、コメディなもの、シリアスなもの、いろいろな作品をすごく丁寧に作られていて。そして実際にお会いしてみると、倉持さんは優しそうで厳しそうな人、という印象でしたね。インタビュー記事を読むと「結構、言うなあ!」って思うことも多いですし(笑)。
倉持:ハハハ、結構、言うんです(笑)。僕としては、向井くんがちょっと興味を示されているぞという噂を聞いたので、その真偽を確かめようということでまずは一度一緒に食事をしたんです。その時に、こんな芝居をやろうか、こういうのはどう思う? といろいろ話して。もともと自分がやりたいと思っていた芝居のアイデアの中に、向井くんに合いそうな話があったので、今回はそれを下敷きにしつつ今、脚本を書いています。小さな嘘をついてしまい、それを隠すためにまた嘘をつき、どんどん雪だるま式に膨らんでいってしまう、という。それを夫婦の話として、芝居にしたいと思ったんです。
倉持裕
ーー向井さんと水川あさみさんが、その夫婦役ですね。その物語のどういう点が向井さんに似合うと思われたんでしょうか。
倉持:その夫の役を向井くんが演じたらピッタリだと思ったんです。ご覧の通り、向井くんは容姿からしてスマートな印象で、洗練されている感じもあって。そういう人が実は仮面をかぶっていて、内心では心臓バクバク、嘘がバレそうでハラハラしているという姿って面白そうじゃないですか。今回、今まで自分がやってきた類のコメディとは違うものができそうだなと思っているんです。つまり、ブラックなコメディですね。向井くんにこういう役を演じてもらうのもいいなと。だって、この人ならすぐドキドキしそうと、容易に想像できてしまうとつまらないですから。そうは見えない人のほうが、追い詰められるとより面白くなる。そこが、このタイトルにもかかっているんです。向井くんってなんかこう、“リムジン”のように優雅にスーッと、人生を真っ直ぐ走っていそうじゃないですか。
ーーこのタイトルは、そういう意味だったんですね(笑)。
倉持:外見的にはそういう印象なのに、中身がのっぴきならないことになっているというね。それは夫婦ともどもで、水川さんも合わせてすごく表向きはニコニコしているんだけど心の中で「さあ、次はどうしよう?」って必死になっているというのが、ドラマティックに見えるかなと。
ーー役者としての向井さんの印象は、どう思われていますか。
倉持:派手も地味もできる人だという印象があります。容姿のことばかり言うのもなんですけど(笑)、本当にすごくカッコイイじゃないですか。それなのに、どんな役でも成立させられるんですよね。はいりさんと姉弟を演じた作品も観ていますけど、あれもそうでした。この二人がまさか姉弟には見えないとはならない。よくあるじゃないですか、いやいや、この人が平凡な男? とか、どこにでもいる男女にはとても思えない、とか。だけど向井くんが演じる役はそうならず、どんな役でも成立させちゃうし、新感線に出ればああいう役もきちんとできちゃうから。すごい役者さんだな、と思います。
ーー今回、妻の役に水川あさみさんをキャスティングした理由は。たとえば、どんなところに魅力を感じていますか?
倉持:まず、声が好きなんです。形容しがたいけど、ちょっと鼻にかかったようなというか。それと実は、20年くらい前だったか、僕が初めて脚本を書いたテレビドラマに彼女はヒロインとして出ているんです。
向井:へえ、そうだったんですか。
倉持:その頃から、この子のお芝居はいいなあと思っていたんです。周りがわりとわかりやすい明確な芝居をする中で彼女はすごくフラットで、表面ではなく内面を大事にしているように見えた。それで、まだ若いのにこの子はいいなと思っていたらみるみるうちに売れていったんですよ。そんな縁もあったわけで、ここで再びご一緒できるのもうれしいです。夫婦役としても似合いそうだし、向井くんがちょっとした罪を犯した時点で正直に答えようとするのを、彼女が「隠し通しましょう、私がなんとかするから」と言い出す絵もすんなりイメージできましたね。
ーー向井さんは、水川さんと夫婦役ということに関してはいかがですか。
向井:水川さんは、本当にすごく明るい方ですし、感情の起伏もあまり激しくなくて、いつもニコニコしているんです。僕が今回演じる役は、わりとどこにでもいる小市民的というか気の小さい男で、その男を引っ張ってくれるような奥さん、という関係性になるのかなと思います。そういう意味では水川さんのことは20代の頃からよく知っていますし、今回のビジュアル撮影の時も全然久しぶりという感じではなかったので、きっとすごくいい戦友になれるだろうなと思っています。
『リムジン』ビジュアル
ーー先ほど、今回は小市民的な気の小さい男の役だとおっしゃっていましたが、ちょっとダメなところがあったり、ちょっとズルかったりする男を演じることも意外と多いですよね。
向井:最近は、そういう役を悩みながら演じることに意味があるんじゃないかなと思うこともあるんです。安心しないでずっと悩みつつやるほうが難しい。得意なことで結果を出し、それをずっとやり続けていたとしても、観る側はどう思うんだろうなって。それは逆に自分が観る側にいる時によく考えますね。つまりどこかズルいとか、取り繕っていることとかに違和感を常に感じながら演じたり、正解を自分でハッキリと見つけないほうがもしかしたらいいのかもしれないとか。いろいろな舞台を観ていく中で、そんなことをなんとなく最近思っています。でも、自分自身が演じている時には、そういうことは正直よくわからないんです。そんな余裕もないですしね。ただ、前回の赤堀さんの作品の時は「全然わからないです」という話を稽古中にさんざんしました(笑)。本番始まっても「ちょっとごめんなさい、わからないです」って言っていたら、赤堀さんは「いいんじゃない、それで」って言っていました。安心できないまま、やり続けるのは辛いですけど、だけど役者が辛くないと観ているほうが面白くないとも思うので。そんなわけで舞台は毎回、挑戦するつもりでやっています。
ーー映像のお仕事もたくさんやりながら、コンスタントに舞台にも出られているのはそういう想いが動機でもある。
向井:そうですね。映像だとどうしても時間の関係があったり、自分が意図していないところを使われることもあったりして、それが別に不満だというわけではないんですが、その点は舞台と全然違うものなので。演劇、お芝居としては特に変えているつもりはないですが、でもどこか映像の時はわかりやすくとか、置きに行くことを求められたり、自分でも無意識のうちにそれをやっていたりすることも多々あります。だからそういった感覚をそぎ落とすためというか、一度お芝居の原点に戻ってリセットしたいと思うので、それで演劇はやり続けていたいと思うのかもしれません。
向井理
ーー演劇が好きだから、という気持ちもあるのかなと思いますが。
向井:好きという気持ちも、もちろんありますけど。それより修行という感覚のほうが強いです。やりたいからやるというより、やらなきゃいけないからやっているというか……。だからやらなくてもいいよと言われたらやらないかも、そのほうがラクなので(笑)。だって人生で、こんなに緊張することは他にないですし、本気で震えが止まらないこともいっぱいありますから。でも、今はそういう刺激も大事なんだなと思います。
ーー倉持さんとしては、向井さんに今回の役を演じる上でどんなことを大事にしてもらいたいと思われていますか。
倉持:取り繕うお芝居が面白くできれば、ということかな。周りから求められるものを一生懸命演じる姿というか。この芝居の世界では、この夫婦はきっと周りから「彼らはいつもスマートだな、洗練されているな」と思われているんじゃないかと思うんです。そう思われているから、そういう夫婦を演じなきゃと、二人は一生懸命演じて取り繕っている。思っていることと違うことを表現する、これは演技そのものもそうなんだけど。表面に出していることと、内心思っていることは違うんだということがうまく出せたら、そしてそれが悲しく見えたり笑えたりしたらいいなと思っています。
ーー演出面では、どんなことを考えていらっしゃいますか。
倉持:コメディな部分をずっと持ちながらも、怖いところは怖くしたいなと思っています。嘘がバレそうになったり、あまり具体的には言えないけど死体が出てくるかもしれないし、それが発覚してしまいそうになる瞬間の見せ方とか。単にセリフで「バレそうだ」って言うのではなく、視覚的に何かうまく表現できたらと思っています。
ーーということは、サスペンス要素も?
倉持:ありますね。そこも押さえておかないと笑えないというところもありそうだし。さっき向井くんから小市民という言葉が出たけど、観客も「自分もこの状況に追い込まれたら、同じことをしてしまいそうだ」と思えたら、そういうピンチの場面もより怖く感じられそうですよね。
ーーちなみに、水川さん以外のキャストに関するお話も伺っておきたいのですが。
倉持:田口トモロヲさんと小松和重さんとはご一緒したことがありますから、既に信頼関係もありますし。まず、トモロヲさんは権力者というかちょっといい立場にいる人で、トモロヲさんがそういう立場だとトボけた感じもあっていいですね。その後任に、向井くんが推薦されることになるわけなんですけど。小松さんは陥れられちゃうほうの役回りです。小松さんのあの満面の笑み、顔面全体でガーッと笑うじゃないですか。ああいう人が陥れられると一段と可哀想に見えそうですよね。青木さやかさんは今のところ小松さんの奥さん役として考えているので、陥れられるほう。ちょっとヒステリックになったりするところも面白そうだし。「あんた、絶対騙されてるわよー」みたいな(笑)。宍戸美和公さんはトモロヲさんの側にいる人で、秘書みたいな役になりそう。でもちょっと怖い人でいてほしくて、きっと彼女が一番に夫婦のことを見抜くことになるんじゃないかな。宍戸さんが無表情で立っていると怖そうだし、淡々と追い詰めていく感じもいいですよね。田村健太郎くんとは、わりと古い付き合いなんです。出会ったのは代役として来てくれた時で、芝居がうまいなってその時から思っていて。今のところ田村くんの役は、バリバリ仕事してきたんだけどちょっと都会の生活に疲れ、郊外の町に来た人なんだけど、なぜか向井くんのほうが田村くんに嫉妬する展開にしたいんです。普通は逆だろって思われそうだけど(笑)、そのアンバランスさが面白いことになりそうですから。
ーー向井さんは、みなさんそれぞれにどんな印象をお持ちですか。
向井:トモロヲさんと田村さんとは今回が初めましてで、あとの三人とは面識があったり共演したりしています。小松さんとは、去年初めてドラマでご一緒したばかりで、終わった時に「また来年!」って言って別れました(笑)。青木さんのことは舞台で拝見することも多くて、とても器用だと言うと失礼かもしれませんが、いろいろな表情とセリフまわしで笑いも取れるし、なんだか武器を持たれているなというイメージがあるんです。宍戸さんとはコメディのドラマでご一緒したことがあって。その時が初めてだったんですけど、コメディならではのテンポとかスピード感がやっぱりすごい人でした。だけど、水川さんも含めて舞台で共演するのは全員初めてなので。映像の場合はどうしてもその場の瞬発力は必要だけど、短時間での付き合いにはなりますから。でも演劇の稽古だと長時間だし、それに今回は地方公演も多いですから一緒に旅ができるというのもすごく楽しみです。これが、いい出会いになればうれしいなと思っています。

(左から)倉持裕、向井理
ヘアメイク:晋一朗(IKEDAYA TOKYO)
スタイリスト:外山由香里

取材・文=田中里津子 撮影=安西美樹

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